2019年 11月 23日 ( 1 )

本の紹介:サパイラ 身体診察のアートとサイエンス(第2版)

医学書院で書かせていただいた書評です。

デジタル時代の今だからこそ身体診察
書評者:倉原 優(国立病院機構近畿中央呼吸器センター呼吸器内科

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原著:Jane M. Orient 
監訳:須藤博先生/藤田芳郎先生/徳田安春先生/岩田健太郎先生
ページ:998
発行:2019年10月
定価:13,200円 (本体12,000円+税10%)

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 名著『サパイラ』の原書第5版・翻訳第2版である。身体診察について1000ページも書かれた本など,寡聞にして知らない。

 私は身体診察の教育に力を入れた病院で研修を受けたため,どちらかといえば“アナログ”な医師である。6年前の前版で初めて『サパイラ』に触れたが,この本はこれまで学んだ身体診察技法を昇華させてくれる師となった。今でもときどき読み返すくらいである。

 私はもともとピアノ弾きなので,この本では胸部打診の項目が一番好きだ(pp.435-436)。「最初は強く(ストローク4インチ),2番目はより弱く(ストローク2インチ)」という細かい技法にも感嘆するが,そのあとが大事である。「爪の長い医学生には,短く切るようにアドバイスしたい」。私が好きなのは,こういうところである。打診を考案したのはアウエンブルッガーというオーストリアの医師であるが,彼がサリエリという宮廷音楽家とオペラを書いていたという本書の余談はとても面白い。ちなみに,アウエンブルッガーの2人娘は,その後サリエリにピアノを学び,優れたピアニストとして活躍したらしい。

 打診は打診音を美しく出さなければいけない。そのためには,利き手の指のストロークと初速が大事なのだが,その練習法を複数挙げて書かれてある本書は驚異的である。医学生時代,私は臨床実習前に,飲水前後の自分の腹部を打診して練習したものだが,『サパイラ』には「炭酸飲料」と書かれてある。水じゃなくてコーラにすればよかったのかもしれないと思った。

 この本の特長は,向こうから語りかけてくる書き方にある。身体診察に重きを置くと,どこかで目にした無難な記述になってしまいそうなものだが,この本はまるでどこかの病院のカンファレンス室のホワイトボード前で,また実際の患者のベッドサイドで,レクチャーを受けているような錯覚さえ覚える。「アドバイス」「指導医へ」「自己学習」などのサブ項目の完成度は高く,研修医のレクチャーを一緒に聞いていた指導医が,「君たち中堅医師もこれに注意したまえ」と襟を正されるような記述が随所に登場する。

 4つの代表的診察技法(視診・聴診・打診・触診)の5つ目にポータブル超音波はどうですか1),と言われるほど“デジタル”な時代になってしまった。医師経験が長い人ほどデジタルに足元をすくわれそうになった経験が思い出に苦みを残している。実はそんな時,身体診察に助けられる場面は多いのだ。だからこそ,『サパイラ』である。

●参考文献
1)Narula J, et al. JAMA Cardiol. 2018 Apr 1;3(4):346-350.


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by otowelt | 2019-11-23 00:37 | その他