ACCP「成人気管支拡張症診療ガイドライン」2026 解説

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昨年発表されたERSのガイドラインについては下記リンクにまとめています。

■ERS「成人気管支拡張症診療ガイドライン」2025:https://pulmonary.exblog.jp/33792100/

今回ACCPのガイドラインが出ています。日本の森本耕三先生がオーサーに入っています。ご存じの人もおられると思いますが、7月27日の二部会でブレンソカチブ(ブリヌスプリ)の承認が既定路線です。

■参考URL:ブリヌスプリ(ブレンソカチブ)の作用機序【気管支拡張症】 https://passmed.co.jp/di/archives/20113

構成は8つのクエスチョン(PICO形式)ですが、推奨は13あります。クエスチョンと推奨が1対1で対応していないためで、抗炎症療法を扱うQ5からは3つ、気道クリアランスを扱うQ7からは5つの推奨が出ています。さらに緑膿菌の除菌療法(Q3)は「エビデンス不十分」として推奨そのものが見送られました。以下では13の推奨に①〜⑬の通し番号を振っています。特筆すべきは、13の推奨がすべて条件付きであり、確実性が中程度に達したのはマクロライドとブレンソカチブの2つだけという点です。裏を返せば、現時点で最もエビデンスが堅牢な介入はこの2剤だということになります。

Q1:気管支拡張症の急性増悪患者において、初期の抗菌薬治療は呼吸器培養結果に基づいて行うべきか。
推奨① 急性増悪の管理では、微生物学的培養結果に基づく標的抗菌薬治療を提案する(条件付き推奨、確実性:非常に低い)。

このPICOに直接答えるランダム化比較試験はありません。緑膿菌感染例の急性増悪を対象としたRCTが1件同定されましたが、設問に直接答えるものではありませんでした。喀痰の細菌叢は地域によって異なり、増悪時の起炎菌が安定期のそれと異なりうることも指摘されています。したがって本推奨は、抗菌薬適正使用の原則と間接的エビデンス、そして専門家の意見に大きく依拠したものとなっています。

間接的な支持として引用されているのが小児のBEST-1試験で、14日時点の増悪消失はアモキシシリン・クラブラン酸65%、アジスロマイシン61%に対しプラセボ43%でした。ただしガイドラインは、これが成人のエビデンスベースの一部ではなく、あくまで「抗菌薬治療が増悪を改善する」という概念実証として引用したにすぎないこと、そして培養に基づく選択がエンピリック治療に優るかどうかには答えていません。

実務としては、増悪時にはできれば抗菌薬開始前に喀痰培養を採取し、初期治療は過去の喀痰培養(H. influenzae、S. aureus、緑膿菌が既知の場合)に基づいて選択する、過去の培養がなければエンピリック治療を行う、そして7日以内の症状改善を確認する、という流れが示されています。エンピリック治療に反応しない場合は耐性菌やカバーされていない病原体の関与を疑い、抗緑膿菌フルオロキノロンへの変更や、悪化していれば静注治療への切り替えを検討します。



Q2:抗菌薬で治療する急性増悪において、投与期間は10日以上とすべきか10日未満とすべきか。
推奨② 急性増悪の治療では、臨床反応に応じて長期(10日以上)または短期(10日未満)のいずれの抗菌薬治療も提案する(条件付き推奨、確実性:非常に低い)。

該当する研究は2件のみでした。前向き観察研究では14日以下(n=132)と15〜21日(n=59)が比較され、12か月後の増悪頻度(62.5% vs 58.6%、p=0.615)、入院(48.3% vs 54.1%、p=0.584)、死亡(9.2% vs 6.8%、p=0.779)のいずれにも有意差がありませんでした。もう1件は静注メロペネムのproof-of-concept RCTで、14日間投与(n=47)と14日未満(8日または11日、n=43)を比較しています。喀痰中の細菌量が10⁶ CFU/mL未満となった時点(7日目88%、10日目12%)を静注抗菌薬中止の判断に用いた試験です。次回増悪までの期間は14日群でむしろ有意に短く、中央値27.5日(IQR 12.5–60)に対し8〜11日群は60日(18–110)でした(p=0.003)。 つまり8〜21日という範囲で長期投与の優位性を示すデータが得られておらず、これが「臨床反応に応じて短期も可」とする根拠になっています。



