2012年 04月 26日 ( 3 )

気管支鏡時に抗菌薬投与は必要か?

・はじめに
呼吸器内科医にとって気管支鏡は日常的におこなう慣れた検査
であるが、臨床試験やエビデンスの開拓が進まない領域でもある。
気管支鏡時に全例に抗菌薬を投与している病院は聞いたことはないが、
施設によっては、光線力学的療法(PDT)や気管支肺胞洗浄(BAL)の
症例で検査後に抗菌薬を予防的に投与している病院もある。
しかし、この抗菌薬投与に果たしてどれくらい意義があるのだろうか。

・ガイドライン
気管支鏡の抗菌薬について言及しているガイドラインは、
たとえばイギリス呼吸器学会のものがある。
http://www.brit-thoracic.org.uk/guidelines/bronchoscopy-guidelines.aspx
The British Thoracic Society Bronchoscopy Guideline Committee: a sub-Committee of the Standards of Care Committee of the British Thoracic Society - Thorax 2001. 56: (Suppl I); i1-i 21.

アドバンスな処置に関するガイドラインは2011年に同学会から発表
されているが、基本的な気管支鏡のガイドラインは2001年以降更新
されていない。ガイドラインによれば、脾摘後、人工弁装着後、
細菌性心内膜炎の既往のある場合など特殊な患者以外で
抗菌薬の予防投与は不要とされている。

日本呼吸器内視鏡学会からもガイドライン(指針)が出ているが、
「気道が閉塞や狭窄している症例での肺生検や肺胞洗浄などの検査後は
気道粘膜の浮腫による閉塞・狭窄の増悪によって感染を引き起こすことが
あるので抗生剤の投与を考慮する必要がある」と記載されている。
この根拠は特に記載されていない。私個人としては、
このメカニズムは理解はできるが納得はしていない。
気管支鏡検査を安全に行うために 日本呼吸器内視鏡学会 気管支鏡安全対策委員会編

・臨床試験
やや古い論文であるが、抗菌薬投与群で処置後2日目の
発熱が有意に抑えられたとする報告がある。
しかしながら感染については差がみられておらず、
抗菌薬の投与については意義は乏しいと結論づけている。
坂 英雄ら. 気管支鏡および気管支造影後の発熱に対する抗生物質予防投与の検討.呼吸と循環1992;40:1105-84.

大阪市立大学からの報告で、3日間の抗菌薬投与が気管支鏡後の
感染症の発症を抑えられるか検討したものがある。ランダムに、
アジスロマイシン(500mg/day)、セフカペン/ピボキシル(300mg/day)、
抗菌薬投与なしの3群に割り付けたものである。310人の患者のうち
9人(2.9%)が気道感染を気管支鏡生検後に発症した。感染を
起こした患者は全例気管支鏡所見において異常所見がみられたもので、
感染を起こした患者のうち60%が非治療群、26.7%が
セフカペン/ピボキシル群、13.3%がアジスロマイシン群であった。
アジスロマイシンの方が非治療群よりもやや感染率が低い傾向に
あった(P = 0.06)。ただ、この報告で統計学的解析をおこなうのは
少し強引で、様々なバイアスが絡んでいる可能性がある。
Kanazawa H, et al. Efficacy of azithromycin administration in prevention of respiratory tract infection after bronchoscopic biopsy: A randomized, controlled trial. Respirology 2007;12:70–75.

国立病院機構の3施設において、前向きに検討したスタディがあるが
登録症例4942人という大規模なデータを用いて検証している。
予防的抗菌薬投与に関するpropensity scoreによる
propensity-matched cohortを解析に用いた。
予防的抗菌薬の投与は1672人(33.8%)においておこなわれ、
治療的抗菌薬の投与は145人(2.9%)、感染症発症は107人(2.2%)
に確認された。propensity-matched cohort3520人において、
予防的抗菌薬投与の治療的抗菌薬投与ORは0.83(95%CI 0.54-1.27)、
感染症発症ORは1.00(95%CI 0.61-1.63)であった。
患者報告アウトカムにおいて、予防投与群で有意に良好なアウトカムは
なかった。そのため、予防的抗菌薬は意味がないと結論づけている。
(2012年4月時点で該当論文なし)

