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膿胸に対する胸腔ドレナージ/線維素溶解療法

 胸腔ドレナージは、「胸腔ドレーンは太ければ太いほどよい」みたいな慣習がありましたが、現在は細径でも太径でも臨床アウトカムに差がないことがわかっており1)、疼痛が少ないので細径の方がよいと考える人が増えてきました。ただ、たとえ小規模な研究でそう結論づけられても、粘稠度の高い膿がドレーン先端でフィブリンとともに固まってしまう事態は誰しも経験があるでしょう。そのため、極端に細い8Frのアスピレーションキットで治療する勇気は私にはなく、12~14Fr以上の径を選んでしまいます。昔は20Fr以上の胸腔ドレーンを積極的に選んでいたものですが・・・

※気胸の場合、COPDや肺の構造改変がある患者さんでは太めの胸腔ドレーンを入れた方がよいとという意見もあります。細径の場合に局所的なベルヌーイの定理(のようなもの)がはたらくからではないかと考えられています。

 イギリス呼吸器学会のガイドライン2)を読むと、定期的に生食をプッシュしてドレーンの閉塞を解除すれば、細径ドレーンでも管理できると考えられます。そのため、細径でもドレーン閉塞に注意しながらであれば管理は可能です。

 さて、膿胸に対する胸腔ドレナージの際、「線維素溶解療法」を適用するかどうかが1つの分かれ道になります。これは、ストレプトキナーゼ、ウロキナーゼなどを胸腔ドレーンから注入する治療法です。線維素溶解療法の目的は、フィブリン隔壁を溶解することでドレナージ効率を高めることです。日本ではもっぱらウロキナーゼが用いられていますが、基本的には保険適用されないので注意が必要です。私が研修医になった頃は、線維素溶解療法に関する大規模臨床試験3)やメタアナリシス4)がよく報告されており、いずれにおいても死亡・外科手術の必要性といったアウトカムを有意に改善する効果はありませんでした()。ただ、結構きわどい結果のものが多く、あといくつかの比較試験が集まれば「効果あり」と判定されなくもない位置付けでした。
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. 胸腔内感染症に対する線維素溶解療法の5研究のメタアナリシス4)(文献より引用)

 その後、天下のコクランレビュー5)やCHEST誌のメタアナリシス6)で新しいデータを含めた解析がおこなわれました。死亡リスクを低下させる効果があるとは言えないものの、外科手術を回避しやすいことが分かりました()。また、「外科手術がよいか非外科手術がよいか」という別のテーマでコクランレビュー7)が報告されており、ここでは両治療の死亡リスクに差はないと書かれています。つまり、線維素溶解療法には死亡リスクを低減する効果はありませんが、侵襲性の高い外科手術を回避する効果はあると言えます。
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. 胸腔内感染症に対する線維素溶解療法の7研究のメタアナリシス7)(文献より引用)

 ちなみにウロキナーゼは1回12万単位を生食100mLとともに注入し、2~3時間クランプしたあとに開放する処置を1日1回3日間行うことが一般的です。

 海外では、DNaseの投与がさかんのようです。DNaseはデオキシリボヌクレアーゼのことで、DNAおよびDNA-タンパク複合体に作用して、膿性滲出物の粘稠度を下げることができます。日本ではプルモザイム®という嚢胞性線維症に対するDNase吸入薬がありますが、胸腔内への注入用につくられておらず、日本ではDNaseを注入することは難しいでしょう。胸腔内感染に対する、t-PA+DNaseの胸腔内投与によって ドレナージ効果が改善し、手術コンサルテーションの
頻度が減り、入院期間が短縮します(8)。多くの臨床試験では1日2回3日間というt-PA+DNaseレジメンが適用されています。
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. t-PA+DNaseの効果8)(文献より引用)

 線維素溶解療法の際、胸部CT写真で2mm以上の胸膜肥厚があると、失敗するリスクが高いとされています9)。とはいえ、膿胸で胸膜肥厚2mm以上というのはよくみられる所見なので、失敗しやすくても「やるっきゃない」と思わずにいられません。

 線維素溶解療法を適用するか否かは別として、エキスパートオピニオンレベルでは膿胸腔の洗浄も非常に有効とされていますが、洗浄処置は昔と比べて減った印象です。どうでしょう、みなさんの施設では膿胸に対して洗浄を行っていますか?