Q3:緑膿菌が初回に分離された気管支拡張症患者において、除菌療法を試みるべきか。
(推奨なし)緑膿菌が初回に分離された患者に対し、除菌療法を行うことについても行わないことについても、特定の推奨を示さない(エビデンス不十分、確実性:非常に低い)。

ERSではどちらといえば、除菌療法を行う方向性ですが、ACCPでは8つのクエスチョンのうち、唯一推奨が立てられなかった項目です。CF関連気管支拡張症の小児では緑膿菌初回獲得時の除菌療法が広く行われていますが、非CF成人での除菌を支持するエビデンスは乏しく、この臨床実践上の根本的な差異がCF集団からの外挿を妨げる大きな障壁になっている、とガイドラインは述べています。

システマティックレビューで同定されたRCTはn=35の1件のみで、一般化可能性を欠きます。この試験では再発までの時間、入院、在院日数の改善が示された一方、治療群の複数の参加者がトブラマイシン吸入による気管支攣縮を経験しました。

除菌に踏み切るかどうかは、既存データとその限界、個々の患者にとっての潜在的利益と有害事象リスクを踏まえ、患者と臨床医の間で決定すべきとされました。



Q4:頻回に増悪する気管支拡張症患者において、長期の非マクロライド抗菌薬治療を行うべきか。
推奨③ 年2回以上の増悪を有する患者に対し、長期(3か月以上)の吸入抗菌薬治療を、行わない場合よりも提案する(条件付き推奨、確実性:低い)。

含まれた11研究のうち1件は経口アモキシシリン32週の試験で、残りはすべて吸入抗菌薬でした。検討された薬剤はトブラマイシン(ネブライザーおよびドライパウダー)、シプロフロキサシン(同)、コリスチン、ゲンタマイシンの4種類で、追跡期間は16〜52週です。個々の試験結果は一貫しませんが、統合すると増悪を経験した患者数は減少し、リスク比0.83(95%信頼区間0.74–0.94)、1,000人あたり92人減少(141人減少〜33人減少)という効果でした。有害事象は群間でほとんど差がなく(リスク比0.96、95%信頼区間0.90–1.02)、重篤な有害事象も少数でした。ただし呼吸器系の有害事象として気管支攣縮が最も多く、トブラマイシンで約10%(対照2.3%)に生じました(多くは軽度)。耳毒性・腎毒性といった全身毒性は気管支拡張症の試験では日常的には報告されておらず、吸入投与では全身吸収が少ないためと考えられていますが、長期の安全性プロファイルは十分に特徴づけられていないと明記されています。

QOLは8研究が3種類の評価尺度で報告していますが、改善を示したのは小規模な1件のみで、その他はほとんど差がありませんでした。耐性化についても、試験の異質性が大きいため解釈が困難で、さらなる評価が必要とされています。抗菌薬の種類、投与レジメン(連続か間欠か)、デバイス、対象集団、喀痰の細菌叢(緑膿菌か否か)という多岐にわたる異質性があり、どの患者群が恩恵を受けるかを示すエビデンスも現時点では不十分です。これらが強い推奨に至らなかった理由です。



Q5:頻回に増悪する気管支拡張症患者において、長期の抗炎症療法を行うべきか。
推奨④ 頻回増悪を有する成人に対し、長期マクロライド抗菌薬治療を提案する(条件付き推奨、確実性:中程度)。
推奨⑤ 頻回増悪を有する成人に対し、長期ブレンソカチブ治療を提案する(条件付き推奨、確実性:中程度)。
推奨⑥ 頻回増悪を有する成人に対し、長期アトルバスタチン治療を行わないことを提案する(条件付き推奨、確実性:低い)。

1つのクエスチョンから3つの推奨が導かれており、確実性が中程度の2推奨がここに集中しました。システマティックレビューで同定されたのは、前年に2回以上の増悪があった患者を対象にマクロライド(アジスロマイシンまたはエリスロマイシン)と非投与を比較した4件のRCT、経口ブレンソカチブ10 mg・25 mgの2件のRCT、そしてアトルバスタチンとプラセボを比較した小規模なproof-of-concept RCT 2件です。

