2018年 08月 15日 ( 1 )

膿胸に対する胸腔ドレナージ/線維素溶解療法

 胸腔ドレナージは、「胸腔ドレーンは太ければ太いほどよい」みたいな慣習がありましたが、現在は細径でも太径でも臨床アウトカムに差がないことがわかっており1)、疼痛が少ないので細径の方がよいと考える人が増えてきました。ただ、たとえ小規模な研究でそう結論づけられても、粘稠度の高い膿がドレーン先端でフィブリンとともに固まってしまう事態は誰しも経験があるでしょう。そのため、極端に細い8Frのアスピレーションキットで治療する勇気は私にはなく、12~14Fr以上の径を選んでしまいます。昔は20Fr以上の胸腔ドレーンを積極的に選んでいたものですが・・・

※気胸の場合、COPDや肺の構造改変がある患者さんでは太めの胸腔ドレーンを入れた方がよいとという意見もあります。細径の場合に局所的なベルヌーイの定理(のようなもの)がはたらくからではないかと考えられています。

 イギリス呼吸器学会のガイドライン2)を読むと、定期的に生食をプッシュしてドレーンの閉塞を解除すれば、細径ドレーンでも管理できると考えられます。そのため、細径でもドレーン閉塞に注意しながらであれば管理は可能です。

 さて、膿胸に対する胸腔ドレナージの際、「線維素溶解療法」を適用するかどうかが1つの分かれ道になります。これは、ストレプトキナーゼ、ウロキナーゼなどを胸腔ドレーンから注入する治療法です。線維素溶解療法の目的は、フィブリン隔壁を溶解することでドレナージ効率を高めることです。日本ではもっぱらウロキナーゼが用いられていますが、基本的には保険適用されないので注意が必要です。私が研修医になった頃は、線維素溶解療法に関する大規模臨床試験3)やメタアナリシス4)がよく報告されており、いずれにおいても死亡・外科手術の必要性といったアウトカムを有意に改善する効果はありませんでした()。ただ、結構きわどい結果のものが多く、あといくつかの比較試験が集まれば「効果あり」と判定されなくもない位置付けでした。
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. 胸腔内感染症に対する線維素溶解療法の5研究のメタアナリシス4)(文献より引用)

 その後、天下のコクランレビュー5)やCHEST誌のメタアナリシス6)で新しいデータを含めた解析がおこなわれました。死亡リスクを低下させる効果があるとは言えないものの、外科手術を回避しやすいことが分かりました()。また、「外科手術がよいか非外科手術がよいか」という別のテーマでコクランレビュー7)が報告されており、ここでは両治療の死亡リスクに差はないと書かれています。つまり、線維素溶解療法には死亡リスクを低減する効果はありませんが、侵襲性の高い外科手術を回避する効果はあると言えます。
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. 胸腔内感染症に対する線維素溶解療法の7研究のメタアナリシス7)(文献より引用)

 ちなみにウロキナーゼは1回12万単位を生食100mLとともに注入し、2~3時間クランプしたあとに開放する処置を1日1回3日間行うことが一般的です。

 海外では、DNaseの投与がさかんのようです。DNaseはデオキシリボヌクレアーゼのことで、DNAおよびDNA-タンパク複合体に作用して、膿性滲出物の粘稠度を下げることができます。日本ではプルモザイム®という嚢胞性線維症に対するDNase吸入薬がありますが、胸腔内への注入用につくられておらず、日本ではDNaseを注入することは難しいでしょう。胸腔内感染に対する、t-PA+DNaseの胸腔内投与によって ドレナージ効果が改善し、手術コンサルテーションの
頻度が減り、入院期間が短縮します(8)。多くの臨床試験では1日2回3日間というt-PA+DNaseレジメンが適用されています。
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. t-PA+DNaseの効果8)(文献より引用)

 線維素溶解療法の際、胸部CT写真で2mm以上の胸膜肥厚があると、失敗するリスクが高いとされています9)。とはいえ、膿胸で胸膜肥厚2mm以上というのはよくみられる所見なので、失敗しやすくても「やるっきゃない」と思わずにいられません。

 線維素溶解療法を適用するか否かは別として、エキスパートオピニオンレベルでは膿胸腔の洗浄も非常に有効とされていますが、洗浄処置は昔と比べて減った印象です。どうでしょう、みなさんの施設では膿胸に対して洗浄を行っていますか?


