Wernicke脳症1
2009年 02月 26日
●Wernicke脳症とは
ポーランドの神経内科医Carl Wernickeが1881年に発表した、
ビタミンB1欠乏による昏迷、運動失調、眼筋運動障害を
3徴とする病態。記憶障害や作話がみられるKorsakoff症候群
へ移行することがある。
低栄養状態、慢性アルコール中毒、AIDS、透析患者、妊娠悪阻
悪性腫瘍(化学療法の有無を問わず)に起こりやすい。
●疫学
・全剖検例の0.8%~2.8%
・慢性アルコール中毒患者の12.5%
・80%以上のWernicke脳症が診断されていない
・平均年齢50歳
・男女比=1.7:1 人種差はない
●症状
・昏迷、運動失調、眼筋運動障害(3徴を満たすのは10~30%)
・昏迷・意識障害は82%の患者にみられる。
・眼球運動障害は,主に外眼筋麻痺と上方注視麻痺を
きたし,水平性あるいは垂直性の眼振を呈する。
瞳孔異常をきたすこともある。
・運動失調は,主に歩行障害を呈し、isolated alcohol
cerebellar syndromeのように主に上小脳虫部領域
の病理学的な異常をもたらす。
・ほかにも低血圧・低体温など。
Salen P, et al:Wernicke's Encephalopathy; eMedicine: 2006
●診断
以下の4つのうち最低でも2つを満たすもの
(1) 食餌摂取不良
(2) 眼球運動障害
(3) 小脳失調
(4) 精神症状の変容あるいは軽度記憶障害
●Korsakoff症候群
・慢性アルコール中毒においてWernicke脳症に
続発する、失見当識・記銘障害・逆向健忘・作話を
症状とする症候群。1887年Korsakoffにより報告。
・全例がpost-Wernickeではない。47例中7例だけが
続発であったとの報告もある。
Ramayya A, Jauhar P; Increasing incidence of
Korsakoff's psychosis in the east end of Glasgow.;
Alcohol Alcohol. 1997 May-Jun;32(3):281-5
・逆向性健忘 retrograde amnesia
頭部外傷などで受傷後意識障害があった期間のみならず、
その前の期間まで逆行して健忘。回復は古い事柄から追想が可能。
・前向性健忘 anterograde amnesia
●Marchiafava Bignami病
MBDはアルコールによる栄養障害と考えられている。
脳梁に限局した脱髄病変を生じる稀な疾患で病態は不明
MRIではWernicke脳症の所見は認めず,FLAIRで脳梁の前半部に高信号を認める。
治療としてビタミンBの補充のみで軽快する報告,
ステロイドパルスのすすめる報告もあり一定しない
●Wernicke脳症の病態機序
・アルコールは、
アセトアルデヒド→酢酸塩→アセチルCoA
のように分解され、クエン酸回路 (TCA cycle) に入り、
最終的にはCO2とH2Oになる。
・クエン酸回路では、α-ケトグルタル酸デヒドロゲナーゼ反応
における脱炭酸の補酵素であるサイアミン二リン酸として
サイアミンが大量に消費されるのでサイアミン欠乏になりやすい。
・ビタミンB1はブドウ糖代謝に関係する補酵素であり、
その欠乏は中間代謝物であるピルビン酸の蓄積を招く。
・ブドウ糖を主な栄養源とする脳では特にビタミンB1の需要が高い
ので、障害を来たしやすい。 特に medial thalamic nuclei を
はじめ脳幹の様々な神経核(動眼神経核、外転神経核など)に
病変を形成する。 小脳虫部も障害されて運動失調を来たす。
●検査
CBC:貧血や白血病などを除外する
電解質:高Na,高Caなどを除外する
SaO2:低酸素血症や高二酸化炭素血症を除外する
Toxic drug screening
腰椎穿刺:中枢感染症が疑わしい場合
乳酸:上昇はサイアミン欠乏症を示唆するかもしれない
サイアミン欠乏の証明:最も信頼性の高いのは、
赤血球トランスケトラーゼ活性の低下。サイアミン
ピロリン酸(TPP)添加で、同酵素の活性が15%以上
賦活されれば、欠乏症の疑いが濃厚(TPP効果)。
治療的診断:脚気心の場合、サイアミン補充開始後
12時間以内に血圧上昇と心拍低下がみられ1~2日
で、利尿による心拍数の是非が生ずる。
●画像
MRIにて第三脳室および中脳水道周囲にT2高信号域

●病理
・乳頭体病変はほぼ必発
・第3脳室壁,中脳水道周囲,第4脳室底の灰白質に,壊死,点状出血。
●治療
・サイアミン100mg(アリナミンF2A) /日 数日
その後10~20mg/日を維持
・アルコール中毒患者の場合、サイアミンなし
でグルコース投与するとWernicke脳症を誘発する場合がある
※サイアミン欠乏新生児に対しては・・・
・高用量サイアミン50 mg/day 2週間 (Fattal-Valevski, 2005)
文責"倉原優"
by otowelt
| 2009-02-26 15:04
| レクチャー