マクロライドについては、24〜52週の長期試験3件で増悪率が年平均1.01回減少しました。SGRQで評価したQOLは統合平均6.23ポイントの改善で、最小臨床的重要差は上回るものの、信頼区間がゼロをまたぐため統計学的有意差には達していません(95%信頼区間 −12.81〜0.36、P=0.06)。ガイドラインはこの点について、点推定値がMCIDを超えていても有意差がない以上、メタアナリシスからQOLの明確な改善を結論することはできない、と記述しています。アドヒアランスは96%と良好で、重篤な有害事象は対照と同等でしたが、非重篤な副作用はマクロライド群でやや多く、グラム陽性球菌に対するマクロライド耐性化の傾向が認められました。安全性については、QT延長、不整脈、難聴への懸念が挙げられています。高リスク患者では治療前に心電図を、聴力障害の既往がある患者ではとくにアジスロマイシンによる慢性治療の開始前に聴力検査を行うことが推奨されます。そしてマクロライド耐性NTMは重大な臨床問題であり、喀痰からNTMが培養される場合は慢性マクロライド使用は禁忌、治療開始前にNTMのスクリーニングを行うべきと明記されています。

ブレンソカチブについては、前年に2回以上の増悪があった患者を対象とした第3相試験(ASPEN、n=1721)で、年間増悪率がプラセボ1.29回に対し10 mg群1.02回、25 mg群1.04回、率比0.8(95%信頼区間0.7–0.9)と減少しました。ただしサブグループ解析では地域および人種による治療効果の異質性が示されています。25 mg群ではFEV₁、FVC、QOL(QOL-B呼吸領域)のいずれも改善の方向を示したものの、その差は有意水準の境界にとどまり、QOLについては有意差に達しませんでした。25 mg群の19.8%はベースラインでマクロライドを安定投与されており、探索的サブグループ解析では効果の点推定値は併用の有無によらず同様でした(併用例:率比0.79、95%信頼区間0.58–1.08、n=114/非併用例:0.80、0.67–0.95、n=461)。マクロライド併用群で信頼区間が広いのは治療効果の減弱ではなく症例数の少なさを反映したものであり、マクロライド使用による治療効果の差を示す統計学的証拠はない、と説明されています。第2相試験の喀痰解析では炎症性ケモカインとMUC5ACムチンの減少が示されました。両用量とも忍容性は良好で、軽度の角化亢進(hyperkeratosis)がプラセボより高頻度だったものの、感染は減少しています。なお本推奨が「DPP-1阻害薬というクラス」ではなくブレンソカチブという単剤に対して書かれている点は意識的なもので、現時点でこのクラス唯一の承認薬であり、RCTのエビデンスが得られている唯一の薬剤であるためと説明されています。単剤のデータからクラス効果を仮定することはできず、他のDPP-1阻害薬の開発が進めば推奨が見直される可能性があるでしょう。

アトルバスタチンについては、好中球性メディエーターの放出が病態に関与することからスタチンが抗炎症治療の標的候補となりうる、という理論的背景があります。しかしクロスオーバー試験ではSGRQは改善した(−5.62ポイント、P=0.016)ものの、LCQは改善せず(平均差1.92、95%信頼区間 −0.57〜4.41、P=0.12)、CRPや好中球数といった炎症マーカーも不変でした。もう1件のRCTではLCQがプラセボより改善しましたが(平均差2.2、95%信頼区間0.5–3.9、P=0.01)、非重篤な有害事象が増加しています。結果が一貫しないうえ、増悪抑制効果と抗炎症効果のいずれについても根拠を欠くことから、推奨しないという結論になりました。



Q6:喀血を伴う気管支拡張症患者において、薬理学的な抗線溶療法を行うべきか。
推奨⑦ 喀血を有する患者に対し、トラネキサム酸を提案する(条件付き推奨、確実性:非常に低い)。

根拠となったのは成人の喀血を対象とした3件の小規模RCTですが、対象は原因の異なる喀血であり、気管支拡張症は参加者の23〜32%を占めるにすぎません。投与経路は静注、経口、吸入とさまざまでしたが、多くの専門家はモニタリング下でのネブライザー投与が好ましい経路と考えているようです(日本では難しいですね)。

統合解析では、治療のエスカレーション(追加介入の必要性)が有意に減少し、リスク比0.17(95%信頼区間0.05–0.51)となっています。喀血量も減少し(平均差 −56.2 mL、95%信頼区間 −95.5〜−16.9)、在院日数は1.6日短縮しました(95%信頼区間 −3.0〜−0.3)。喀血の消失はトラネキサム酸群でより多くみられましたが有意差はありません(リスク比1.44、95%信頼区間0.84–2.47)。有害事象は頭痛や悪心程度で軽微かつ稀でした。ごく小規模な観察研究の結果もこれらと矛盾しないとされています。