(参考文献)
1) Rahman NM, et al. The relationship between chest tube size and clinical outcome in pleural infection. Chest. 2010 Mar;137(3):536-43.
<胸膜感染が疑われる患者(おそらく膿胸の症例以外も組み入れられている)に対するストレプトキナーゼ注入の研究において、胸腔ドレーンのサイズ(10Fr未満、10~14Fr、20Fr以上)と3ヶ月後の臨床アウトカムの関連を調べた研究。径の太細にかかわらず、臨床アウトカムは同等でした。>
2) Davies CW, et al. BTS guidelines for the management of pleural infection. Thorax. 2003 May;58 Suppl 2:ii18-28.
<イギリスの胸腔感染症に関するガイドライン。6時間ごとに生食でドレーン閉塞を解除するテクニックが紹介されています。>
3) Maskell NA, et al. Controlled trial of intrapleural streptokinase for pleural infection. N Engl J Med. 2005 Mar 3;352(9):865-74.U.K.
<ストレプトキナーゼ25万単位1日2回3日間の胸腔内注入療法の効果を検証したランダム化比較試験。死亡率や外科手術の必要性といったアウトカムに差はみられませんでした。>
4) Tokuda Y, et al. Intrapleural fibrinolytic agents for empyema and complicated parapneumonic effusions: a meta-analysis. Chest. 2006 Mar;129(3):783-90.
<5研究を集めた線維素溶解療法のメタアナリシス。有意ではないものの、線維素溶解療法が死亡と外科手術必要性を減らす可能性があるという含みが書かれています。リスク比0.55、95%信頼区間0.28~1.07。>
5) Cameron R, et al. Intra-pleural fibrinolytic therapy versus conservative management in the treatment of adult parapneumonic effusions and empyema. Cochrane Database Syst Rev. 2008 Apr 16;(2):CD002312.
<7研究を集めたの線維素溶解療法のメタアナリシス。死亡リスクを軽減する効果はないが、外科手術を回避する効果があると考察されている[これらのアウトカムに関しては6研究の解析に基づく]。>
6) Janda S, et al. Intrapleural fibrinolytic therapy for treatment of adult parapneumonic effusions and empyemas: a systematic review and meta-analysis. Chest. 2012 Aug;142(2):401-411.
<上記コクランレビューとは一部異なる7研究を集めた線維素溶解療法のメタアナリシス。外科手術の必要性を回避する効果が報告されています。>
7) Redden MD, et al. Surgical versus non-surgical management for pleural empyema. Cochrane Database Syst Rev. 2017 Mar 17;3:CD010651.
<膿胸の治療において、外科手術と非外科手術に死亡アウトカムの差がないことを示したコクランレビューです。>
8) Rahman NM, et al. Intrapleural use of tissue plasminogen activator and DNase in pleural infection. N Engl J Med. 2011 Aug 11;365(6):518-26.
<DNaseとt-PAの併用によって胸腔感染症の臨床アウトカムを改善したという大規模臨床試験です。>
9) Abu-Daff S, et al. Intrapleural fibrinolytic therapy (IPFT) in loculated pleural effusions--analysis of predictors for failure of therapy and bleeding: a cohort study. BMJ Open. 2013 Jan 31;3(2). pii: e001887.
<t-PAあるいはストレプトキナーゼによる線維素溶解療法の成功しにくい因子を調べた報告。胸部CTにおいて胸膜肥厚が2mmを超えると失敗しやすいことが示されました[オッズ比3.1、95%信頼区間1.46-6.57、p=0.0031]>





by otowelt | 2018-08-15 00:10 | レクチャー

胸膜癒着術

※2018年8月13日改訂

●はじめに
 胸膜癒着術は、気胸や悪性胸水に適用されます。ただし、そのエビデンスは多くありません。この処置は、胸膜を癒着させ胸腔を閉鎖すれば気胸の再発を予防できるのではという発想のもと、1930年代に初めて用いられました1)。その頃からすでに、現在使われているタルクや自己血を胸腔内に注入していました。

