ERS2026ステートメント:呼吸器疾患に対する超音波ガイドインターベンション
2026年 07月 03日
Hassan M, et al. ERS Statement on ultrasound guided interventions in respiratory disease. Eur Respir J. 2026; doi:10.1183/13993003.01902-2025.
1. 経皮的胸部インターベンションでは、原則として超音波を用いる。超音波ガイド下手技は、成功率を高め、気胸・出血などの合併症を減らし、医療コストを低下させる可能性がある。
2. 新規胸水を認めたら、まず超音波で片側性・両側性、穿刺安全性、隔壁・被包化、胸膜肥厚、胸膜結節を評価する。胸水の存在確認だけでなく、病因推定と次の手技選択に使う。
3. 新規の原因不明胸水では、超音波ガイド下胸腔穿刺を行う。悪性胸水、胸膜感染、結核性胸膜炎、漏出性胸水が疑われる場合も診断的穿刺の適応になる。
4. 既知の原因がある胸水でも、臨床経過や画像所見から別病因が疑われる場合は、超音波ガイド下に再評価・穿刺を行う。
5. 心不全を示唆する両側性・無隔壁性胸水では、臨床像と整合すれば侵襲的検査を避ける。ただし、片側性、巨大胸水、胸膜痛、発熱、非典型像があれば穿刺を検討する。
6. 悪性中皮腫が疑われる、大量胸水、胸水細胞診の感度が低いと予測される状況では、胸水穿刺だけでなく、初回から胸膜生検の併用を検討する。
7. ルーチンの胸水検査で診断できない滲出性胸水では、超音波ガイド下胸膜生検を検討する。特に壁側胸膜肥厚3 mm以上、胸膜結節、CT/PETで悪性が疑われる病変、高度の結核疑いでは生検適応が強い。
8. 片側性漏出性胸水が治療に反応しない場合も、単純な漏出性胸水として扱い続けず、胸膜生検を含む再評価を考える。
9. 胸腔鏡に不適なフレイル例、少量胸水例、強い隔壁形成例、肺が胸壁に癒着している症例では、超音波ガイド下胸膜生検を低侵襲な代替手段として検討する。
10. 胸膜直下にあり、超音波で描出できる肺病変では、超音波ガイド下肺生検を検討する。深部病変、含気肺に遮られる病変、すりガラス主体病変はCTガイド下生検や気管支鏡的アプローチを優先する。
11. CT/PETで悪性が疑われる胸壁病変、皮下病変、頸部・腋窩・乳房周囲リンパ節は、到達しやすい標的として超音波ガイド下生検を優先的に検討する。
12. 肺癌疑いでは、頸部・鎖骨上リンパ節を超音波で積極的に検索する。非触知性でも病的リンパ節が見つかれば、気管支鏡、CTガイド下生検、縦隔鏡より低侵襲な診断経路になり得る。
13. 頸部リンパ節の超音波ガイド下生検は、放射線科主導でも呼吸器医主導でも高い診断率が報告されており、分子検査にも十分な検体が得られることがある。肺癌の診断・病期診断を短縮する手技として位置づける。
14. 胸壁から描出可能な前縦隔病変や傍胸壁縦隔病変では、超音波ガイド下コア生検を検討する。診断率は高く、外科的生検より合併症が少ない可能性がある。
15. 胸膜感染では、超音波で隔壁形成、被包化、残存胸水腔を評価する。単純な傍肺炎性胸水では超音波ガイド下胸腔穿刺を行い、複雑性胸水・膿胸では超音波ガイド下ドレーン留置を行う。
16. 胸膜感染でドレナージ後も胸腔内残存がある場合は、超音波または他の胸部画像で排液不十分を確認し、胸腔内酵素療法またはVATS/外科治療を検討する。
17. 悪性胸水では、症状緩和目的に超音波ガイド下で大量治療的胸腔穿刺を行う。再貯留したら、超音波で胸膜癒着可能性と非膨張肺を評価して、胸膜癒着術か留置型胸腔カテーテルを選択する。
18. 留置型胸腔カテーテルは、悪性胸水で入院を避けたい患者、胸腔鏡下タルク散布との併用、胸膜生検後に大量胸水がある場合、タルク癒着術不成功後、非膨張肺が疑われる場合に検討する。
19. 非悪性胸水に対する留置型胸膜カテーテルは選択例に限る。心不全、肝性胸水、腎不全による難治性漏出性胸水では、12週時点の症状改善が反復胸腔穿刺と同等で、IPCでは合併症が多かったためである。
20. 胸腔ドレーンは、症候性胸水、症候性気胸、胸膜感染、胸腔内治療薬投与の経路として用いる。胸膜感染では、小口径ドレーンを第一選択としてよい。
21. 胸腔感染では、小口径ドレーンで治療失敗率や死亡率が大口径ドレーンより悪いとは示されていないため、超音波ガイド下小口径ドレーンを初期戦略とする。
22. 悪性胸水で胸膜癒着術を予定する場合は、超音波ガイド下に安全に挿入できる範囲で、14–18 Fr程度の比較的大きいドレーンを考慮してよい。ただし、大径化は疼痛増加と関連し得るため、症状、癒着目的、出血リスクを含めて選択する。
23. 肺膿瘍に対する経皮的ドレーン留置は、標準治療不成功例に限定し、気管支胸膜瘻リスクを踏まえて多職種で判断する。
24. 胸腔ドレーン挿入では、「安全三角」だけに依存しない。超音波で横隔膜、肝臓、脾臓、肺癒着、胸水腔の深さを確認し、その患者に固有の安全な挿入部位を決める。
25. 胸腔鏡前には超音波で胸腔アクセスの可否、挿入部位、癒着、隔壁、必要時の気胸誘導を評価する。少量胸水または胸水なしの胸膜病変では、肺スライディングの確認が重要である。