Q7:気管支拡張症患者において、気道クリアランスを処方すべきか。
推奨⑧ 呼吸法(側臥位開放声門呼出法[ELTGOL]またはactive cycle of breathing[ACB])の使用を提案する(条件付き推奨、確実性:低い)。
推奨⑨ 振動性呼気陽圧(PEP)の使用を提案する(条件付き推奨、確実性:非常に低い)。
推奨⑩ 高張食塩水吸入の使用を提案する(条件付き推奨、確実性:非常に低い)。
推奨⑪ 高頻度胸壁振動(HFCWO)の使用を提案する(条件付き推奨、確実性:非常に低い)。
推奨⑫ 組換えヒトDNaseの使用を行わないことを提案する(条件付き推奨、確実性:低い)。

13推奨のうち5つがここに集中しており、本ガイドラインで最も分量の多いクエスチョンです。ACCPは「気道クリアランス」を一括りにせず、手技・薬剤ごとに個別の推奨を立てるという方針を採っており、これが推奨数を押し上げています。全体としてエビデンスの基盤は特定の手技どうしの比較に偏っており、対照条件を置いた研究が少ないという限界がまず述べられています。ケアは年齢や併存症に合わせて個別化し、呼吸理学療法士など適切な訓練を受けた専門職と協働して行うこと、初回処方後は12か月以内に見直し、増悪の最中や直後にはケア内容を修正することが望ましいとされます。吸入療法などの併用治療がある場合は、呼吸練習・PEP・HFCWOとのタイミングを最適化します。

体位排痰法にタッピングや振動法を加えた従来型の胸部理学療法や、肺内パーカッションベンチレーション(IPV)についても言及があります。ただしこれらは推奨の対象外で、「臨床で処方されうる選択肢である」と認めるにとどまります。そもそもこの領域のエビデンスは、手技どうしを比較した研究に偏っており、無介入の対照を置いた研究がほとんどありません。

推奨⑧の呼吸法として評価されたのは、ELTGOLとACBの2手技だけでした。ELTGOLは、患側を下にした側臥位で声門を開いたままゆっくりと息を吐き切る手技です。末梢気道の分泌物を中枢側へ移動させる狙いがあります。ACBは、安静呼吸(呼吸コントロール)、深い胸郭拡張運動、そしてハフィングによる強制呼出という3要素を周期的に繰り返す手技です。なお自律性排痰法(autogenic drainage)を検討した試験は存在しません。根拠となったのは3研究のみで、介入期間は単回・15日・12か月とばらばらです。増悪の減少を示したのは、唯一の長期研究であるELTGOLの12か月試験でした。喀痰量の改善はMCIDを上回っています。一方、呼吸困難には効果は認められていません。QOLの改善は統計学的には有意でしたが、臨床的に意味のある水準には届きませんでした。それでも有害事象がまったくなく、12か月にわたり良好なアドヒアランスが得られること、機器が不要で患者負担が小さいことが推奨を後押ししています。

推奨⑨の振動性PEPは、呼気時に抵抗と振動を同時にかけるデバイスです。気道を広げつつ分泌物を剥がす狙いがあり、フラッターやアカペラなどが該当します(日本でもアカペラやエアロビカなどが販売されている)。3件のRCT(単回、1か月、3か月)で評価されました。3か月使用した場合の増悪は対照より少なかったものの、統計学的に有意ではありませんでした(リスク比0.71、95%信頼区間0.27–1.88)。咳症状と運動耐容能はMCIDを超えて改善しましたが、QOLへの効果は不明瞭でした。喀痰量は短期でわずかに変化したものの、喀痰中の細菌量や炎症細胞に変化はありません。費用はデバイスにより異なりますが、多くは携帯可能で生活に取り入れやすい点、呼吸法と比べた患者の選好が報告されている点も考慮されています。

推奨⑩の高張食塩水については、6%および7%の高張食塩水と等張食塩水を比較した4件のRCTが検討されました(うち1件は原発性線毛機能不全症)。最長の12か月プラセボ対照試験では、咳関連QOLと疾患特異的QOL(LCQ、SGRQ)、喀痰からの病原菌分離、肺機能のいずれも両群で同様に改善しています。 クロスオーバー試験では、高張食塩水でより多量の喀痰喀出が得られたものの、肺機能や咳関連QOL(LCQ)で等張食塩水に優る点はありませんでした。副作用は高張食塩水でより頻繁ですが、概して軽度で治療中止には至っていません。現時点のエビデンスは高張食塩水が等張食塩水に明確に優ることを示しておらず、どちらの選択も許容される、という位置づけです。