 悪性胸水によく使用されるピシバニール®(Streptococcus pyogenes A3:OK432)は1980年代から使用され始めました。自然気胸の5年再発率を16%減少することができたという報告があります(25% vs 41%)2)。タルクによる胸膜癒着術では、自然気胸がほとんど再発しないという知見が広まり、欧米では自然気胸に対する胸膜癒着術はタルクが主流です。しかし、日本では2018年現在タルクは悪性胸水にしか保険適用されません。

 胸膜癒着術の全例が成功するわけではありません。肺の拡張が得られないようなケースではそもそも意味がありません。壁側胸膜と臓側胸膜の2つの胸膜が離れた状態では、それらがくっつく“糊”を入れても空振りに終わるからです。また胸膜播種が重度で粘液産生性の場合、何度やっても癒着できないケースもあります。その他、胸膜癒着術が成功しにくい要因があります3)。例えば胸水中pHが7.28以下のような場合、失敗する確率は上がります。他にも胸水中LDHが高いケース(600 U/L以上)、胸水糖が低下しているケース(60~70mg/dL以下)は胸膜癒着術失敗のリスク因子とされています。


●癒着剤
 癒着剤として何を胸腔内に注入するかですが、大きく分けると2種類あります。

起炎症性癒着剤タルク(ユニタルク®)、テトラサイクリン系抗菌薬、ピシバニール®(OK432)、抗癌剤、ポビドンヨード、(50%ブドウ糖液)
それ自体に接着作用がある癒着剤自己血、50%ブドウ糖液、フィブリン糊


(1)タルク(ユニタルク®)・・・悪性胸水と気胸に使用されているが日本では悪性胸水にしか保険適用がない
 2013年12月、悪性胸水の治療薬であるユニタルク®胸膜腔内注入用懸濁剤4gが発売されました。タルクは、滑石という鉱石を微粉砕した無機粉末です。癌性胸膜炎による悪性胸水に対して、胸膜癒着剤の第一選択とされています。メタアナリシスでは、タルクは最も胸膜癒着術の成績がよい癒着剤とされており、最低でも78%の成功率が維持できるというすぐれものです4)。胸膜が肥厚して癒着効果が得られにくい悪性胸膜中皮腫においても高い胸水コントロール率を誇ります5)

 ユニタルク®は1回4gを生食50mLとともに胸腔内に注入します。10gを超える使用では急性呼吸窮迫症候群(ARDS)などの重篤な副作用も報告されています。日本における後ろ向き検討6)では、ARDSを発症した患者は発症しなかった患者よりも高齢者が多く(年齢中央値80歳 vs 66歳、p=0.02)、胸部CTで既存の間質影がみられる頻度が高かった(4人中2人 vs 23人中1人、p<0.05)とされています。

 ユニタルクは生理食塩水で懸濁してから使用します。放っておくと沈殿してしまうため、溶液内にタルクをまんべんなく行き渡らせて注入するよう心がけましょう。

   
(2)ピシバニール®(OK432)…癌性胸膜炎に使用されている、時に気胸に使用されている
 もともと抗癌剤というカテゴリーに入る薬剤で、注射用製剤で0.2・0.5・1・5KE/バイアルがあります。1KEはStreptococcus pyogenes (A群3型)Su株ペニシリン処理凍結乾燥粉末2.8mg乾燥菌体として0.1mgに相当し、KEとはドイツ語で「Klinische einheit(臨床単位)」のことを指します。ベンジルペニシリンカリウムを含有していますので、ペニシリンアレルギー患者には禁忌です。また、心臓疾患、腎臓疾患患者には慎重投与となっています。1回あたり5~10KEを胸腔内に注入します。白金製剤の胸腔内投与は激烈な症状が出ることがあり、安全性やエビデンスが蓄積されているピシバニール®の方がまだ安心できます。