(参考文献)
1) Rahman NM, et al. The relationship between chest tube size and clinical outcome in pleural infection. Chest. 2010 Mar;137(3):536-43.
<胸膜感染が疑われる患者(おそらく膿胸の症例以外も組み入れられている)に対するストレプトキナーゼ注入の研究において、胸腔ドレーンのサイズ(10Fr未満、10~14Fr、20Fr以上)と3ヶ月後の臨床アウトカムの関連を調べた研究。径の太細にかかわらず、臨床アウトカムは同等でした。>
2) Davies CW, et al. BTS guidelines for the management of pleural infection. Thorax. 2003 May;58 Suppl 2:ii18-28.
<イギリスの胸腔感染症に関するガイドライン。6時間ごとに生食でドレーン閉塞を解除するテクニックが紹介されています。>
3) Maskell NA, et al. Controlled trial of intrapleural streptokinase for pleural infection. N Engl J Med. 2005 Mar 3;352(9):865-74.U.K.
<ストレプトキナーゼ25万単位1日2回3日間の胸腔内注入療法の効果を検証したランダム化比較試験。死亡率や外科手術の必要性といったアウトカムに差はみられませんでした。>
4) Tokuda Y, et al. Intrapleural fibrinolytic agents for empyema and complicated parapneumonic effusions: a meta-analysis. Chest. 2006 Mar;129(3):783-90.
<5研究を集めた線維素溶解療法のメタアナリシス。有意ではないものの、線維素溶解療法が死亡と外科手術必要性を減らす可能性があるという含みが書かれています。リスク比0.55、95%信頼区間0.28~1.07。>
5) Cameron R, et al. Intra-pleural fibrinolytic therapy versus conservative management in the treatment of adult parapneumonic effusions and empyema. Cochrane Database Syst Rev. 2008 Apr 16;(2):CD002312.
<7研究を集めたの線維素溶解療法のメタアナリシス。死亡リスクを軽減する効果はないが、外科手術を回避する効果があると考察されている[これらのアウトカムに関しては6研究の解析に基づく]。>
6) Janda S, et al. Intrapleural fibrinolytic therapy for treatment of adult parapneumonic effusions and empyemas: a systematic review and meta-analysis. Chest. 2012 Aug;142(2):401-411.
<上記コクランレビューとは一部異なる7研究を集めた線維素溶解療法のメタアナリシス。外科手術の必要性を回避する効果が報告されています。>
7) Redden MD, et al. Surgical versus non-surgical management for pleural empyema. Cochrane Database Syst Rev. 2017 Mar 17;3:CD010651.
<膿胸の治療において、外科手術と非外科手術に死亡アウトカムの差がないことを示したコクランレビューです。>
8) Rahman NM, et al. Intrapleural use of tissue plasminogen activator and DNase in pleural infection. N Engl J Med. 2011 Aug 11;365(6):518-26.
<DNaseとt-PAの併用によって胸腔感染症の臨床アウトカムを改善したという大規模臨床試験です。>
9) Abu-Daff S, et al. Intrapleural fibrinolytic therapy (IPFT) in loculated pleural effusions--analysis of predictors for failure of therapy and bleeding: a cohort study. BMJ Open. 2013 Jan 31;3(2). pii: e001887.
<t-PAあるいはストレプトキナーゼによる線維素溶解療法の成功しにくい因子を調べた報告。胸部CTにおいて胸膜肥厚が2mmを超えると失敗しやすいことが示されました[オッズ比3.1、95%信頼区間1.46-6.57、p=0.0031]>





by otowelt | 2018-08-15 00:10 | レクチャー