推奨⑪のHFCWOは、ベスト型の装置で胸壁を外側から高頻度に振動させ、分泌物の移動を促す方法です。評価したRCTは2件のみで、うち1件は2種類の胸壁振動療法どうしの比較でした。52週の観察で標準治療より増悪は少なかったものの、統計学的な比較が行われていません。症状への効果は15日後・52週後のいずれも軽微または不明瞭でした。QOLは短期(15日)では臨床的に有意な改善を示しましたが、長期では不明瞭です。15日治療後には、臨床的に意味のある喀痰量の減少が得られています。他の手技に比べて受動的で労力が少ないため、アドヒアランスに好影響を与える可能性があります。一方、機器の費用が約1万ドル超と高額で、患者によっては導入の障壁になるでしょう。

推奨⑫の組換えヒトDNaseは、13推奨のうち明確に「行わない」方向を示す2つ(推奨⑥のアトルバスタチンと本項)のうちの1つです。特発性気管支拡張症を対象とした多施設RCT(n=349、主要評価項目は増悪率)では、rhDNase群の増悪率がプラセボ群より数値的にも統計学的にも有意に高くなりました。これはプロトコル規定の増悪でも非規定の増悪でも同様です。肺機能(FEV₁の低下はrhDNase群でより大きい)、QOL、入院率、抗菌薬使用のいずれの副次評価項目でも改善は認められていません。なお粘液溶解薬のなかには、推奨が示されなかったものもあります。吸入マンニトールは一般に入手できないため、推奨を提示していません。カルボシステインは本稿執筆時点でエビデンスが不十分として推奨を見送りました。ただし最近発表されたRCTのデータが増悪抑制と症状管理における位置づけを明らかにしうるため、今後の改訂で扱う予定と記載されています。

N-アセチルシステイン(NAC)については、パネル内で合意(80%以上の一致)に到達せず、推奨が示されませんでした。単一のRCT(n=160、12か月)では、増悪の減少(1,000人あたり133人減、リスク比0.85、95%信頼区間0.72–0.98)、QOLの改善、1日喀痰量の臨床的に有意な増加(24.74 mL、16.67–32.81)、介入群での緑膿菌の減少が示されています。


Q8:限局性病変を有し症状が難治性の気管支拡張症患者において、外科的切除を考慮すべきか。
推奨⑬ 最適な内科的管理にもかかわらず難治性の症状が残る限局性病変の患者に対し、適切な手術候補では外科的切除の考慮を提案する(条件付き推奨、確実性:非常に低い)。

ガイドラインに沿った薬物療法と気道クリアランス手技を行ってもなお、咳嗽、喀痰量、喀血といった慢性症状が患者の負担となっています。手術紹介が適するのは、病変が1〜2つの連続する肺葉に限局し、肺機能が保たれ、周術期リスクが許容できる患者です。びまん性・嚢胞性・両側性の気管支拡張症、重症COPD、著明なフレイルを有する患者では利益が得られにくいとされます。低侵襲アプローチ、周術期の呼吸リハビリテーション、多職種によるフォローアップを提供できる高症例数の胸部外科センターで、経験豊富な術者が行うことが望ましいとしています。

エビデンスは後ろ向き観察研究に限られます。英国の393例という歴史的コホートでは、待機的切除が気管支拡張症特異的死亡を減少させ、保存的管理と比べて有効であるとされていますが、これとは対照的にナイジェリアからの報告は、進行例に緊急手術を行った場合のリスクを浮き彫りにしており、手術死亡は約15%に達し、生存例の5分の1でそれまで健常だった肺葉に再発が生じています。トルコのレジストリでは全生存の改善は示されなかったものの、致死的喀血に対する唯一の根治的治療であることが確認され、周術期死亡は5%未満でした。

期待される利益は主として症状緩和と増悪減少であって、生存改善が証明されているわけではないことを患者に説明すべき、と明記されています。


by otowelt | 2026-07-25 23:31 | 呼吸器その他

近畿中央呼吸器センター 呼吸器内科の 倉原優 と申します。医療従事者の皆様が、患者さんに幸せを還元できるようなブログでありたいと思います。原稿・執筆依頼はメールでお願いします。連絡先:krawelts@yahoo.co.jp


by 倉原優
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