 シスプラチン単独、ピシバニール®単独、両者を併用する3群において、180日後の再発率が64.7%、52.9%、13.3%だったという報告7)があり、併用療法の有用性も指摘されています(ただしこの場合ドレーン留置期間は8.4日、5.5日、12.9日)。

 日本で行われたJCOG9515試験8)で、4週間の間の胸水無増悪生存率は、ピシバニール®(OK432)で75.8%、ブレオマイシン68.6%、シスプラチン+エトポシド70.6%で有意差はなかったものの()、ピシバニール®が良好な成績であったことから日本ではピシバニール®を含むメニューがよく使用されます。
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. 胸水無増悪生存(文献8)より引用)

 ピシバニール®は強い炎症を惹起できるので、気胸に用いられることもあります。間質性肺炎合併気胸に対するピシバニール®は、39人中4人がIP悪化をおこし2人が死亡するリスクはありますが、総じて有効性は高いため、難治性の気胸では選択肢として考慮してもよいかもしれません9)


(3)自己血・・・主に気胸に使用されている
 悪性胸水に対する自己血による胸膜癒着術の有効性も報告されていますが(テトラサイクリンとの比較10))、日本では主に気胸に対して用います。

 特にエアリークが止まりにくい難治性気胸に対して有効です。自己血による胸膜癒着術の原理は簡単で、傷口がふさがらない肺に“かさぶた”をつくって治療するというものです。自己血のよいところは、注入しても副作用がほぼ起こらないことです。自身の血液を採取して、それを胸腔内に注入するため安全です。間質性肺炎に対してもリスクなく使用できます11)

 10の後ろ向き研究を解析した報告12)によれば、遷延性気胸に対する自己血による胸膜癒着術の成功率は92.7%です。呼吸器内科で経験する難治性気胸に絞るともう少し成功率は低いと思いますが、気胸の胸膜癒着術の第一選択にしてもよいでしょう。

 25人の遷延性気胸における注入血液量を比べた報告13)がありますが、0mL、50mL、100mLで、エアリークが止まるまでの日数が6.3±3.7日、2.3±0.6日、1.5±0.6日でした。有意に100mL群でエアリークが止まるまでの日数が短かったとされています。そのため、100mL程度の注入が望ましいと考えられています。


(4)ブレオマイシン・・・悪性胸水に使用されている
 言わずと知れた抗癌剤です。1mg/kg、多いときで50~60mg/kgを注入します。日本では抗癌剤による胸膜癒着術としてはシスプラチンも使われることがありますが、骨髄抑制や腎障害などの副作用が50~80%見られ、他の抗癌剤に比べて強い傾向にあります。ピシバニール®の項にも記載しましたが、統計学的には4週間の胸水無増悪生存率は、ピシバニール®やシスプラチン+エトポシドと同等の成績です8)


(5)テトラサイクリン系抗菌薬・・・悪性胸水、気胸に使用されている
 海外の文献ではタルクに劣る報告がいくつかあるため、アメリカではあまり使用されません。日本ではまだ胸膜癒着剤の主役になっている施設もあります。ドキシサイクリン500mg、ミノサイクリン300mg程度を生食に溶解して注入する方法が主流です。とても胸膜痛が強く出る薬剤ですので、事前に1%キシロカインを注入しておくなどの対策が必要です。

 自然気胸に対しては、胸腔ドレナージ単独よりもミノサイクリンによる胸膜癒着術を併用したほうが再発抑制効果は高かったという報告があります(1年後の再発率:ミノサイクリン群29.2%、胸腔ドレナージ単独群49.1%、p=0.003)14)。とはいえ、合併症の観点から考えると、自己血より先んじてテトラサイクリンを用いることはなさそうです。


