2012年 04月 24日 ( 3 )

末期癌における緩和的鎮静は生存に対して影響を与えない

当院ではミダゾラムやセレネースなどの薬剤を
皮下から投与して緩和的鎮静をはかることが多い。
主治医の独断で行うことはなく、ナース、緩和ケアチーム、患者家族の
全員で決めるようにこころがけている。

Marco Maltoni, et al.
Palliative Sedation in End-of-Life Care and Survival:
A Systematic Review
JCO April 20, 2012 vol. 30 no. 12 1378-1383


目的:
 緩和的鎮静は、進行癌患者における抵抗性の症状から解放するための
 臨床的方法である。鎮静薬を使用することで残された時間を短くすると
 されるが、鎮静した場合としなかった場合を比較した試験はすくない。
 われわれは、緩和的鎮静の臨床プラクティスにおける影響を解析し
 システマティックレビューをおこなった。またデータがあるものは
 生存の解析も行った。

方法:
 1980年1月から2010年12月の文献(MEDLINE、EMBASEデータ
 ベースより抽出)によるシステマティックレビューを実施。
 緩和的鎮静、終末期鎮静、抵抗性症状、癌、悪性新生物、緩和ケア、
 終末期疾患、終末期ケア、生存などの語句を検索に含めた。
 また、電子文献目録の検索もおこなった。

 
結果:
 10のレトロスペクティブあるいはプロスペクティブの非ランダム化試験で
 1807人の連続患者のうち、621人(34.4%)が鎮静を受けていた。
 1つの症例対照研究は解析対象から外れた。
 もっともよくみられた鎮静理由は、終末期におけるせん妄であった
 (median, 57.1%; range, 13.8% to 91.3%)。
 続いて、Psychological distressが19%、呼吸困難が14%であった。
 ベンゾジアゼピンが最もよく使用された薬剤カテゴリーであった。
 ミダゾラムが49%、その他のベンゾジアゼピンが22%、
 ハロペリドールが26%、クロルプロマジンが14%で使用。
 生存に関して鎮静群と非鎮静群で比較すると、鎮静アプローチは
 生存そのものを悪化させるものではなかった。
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結論:
 ランダム化臨床試験の直接的エビデンスはないものの、
 耐えがたい苦痛から解放するために適切に使用される場合、
 緩和的鎮静は末期癌患者の生存に対して有害な影響を
 与えないものと考えられる。
 緩和的鎮静は、緩和ケアの一連の流れの一端を成すものと 
 考えられるべき医療的介入である。

by otowelt | 2012-04-24 23:21 | 肺癌・その他腫瘍

肺MAC症に対する化学療法

●肺MAC(Mycobacterium avium complex)症の化学療法

1.レジメン
 非結核性抗酸菌症の代表的な疾患である肺MAC症の化学療法は、リファンピシン(RFP)、エサンブトール(EB)、クラリスロマイシン(CAM)の3剤による多剤併用が基本で、必要に応じてストレプトマイシン(SM)またはカナマイシン(KM)の注射剤の併用を行うのが基本である。以下に、現時点で推奨されている化学療法レジメンの用量を提示する。
肺MAC症に対する化学療法_e0156318_12312180.jpg
 肺MAC症に対する単剤治療は効果が弱いうえに、特にCAM単剤では早期(2ヶ月~5ヶ月)にCAM耐性菌が誘発されるとされており、禁忌である。
An official ATS/IDSA statement: diagnosis, treatment, and prevention of nontuberculous mycobacterial diseases. Am J Respir Crit Care Med. 2007 ; 175 : 367-416.
 リファブチン(RBT)はMACに対する抗菌力はRFPよりやや強力と考えられているため、RFPが投与できない時またはRFPの効果が不十分な場合に投与を考慮してもよい(RBT300mg=RFP600mg相当)。
Efficacy and safety of rifabutin in the treatment of patients with newly diagnosed pulmonary tuberculosis. Am J Respir Crit Care Med. 1996 ; 154 : 1462-1467.
 化学療法が無効な症例で空洞や気管支拡張が限局しており、肺機能や全身状態が手術に耐えられる場合は、積極的に外科療法を考慮すべきである。特に、空洞・破壊型の肺MAC症がよい適応である。 しかし結節・気管支拡張型の肺MAC症の場合、気管支拡張病変が初期から左右にみられるため、また高齢者も多いため、手術の適応となる症例は限られている。