・さいごに
気管支鏡時の抗菌薬使用に関して、現時点で有用なエビデンスはない。
しかしながら、気管支鏡が口腔内常在菌を末梢気道に押し込んで
しまうことで肺炎を誘発するようなことが懸念される状況、あるいは
気管支狭窄がみられ処置後に閉塞性肺炎を惹起する可能性が高い
と想定される場合には、抗菌薬は投与してもよいかもしれない。
かといって投与しやすい経口第3世代セフェムに飛びつくのは
私個人としては反対である。また、予防投与によって肺炎が
起こらなかった場合や、予防投与をせずに肺炎を発症した場合に、
「やはり抗菌薬は使用すべきだ」という、個と全を混同した意見を持つことは、
臨床医としてはいささか短絡的かもしれない。

by otowelt | 2012-04-26 18:28 | コントラバーシー

ピラジナミド耐性結核は全剤感受性結核よりも予後不良

12.6%でアウトカム情報が得られなかったのはなぜだろう…。

Yee, D. P, et al.
Clinical outcomes of pyrazinamide-monoresistant Mycobacterium tuberculosis in Quebec
The International Journal of Tuberculosis and Lung Disease, Volume 16, Number 5, 1 May 2012 , pp. 604-609(6)


背景:
 ケベックにおいて全結核のうち6.2%がピラジナミド単独耐性(PZAMR)
 である。PZAMRの臨床的重要性についてはよくわかっていない。
 
方法:
 カナダ生まれの患者で、1990年1月から2000年12月の間に
 PZAMR結核と診断された患者を、過去の報告におけるカナダ生まれの
 同時期の全剤感受性結核患者と比較する。
 
結果:
 318人の患者が登録され、40人(12.6%)でアウトカム情報が
 得られなかった。平均治療期間はPZAMRおよび全剤感受性結核において
 それぞれ9.0ヶ月、8.9ヶ月であった。91%のPZAMR結核、89%の
 全剤感受性結核においてリファンピシンを含めた治療を最低6ヶ月受けた。
 PZAMR患者67人のうち、51人(76%)が治癒し、3 人(4%) が再発、
 治療失敗はおらず、16人(24%)が診断6ヶ月以内に死亡した。
 全剤感受性結核211人のうち、181人(86%)が治癒し、2人(1%)が再発、
 2人(1%)が治療失敗、30人(14%)が診断6ヶ月以内に死亡した。
 PZAMR結核は全剤感受性結核と比較して、臨床アウトカムの成功に対する
 オッズ比を低下させた(OR 0.4, 95%CI 0.2-0.8)。

結論:
 PZAMR結核は、全剤感受性結核株よりも有意に予後不良である。

by otowelt | 2012-04-26 13:22 | 抗酸菌感染症

MDR-TBにおける肝機能障害と予後との関連

Keshavjee, S, et al.
Hepatotoxicity during treatment for multidrug-resistant tuberculosis: occurrence, management and outcome
The International Journal of Tuberculosis and Lung Disease, Volume 16, Number 5, 1 May 2012 , pp. 596-603(8)


セッティング:
 ロシアのTomskにおける多剤耐性結核(MDR-TB)治療プログラム

目的:
 MDR-TB治療における肝機能障害のマネジメントを記載し、
 これによる治療アウトカムへの影響を考察する。

デザイン:
 608人の患者におけるレトロスペクティブの症例シリーズ

結果:
 アメリカ胸部学会2006年の定義による肝機能障害が
 568人のうち91人(16.5%)にみられた。最初の肝機能障害イベントが
 みられた中央時間は196日目であった。ベースラインの因子が
 肝機能障害と相関しており、ALT/AST/ビリルビン上昇
 (OR 53.9, 95%CI 6.30-438.7),
 腎機能障害(OR 19.6, 95%CI 2.71-141.6)がそれに寄与した。
 治療アドヒアランスの高さ(OR 3.25, 95%CI 2.07-5.09)および
 刑務所内での治療開始(OR 1.77, 95%CI 1.04-3.01)は
 治療成功と関連していた。喫煙(OR 0.44, 95%CI 0.21-0.92)、
 両肺空洞陰影(OR 0.51, 95%CI 0.34-0.77) は転帰不良と
 関連していた。アルコール常用者において、肝機能障害は
 健常者よりも良好なアウトカムと関連していた(OR 4.40, 95%CI 1.79-10.81 vs
 OR 0.42, 95%CI 0.25-0.68)。91人中10人において
 1つ以上の薬剤が永続的に中止されたが、治療中断例はなかった。

結論:
 肝機能障害のみられたMDR-TB治療は、統計学的に有意な
 転帰不良とは関連しないと考えられる。

by otowelt | 2012-04-26 13:04 | 抗酸菌感染症