(6)フィブリン糊・・・悪性胸水、気胸に使用されている
 A液=フィブリノゲンをアプロチニンで溶解、B液=トロンビンを塩化カルシウムで溶解、この2種類を直前に混和して注入します。フィブリン生成過程を利用して組織の接着・閉鎖を行います。アプロチニンは牛肺を原料とするのでアレルギーに注意しなければなりません。最近はあまり臨床では目にしませんが、自己血による胸膜癒着術で成功しなかった気胸に効果があったという報告もあります15)


(7)50%ブドウ糖液・・・気胸に使用されている
 近年、国内では気胸に対する50%ブドウ糖液の胸腔内注入がトレンドです16)-18)。私は自己血をファーストラインで用いていましたが、2018年現在は自己血あるいは50%ブドウ糖のいずれかを選択しています。気胸の術中に50%ブドウ糖を50mL散布することで、術後の気胸再発を予防できるという報告19)もあります。

 ピシバニール®やテトラサイクリンよりも合併症が少ないため、特に間質性肺疾患の患者さんでは使いやすいです。ただ、副作用は少ないのは間違いありませんが、注入後の胸膜痛が多いように感じます。安価でありレセプトで悩むこともそうなさそうですから、気胸の術中にルーチンで50%ブドウ糖液を注入してもよさそうです。

 50%ブドウ糖は悪性胸水に対しても有効です。ただし、胸水中の糖が高いと胸膜癒着術が失敗しやすいようです20)。一般的には胸水糖が低すぎる胸水例で胸膜癒着術の成功率が低いと言われていますが、50%ブドウ糖の場合は胸水糖が高すぎることが失敗のリスクとされています。

 注入量については古典的には200mLがベストですが、多すぎると胸膜痛が強く出てしまうので、もしかすると100mLくらいでもよいかもしれません。血糖が一時的に上昇するので、糖尿病の患者さんでは高血糖に注意してください。


(8)その他
 その他、ポビドンヨードによる癌性胸膜炎や気胸の再発予防の報告もあります。タルクに遜色ないという結果も報告されており、今後期待されています。ブレオマイシンのような起炎症性の胸膜癒着剤と比較するとビドンヨードの胸膜癒着効果は同等に高いと報告されていますが21)、自己血や50%ブドウ糖と肩を並べる存在になるのかどうかは分かりません。また、その他の胸膜癒着剤として、テトラサイクリン系以外の抗菌薬であるエリスロマイシンが有望視されています22)



●実際の手順
 実際の手順についてです。使用する胸腔ドレーンは必ずしも20Fr以上の太径胸腔ドレーンを使用する必要はありません。疼痛の観点からも細径(10~14Fr程度)でよいとされています(23)。ただ、私は16Fr以上の胸腔ドレーンを使うことが多いです。ダブルルーメンでないとテクニカルに胸膜癒着しにくいため、院内に採用されている胸腔ドレーンを事前に調べておきましょう。
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. 胸膜癒着術における細径胸腔ドレーンと太径胸腔ドレーンの治療効果23)(文献より引用)

 ちなみに、施術は肺の拡張が完全に得られていることが前提条件です。悪性胸水については排液量が150mL/日くらいを下回れば、問題なく癒着術ができます。


1.全身ステロイドは事前にできるだけ減らしておくことが推奨されています24)

2.薬剤を胸腔に注入する前に1%キシロカインを20mL程胸腔内注入したり、解熱鎮痛薬を事前に内服してもらったりしてから治療を行います。これらによって胸膜痛を軽減することができます。NSAIDsを使用すると胸膜癒着剤の効果が減るという都市伝説がありましたが、現在はこの考えは否定されています25)

3.薬剤を入れて、胸腔ドレーンをクランプします。
 ・自己血50~100mL(採血係と胸腔注入係の2人が必要)
 ・50%ブドウ糖液200mL
 ・ピシバニール®5~10KE+生理食塩水50~100mL
 ・ユニタルク®4g+生理食塩水50mL (注入後生理食塩水50mLを追加)
 ・ミノマイシン®100~300mg+生理食塩水100mL


