溺水
2009年 02月 18日
●定義
溺水(drowning)という用語そのものは、液体に水没(submersion)または
水浸(immersion)することによって原発性に呼吸が障害される過程を意味している。
水浸 (immersion)は傷病者の身体が水か他液体に覆われてしまうことを意味する。
水没(Submersion)は気道を含む体全体が、水または他の液体に沈んでいることを
意味する。
以下の用語はもはや使用されるべきではない
・dry and wet drowning(乾燥溺水、湿潤溺水)、
・active and passive drowning (能動的溺水、受動的溺水)、
・silent drowning(沈黙の溺水)、
・secondary drowning(二次溺水)、
・drowned と near- drowned(溺死と溺水)
●最もこわい合併症
溺水の最も重要で有害な合併症は・・・?
低酸素!!!
●溺水の疫学
溺水による死亡の97%が低中度所得国で生じている。
若年男性の死亡の最大原因は不慮の事故である。
Peden MM, McGee K. The epidemiology of drowning worldwide. Inj Control Saf Promot 2003;10:195-9. 若年男性の溺水の70%が飲酒によるものである。
●淡水と海水
電解質異常においてわずかな相違が見られるが、臨床的な意味はあまりない。
●頚椎損傷
溺水者における頸椎損傷の発生率は低い(約0.5%)
Watson RS, Cummings P, Quan L, Bratton S, Weiss NS. Cervical spine injuries among submersion victims. J Trauma 2001;51:658-62.
脊椎固定は水中で実行するのは困難で、水からの引き上げと適切な蘇生を遅らせる
可能性がある。経過から可能性が高くなければ、頚椎固定は不要。
●治療
・人工呼吸
人工呼吸が大事(そりゃそうだ)
訓練を受けている救助者なら水上人工呼吸(in-water rescue breathing)
を始める。浮力のある救助用具に支えられながらが理想的ではあるが、
それがなくても、不可能ではない。
Perkins GD. In-water resuscitation: a pilot evaluation. Resuscitation 2005;65:321-4
気道を開いた後に自発呼吸がなければ、救助呼吸を約1分間行う
傷病者を5分の救助時間内に陸へ運べるならば、移動中も救助呼吸を続行。
陸地まで5分以上かかると予想されるならば、さらに1分間の救助呼吸を行い、
その後はさらなる人工呼吸はせずにできるだけ早く傷病者を陸地へ向けて運ぶ。
誤嚥した水を気道から除く必要はない。
溺水者のほとんどは、少量の水しか吸引していないし、この水は急速に
中心循環に吸収される。
Heimlich法は、胃液の逆流と誤嚥を引き起こす。
異物の気道閉塞サインがなければ行うべきではない。
Rosen P, Stoto M, Harley J. The use of the Heimlich maneuver in near-drowning: Institute of Medicine report. J Emerg Med 1995;13:397-405.
・胸骨圧迫
胸骨圧迫は大事(そりゃそうだ)
しかし、水上での胸骨圧迫は効果的ではない・・・
March NF, Matthews RC. Feasibility study of CPR in the water. Undersea Biomed Res 1980;7:141-8.
・・・だって、できないじゃん。
・除細動
除細動は大事(そりゃそうだ)
一般的なACLSに準じるが、30℃以下の低体温があれば
除細動は3回までおこなってもOK!!
Thomas R, Cahill CJ. Successful defibrillation in profound hypothermia (core body temperature 25.6 degrees C). Resuscitation 2000;47:317-20.
・嘔吐対処
救助呼吸を受けた傷病者の2/3、
胸骨圧迫と人工呼吸を受けた者の86%に嘔吐が起こる。
Manolios N, Mackie I. Drowning and near-drowning on Australian beaches patrolled by life-savers: a 10-year study, 1973-1983. Med J Aust 1988;148:165-7, 70-71.
嘔吐が起きたら、傷病者の口を側方に向け、可能ならば直接吸引して吐物を取り除く。
脊髄損傷が疑われるならば、吐物を誤嚥する前にログロールする。
・抗菌薬
溺水後には肺炎がよく生じる。
抗菌薬の予防的投与が有効か不明だが下水のような汚水水没後などには、考慮。
・循環管理
核温が30℃以下の重度の低体温があるなら、除細動は3回までとし、
核温が30℃を超えるまで薬物の静脈内投与も行わない。
もし、中等度の低体温が存在するならば、薬物の静脈内投与を標準よりも
長い間隔で行う。長時間水浸していると、体内の水の流体静力学的圧によって、
傷病者が低容量になる可能性がある。低容量を補正するために輸液をする。
肺水腫を引き起こす恐れもあり、過剰な量は避ける。
・体温管理
核温が32~34℃に達するまで積極的に復温する方針とし、
その後は高体温(37℃以上)とならないよう対応する。
文責"倉原優"
by otowelt
| 2009-02-18 08:27
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