26. 局所麻酔下胸腔鏡を行う場合、気胸誘導後に肺が胸壁から離れる必要があるため、超音波で肺スライディングが保たれていることを前提条件として確認する。
27. 胸膜生検では、可能な限りリアルタイム超音波ガイドを用いる。リアルタイム法とマーキング法の直接比較データはないが、タスクフォースは全員、経皮的胸膜生検でリアルタイムガイドを用いている。
28. 胸腔穿刺・胸腔ドレーンでも、リアルタイム超音波ガイドを優先する。特に少量胸水、隔壁形成胸水、ICU、人工呼吸器患者では、マーキング法より安全性と成功率が高い可能性がある。
29. マーキング法を用いる場合は、超音波評価直後に同じ体位で穿刺する。時間経過後または体位変更後の穿刺は、気胸リスクを上げる。
30. 超音波ガイド下胸腔穿刺は、盲目的穿刺より成功率が高く、気胸と出血を減らす。文書内では成功率96–100%、胸腔ドレーンを要する医原性気胸は一般に2%未満と整理されている。
31. 抗凝固薬・抗血小板薬使用中または凝固異常がある患者では、超音波を使っても出血リスクは消えない。未補正の出血リスク下で胸腔ドレナージを行うのは原則として緊急時に限り、患者とリスク・ベネフィットを共有する。
32. 肺癌疑いの肺・リンパ節病変では、FNAとコア針生検はいずれも有用で、両者併用により診断率が上がる場合がある。良性疾患やリンパ増殖性疾患では、コア針生検の収量が高い傾向がある。
33. 胸膜病変ではFNAとコア針生検の直接比較データはないが、薄い胸膜、肋骨陰影、肺実質近接などの技術的理由から、コア針生検を基本に考える。
34. 超音波ガイド下胸膜生検は、診断率80–95%程度、重大合併症が少ない手技として用いる。ただし、分子プロファイリングに十分な組織量が必要な場合は、胸腔鏡やCTガイド下生検も早期に検討する。
35. 超音波ガイド下末梢肺病変生検では、胸膜接触長が十分な病変を選ぶ。目安として、20–50 mm程度、胸膜接触長1 cm超、少なくとも4回程度のパスが可能な病変が適している。
36. 10 mm未満の胸膜接触性肺病変では、診断獲得確率と気胸リスクのバランスが悪いため、超音波ガイド下生検の適応は慎重に判断する。
37. 造影超音波は、壊死、血管、病変境界を可視化できるため、胸膜・肺・縦隔病変の生検標的選択に有用である。通常超音波で壊死や非均一性が疑われる病変、既回生検陰性例で特に検討する。
38. 携帯型超音波は、大きな胸水の確認、単純胸腔ドレナージ、呼吸器病態のrule-inには有用である。一方、画質、モード、画面サイズに制限があるため、胸膜生検・肺生検など高度手技の主装置としては推奨しにくい。
39. 胸膜・肺生検直後の気胸評価には超音波を用いてよい。lung sliding、B-line、lung pulseがあれば気胸を否定しやすく、lung pointは特異度が高い。
40. 肺生検後は、直後超音波だけで終えず、2時間後に超音波または胸部X線で遅発性気胸を評価する。
41. 手技は、可能であれば専用手技室で行う。清潔環境、滅菌、十分なスペース、機器配置、患者・術者・プローブ・針・画面の直線配置がリアルタイム手技の安全性を高める。
42. 胸膜手技では、手技前後のチェックリストを使用する。チェックリスト導入により合併症が8.3%から1.5%に低下した報告があり、タスクフォースも普遍的使用に同意している。
43. 教育では、単純な経験件数ではなく、シミュレーション、チェックリスト、OSCE/OSATS、DOPSなどを組み合わせてコンピテンシーを評価する。
44. 胸腔穿刺、胸腔ドレーン、超音波画像評価、針操作は別々の技能として評価する。胸腔ドレーン挿入能力と超音波実施能力は分けて確認すべきである。
45. 研修では、ファントムやシミュレーターを用いた訓練を行う。シミュレーションは知識、技術、手技時間、自己効力感を改善するが、独立実施に必要な明確な症例数は定義されていない。
46. 患者説明では、手技の必要性、代替法、合併症、痛み、術後の見通し、術者経験を明確に説明する。専門用語を避け、口頭説明と文書説明を併用し、必要に応じて家族同席を勧める。
47. 手技中は、次に何を行うかを段階的に説明する。患者は、医療者が処置中に説明しながら進めることを安心材料と捉えている。
48. 病棟処置では騒音、プライバシー、空間不足が問題になり得るため、可能であれば手技室での処置を提示する。37名中21名、57%は手技室で処置を受けていた。
49. 胸腔ドレーンでは、十分な局所麻酔、固定の説明、抜け落ちへの不安対策、睡眠時体位の助言を行う。小口径ドレーンは疼痛軽減の観点からも有利な可能性がある。
50. 今後の研究課題として、胸膜感染における胸腔鏡の位置づけ、CEUS・エラストグラフィの有用性、肋間血管スクリーニング、最適な生検本数・針径・検体処理、リアルタイム法とマーキング法の比較、抗血小板薬継続下手技、教育評価標準化を優先する。
by otowelt
| 2026-07-03 00:37
| 呼吸器その他