4.クランプ中、肺尖部分を中心に癒着剤が胸腔に広がるように体位変換することが重要とされています(例:仰臥位10~20分・右側臥位10~20分・左側臥位10~20分・腹臥位10~20分・坐位10~20分など)
 ※ただし、体位変換そのものや変換時間のエビデンスは現時点ではありません26)
 ※胸腔ドレーン側を下にすると当然痛いので、その体位はスキップします。


5.臓側胸膜と壁側胸膜を癒着する必要があるので、クランプ開放後は陰圧(たとえば-15~20cmH2Oなど)で持続吸引するのが望ましいという意見が多いです。
 ※陰圧やクランプ時間のエビデンスは現時点ではほとんどありません。クランプ開放は2時間後というエキスパートオピニオンもあれば、5~6時間は必要という意見もあります。可能なら接続管は患者さんの体から40~60cm高い位置を経由させて、空気のみが排出されるようにします。
 ※個人的には、ドレーンが閉塞しないように適宜ごく少量のエアを注入して適宜開通を確認することもあります。胸膜癒着術では胸腔ドレーン閉塞が一番問題になります。


6.悪性胸水の場合、1日150mL以下の胸水排液で胸腔ドレーンを抜去しても問題ありません。それ以上の胸水排液が24時間以上続く場合は、再度胸膜癒着術を考慮します。3回目以降の胸膜癒着術にはエビデンスがありません。気胸の場合、エアリークが消失していたら、胸腔ドレーンが閉塞した気胸の傷口がふさがっているかのどちらかです。バイタルサインに問題がなければ翌日の胸部レントゲン写真で肺が全拡張しているかどうか確認します。
 ※肺が虚脱してエアリークがない場合、ドレーン閉塞が考えられます。翌日にこれを発見するのは嫌なので、上述したように陰圧をかけている間にドレーンが開通しているかどうか少量のエアを注入して確認します(ただし推奨される医療行為ではない)。



●副作用
 胸膜癒着術の副作用としてよくみられるのは、発熱、疼痛です。特に発熱と疼痛は自己血以外ではほぼ必発です。重篤な副作用として呼吸不全、SIRS、膿胸などがありますが、呼吸器内科医としておさえておかなければならないのは、タルクによるARDSです。高齢者や間質性肺疾患のある患者さんではリスクが高いので要注意です6)

 SpO2が低下した場合、まれなARDSなどの合併症を疑うよりも、まず胸腔ドレーンの閉塞を疑ってください。とくに自己血の場合、胸腔ドレーン閉塞と気胸治癒の判断が難しいことがあるため、翌日の胸部レントゲン撮影は必須です。


