非血液悪性腫瘍患者におけるムーコル症
2026年 07月 25日

■ムーコル症は稀だが致死的な侵襲性真菌感染症であり、近年その頻度は増加傾向にある。肺ムーコル症(PM)は鼻眼窩脳型・皮膚型に次いで3番目に多い病型で、免疫抑制患者、とくに血液悪性腫瘍(HM)と固形臓器移植(SOT)が主要なリスク因子とされてきた。フランスの多施設研究では114例のPMにおいて糖尿病(DM)が重要な宿主因子であり、診断遅延が高い死亡率に寄与し、90日死亡率は59%と報告されている。一方、非血液悪性腫瘍(NHM)患者、すなわちDM・慢性肺疾患・慢性腎疾患・明らかな免疫不全のない患者におけるPMの系統的検討はきわめて乏しい。
■本研究は、DM有病率が急増する中国において、NHM患者のPMの臨床像・治療・転帰、および死亡関連因子を明らかにする目的で行われた。
■北京朝陽病院(侵襲性真菌症の三次紹介施設)における単施設後ろ向きコホート研究である。2017年3月1日から2024年7月31日までにPMで入院した患者を対象とし、EORTC/MSGコンセンサス基準でproven/probableと診断された症例を組み入れた。HM患者は除外された。期間中48例のPMが同定され、HMを有する2例(4.2%)を除外した46例が最終解析対象となった。主要アウトカムは診断後90日以内の全死因死亡である。
■46例中、非生存17例(37.0%)、生存29例(63.0%)で、90日死亡率は37.0%であった。18例(39.1%)がproven PM、28例(60.9%)がprobable PMであった。男性30例(65.2%)、平均年齢54.4±14.8歳、最多症状は咳嗽(41例、89.1%)であった。最も多い基礎疾患はDMで33例(71.7%)、糖尿病性ケトアシドーシスは4例(8.7%)、SOTは6例(13.0%、腎移植5例・肝移植1例)であった。SOT患者の死亡率は83.3%と極めて高かった。全体の入院期間中央値は14.5日(IQR 10.0-20.0)、非生存例における診断から死亡までの期間中央値は9.0日(IQR 6.0-16.5)と経過は急速であった。非生存例では呼吸不全(P=0.002)、人工呼吸(P=0.011)、ICU入室(P=0.003)、敗血症性ショック(P=0.013)、慢性腎疾患(P=0.040)が多く、SOT(P=0.038)および免疫抑制薬使用(P=0.004)の割合も有意に高かった。検査所見では非生存例でヘモグロビン(P=0.012)、血小板(P=0.012)、アルブミン(P<0.001)が低く、クレアチニン(P=0.006)、CRP(P=0.009)、D-dimer(P=0.007)、プロカルシトニン(P=0.001)が高値であり、CD4陽性T細胞(P=0.025)、CD8陽性T細胞(P=0.019)、NK細胞(P=0.022)はいずれも低下していた。
■画像所見では、非生存例で楔状浸潤影(70.6% vs 37.9%、P=0.032)と気管狭窄/閉塞(52.9% vs 20.7%、P=0.024)が有意に多かった。両側肺病変は73.9%に認められ、外科的選択肢を制限していた。気管支鏡は35例(76.1%)で施行され、膿性分泌物が最多(68.6%)であったが、鏡視所見に生存群間の有意差はなかった。病理学的確認は18例(39.1%)のみで、残りはmNGSを含む臨床基準を満たした症例であった。培養陽性率は13.0%と低かった。起因菌はRhizopusが両群で最多(非生存52.9% vs 生存55.2%、P=0.883)で、菌種分布に有意差はなかった。
■治療面では、32例(69.6%)がアムホテリシンB(L-AmB 8例、AmB-D 24例)を受けた。POS/ISA単剤は非生存例で有意に多く(52.9% vs 17.2%、P=0.011)、POS/ISAとAmBの併用は生存例で多かった(62.1% vs 29.4%、P=0.032)。手術併用は生存群のみ5例(17.2%)で行われたが有意差はなかった(P=0.186)。診断から治療開始までの期間は非生存例で有意に短く(中央値1.0日 vs 5.0日、P=0.009)、≥6日を治療遅延と定義すると遅延はむしろ生存例で多かった(44.8% vs 11.8%、P=0.021)。これは劇症型の症例ほど即時に経験的治療が開始されたことを反映しており、治療遅延が死亡の原因ではないことを示している。抗真菌薬の投与期間中央値は全体で68.0日(IQR 8.8-86.8)、生存例85.0日に対し非生存例8.0日であり、早期死亡が長期治療を不可能にしていた。
■Kaplan-Meier曲線では死亡17例中16例(94.1%)が診断後20日以内に発生し、33日以降の死亡はなかった。30日累積生存率は65.2%であった。単変量Cox回帰では、SOT(HR 6.97、95%CI 2.35-20.66、P<0.001)、免疫抑制薬使用(HR 5.58、95%CI 2.10-14.83、P<0.001)、D-dimer上昇(HR 1.17、95%CI 1.08-1.27、P<0.001)、プロカルシトニン上昇(HR 1.04、95%CI 1.02-1.07、P=0.001)が90日死亡の有意な予測因子であり、入院期間の長さ(HR 0.87、95%CI 0.79-0.95、P=0.002)と診断から治療開始までの期間の長さ(HR 0.89、95%CI 0.79-1.00、P=0.047)は死亡リスク低下と関連した。多変量Cox回帰では免疫抑制薬使用が全モデルで一貫して有意であり、未調整(HR 7.19、95%CI 2.68-19.30)、年齢・性別調整(HR 7.63、95%CI 2.79-20.87)、さらにDMを加えた調整後(HR 7.51、95%CI 2.72-20.74、P<0.001)と推定値はほぼ変化しなかった。log-rank検定でも免疫抑制薬使用群およびSOT群の生存は有意に不良であった(いずれもP<0.001)。なおproven症例(n=18)に限定した感度解析では効果の方向性は一貫していたが、検出力低下により有意性は失われた。
■NHM患者の肺ムーコル症において、免疫抑制薬の使用とSOTはいずれも90日死亡と強く関連する因子であり、死亡の大半は診断後3週間以内に集中していた。POS/ISAとAmBの併用療法は全コホートで低い死亡率と関連したが、非ランダム化割付による適応交絡・生存者バイアスが避けられず、あくまで仮説生成的な所見にとどまる。
by otowelt
| 2026-07-25 01:22
| 感染症全般