2.副作用
 化学療法をおこなう際、味覚障害や胃腸障害の副作用が多いとされているが、これは特に高齢者で起こりやすいため、高齢者(70歳以上など)の場合では、1週間に1薬剤ずつ追加するなどの工夫をおこなう(EB→CAM→RFPなど)ことが望ましく、内服3 剤を一挙に開始することは避けた方がよい。また、RFPはまれに白血球や血小板減少を呈することがある。白血球2000または顆粒球1000以下、血小板10万以下となれば薬剤中止を考慮する。RFPとEBではしばしば皮疹を経験するが、皮疹については体表のおよそ1/3を超える範囲に薬疹がでるか、水泡や壊死を伴う重症皮疹の場合には薬剤中止を考慮する。RFPの減感作が可能である(下図)。
肺MAC症に対する化学療法_e0156318_12433220.jpg
 EBの投与期間が結核よりも長期間となるため、視力障害の発生には充分注意する必要がある。EBによる視神経症は、投与一日量で25mg/kg/day以上、総投与量100~400gで発症しやすく、一日量15mg/kg/day以下では安全とされる。投薬後3ヶ月から起こり得るが、半年~1年以内(平均7ヶ月)が多い。両眼の視力低下、中心暗点、色覚障害(赤・緑)を呈する。従ってEB服用患者は、全例1~2ヶ月に1回の定期的に視機能検査を行う必要がある。スクリーニング検査には視力と河本式中心暗点計を使う。中心フリッカー値も感度は高いが、測定ごとのばらつきが大きく、両眼性なので左右差で検討するのが難しい。異常が疑われたらハンフリー視野計などの静的視野検査を行うが、中心暗点だけでなく両耳側半盲のパターンを呈することも少なくない。
 RBTの副作用としてぶどう膜炎が有名であり、充血、疼痛、飛蚊症、霧視、視力低下などが起こり得る。RBT投与開始2~5ヶ月で発症するとされており、発症は体重あたりの投与量に依存すると考えられている。
Determination of rifabutin-associated uveitis in patients treated with rifabutin clarithromycin and ethambutol for Mycobacterium avium complex bacteremia: a multivariate analysis. Canadian HIV Trial Network Protocol 010 Study Group. J Infect Dis. 1998 ; 177 : 252_255.
 RBT はCAMと併用したときに、その血中濃度が1.5倍以上に上昇することが知られており、ぶどう膜炎発症には細心の注意をはらうべきである。RBT450mgの単独投与の場合、ぶどう膜炎発生が1.8%であったが、
同量にCAM1000mgを併用すると、8.5%にぶどう膜炎を発症した。
Clarithromycin or rifabutin alone or in combination for primary prophylaxis of Mycobacterium avium complex disease in patients with AIDS: A randomized, double-blind, placebo-controlled trial. The AIDS Clinical Trials Group 196/Terry Beirn Community Programs for Clinical Research on AIDS 009 Protocol Team. J Infect Dis. 2000 ; 181 : 1289_1297.
 CAM併用時のRBT初期投与量は150mg⁄日にすべきであり、長期の経過で副作用がない場合には300 mg⁄日まで増量を考慮してもよいと考えられる。

3.感受性検査
 肺MAC症の治療効果を推測できる薬剤感受性検査については、CAM以外では確立していないのが現状である。
An official ATS/IDSA statement: diagnosis, treatment, and prevention of nontuberculous mycobacterial diseases. Am J Respir Crit Care Med. 2007 ; 175 : 367-416.
 その他の薬剤はCAMと異なり、併用効果は期待できるものの、そもそも単剤での臨床効果はきわめて乏しいため、薬剤感受性検査を確立しにくい理由がある。CAM耐性は初回治療例ではほとんど存在しないとされており、再治療例や化学療法後経過の悪い例のみ薬剤感受性検査を実施するのが望ましい。液体培地でMICが4μg/ml以下を感受性、32μg/ml以上を耐性と判定し、8μg/ml および16μg/mlは判定保留とするのが現在のコンセンサスである。CAM耐性の場合、CAMは無効なので中止とすべきである。判定保留の場合は、CAMを継続して定期的に感受性検査を繰り返すべきである。このCAM耐性は、前述のごとくCAM単剤使用をおこなった場合や、CAMとフルオロキノロンの併用例に多いとされている。
Clinical and molecular analysis of macrolide resistance in Mycobacterium avium complex lung disease. Am J Respir Crit Care Med. 2006 ; 174 : 928-934.

4.投与期間
 日常臨床において菌陰性化後約1 年の治療をおこなうよう推奨されているが、エビデンスはない。イギリス胸部学会ガイドラインは薬剤投与期間を2年としており、一概にATSガイドラインや結核病学会の推奨に準じておれば安心というわけではない。


文責"倉原優"

by otowelt | 2012-04-24 13:05 | レクチャー

呼吸器学会総会2012:エルロチニブ代謝物グルクロン酸抱合体の代謝比によりGrade3以上の毒性発現が予測可能

呼吸器学会総会で気になった報告。
肺癌学会総会でも発表されていたように思う。

背景:
 血中のエルロチニブ濃度は2%以下と低く、
 未変化体の血中濃度のみで、副作用を予測することはできない。

目的:
 非小細胞肺癌(NSCLC)で、血中エルロチニブ代謝物のうち、
 エルロチニブの副作用とされている皮膚障害あるいは肝障害の
 発現と関連のあるものをサーベイする。

方法:
 対象はNSCLC患者50人。
 エルロチニブ150mg/日を投与し、血中エルロチニブとその代謝物を測定。
 血中エルロチニブおよび関連代謝物はhigh-performance liquid
 chromatography-tandem mass spectrometry(LC-MS/MS)で測定。
 day8以降の血中濃度安定期での代謝物を解析し、
 未変化体エルロチニブ/代謝物比を評価した。

結果:
 エルロチニブ代謝物として13種類が同定され、このうち酸化体8種類、
 硫酸体1種類では毒性との関連性がなかった。
 グルクロン酸抱合体(4種類)では、未変化体エルロチニブ/代謝物比と
 Grade3皮膚障害および肝障害との関連性がみられた(OR22.1、p=0.0037)。
 ROCの解析で、Grade3以上の毒性に対し、グルクロン酸抱合体の代謝比は
 感度、特異度が高かった(AUC=0.838)。

結論:
 エルロチニブを使用するNSCLC患者のいて
 グルクロン酸抱合体の代謝比によりGrade3以上の毒性発現が予測可能である。

by otowelt | 2012-04-24 06:48 | 肺癌・その他腫瘍