(参考文献)
1) Bethune N. Pleural poudrage: new technique for the deliberate production of pleural adhesion as preliminary to lobectomy. J Thorac Surg 1935; 4:251.
2) Gyorik S et al. Long-term follow-up of thoracoscopic talc pleurodesis for primary spontaneous pneumothorax. Eur Respir J. 2007 Apr;29(4):757-60.
3) Heffner JE et al. Pleural fluid pH as a predictor of pleurodesis failure: analysis of primary data. Chest 2000 Jan;117(1):87-95.
4) Tan C, et al. The evidence on the effectiveness of management for malignant pleural effusion: a systematic review. Eur J Cardiothorac Surg. 2006;29(5):829.
5) Rena O, et al. Persistent lung expansion after pleural talc poudrage in non-surgically resected malignant pleural mesothelioma. Ann Thorac Surg. 2015; 99(4): 1177-83.
6) Shinno Y, et al. Old age and underlying interstitial abnormalities are risk factors for development of ARDS after pleurodesis using limited amount of large particle size talc. Respirology. 2018 Jan;23(1):55-59.
7) Ishida A, et al. Intrapleural cisplatin and OK432 therapy for malignant pleural effusion caused by non-small cell lung cancer. Respirology. 2006 Jan;11(1):90-7.
8) Yoshida K, et al. Randomized phase II trial of three intrapleural therapy regimens for the management of malignant pleural effusion in previously untreated non-small cell lung cancer: JCOG 9515. Lung Cancer. 2007 Dec;58(3):362-8.
9) Ogawa K, et al. OK-432 pleurodesis for the treatment of pneumothorax in patients with interstitial pneumonia. Respir Investig. 2018 Jun 11. pii: S2212-5345(18)30095-9.
10) Keeratichananont W, et al.Efficacy and safety profile of autologous blood versus tetracycline pleurodesis for malignant pleural effusion. Ther Adv Respir Dis. 2015 Apr;9(2):42-8.
11) Aihara K, et al. Efficacy of Blood-Patch Pleurodesis for Secondary Spontaneous Pneumothorax in Interstitial Lung Disease. Intern Med 50: 1157-1162, 2011.
12) Chambers A, et al. Is blood pleurodesis effective for determining the cessation of persistent air leak? Interact Cardiovasc Thorac Surg. 2010 Oct;11(4):468-72.
13) Andreetti C, et al. Pleurodesis with an autologous blood patch to prevent persistent air leaks after lobectomy. J Thorac Cardiovasc Surg 2007 Mar;133(3):759-62.
14) Chen JS, et al. Simple aspiration and drainage and intrapleural minocycline pleurodesis versus simple aspiration and drainage for the initial treatment of primary spontaneous pneumothorax: an open-label, parallel-group, prospective, randomised, controlled trial. Lancet. 2013 Apr 13;381(9874):1277-82.
15) Iyama S, et al. Successful treatment by fibrin glue sealant for pneumothorax with chronic GVHD resistant to autologous blood patch pleurodesis. Intern Med. 2012;51(15):2011-4.
16) Tsukioka T, et a. Pleurodesis with a 50% Glucose Solution in Patients with Spontaneous Pneumothorax in Whom an Operation is Contraindicated. Ann Thorac Cardiovasc Surg. 2013;19(5):358-63.
17) Tsukioka T, et al. Intraoperative mechanical and chemical pleurodesis with 50 % glucose solution for secondary spontaneous pneumothorax in patients with pulmonary emphysema. Surg Today. 2013 Aug;43(8):889-93.
18) Fujino K, et al. Novel approach to pleurodesis with 50 % glucose for air leakage after lung resection or pneumothorax. Surg Today. 2016 May;46(5):599-602.
19) Tsuboshima K, et al. Pleural Coating by 50% Glucose Solution Reduces Postoperative Recurrence of Spontaneous Pneumothorax. Ann Thorac Surg. 2018 Jul;106(1):184-191.
20) Pantazopoulos I, et al. Pleural fluid glucose: A predictor of unsuccessful pleurodesis in a preselected cohort of patients with malignant pleural effusion. J BUON. 2014 Oct-Dec;19(4):1018-23.
21) Bagheri R, et al. The effect of iodopovidone versus bleomycin in chemical pleurodesis. Asian Cardiovasc Thorac Ann. 2018 Jun;26(5):382-386.
22) Zhai CC, et al. Erythromycin poudrage versus erythromycin slurry in the treatment of refractory spontaneous pneumothorax. J Thorac Dis. 2018 Feb;10(2):757-765.
23) Thethi I, et al. Effect of chest tube size on pleurodesis efficacy in malignant pleural effusion: a meta-analysis of randomized controlled trials. J Thorac Dis. 2018 Jan;10(1):355-362.
24) Kennedy L et al. Pleurodesis using talc slurry. Chest 1994 Aug;106(2):342-6.
25) Rahman NM, et al. Effect of Opioids vs NSAIDs and Larger vs Smaller Chest Tube Size on Pain Control and Pleurodesis Efficacy Among Patients With Malignant Pleural Effusion: The TIME1 Randomized Clinical Trial. JAMA. 2015 Dec 22-29;314(24):2641-53.
26) Dryzer SR, et al. A comparison of rotation and nonrotation in tetracycline pleurodesis. Chest. 1993 Dec;104(6):1763-6.



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気管支サーモプラスティにかかる費用

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 1ヶ月に2回、翌月に1回といった感じで2ヶ月で計3回治療を受けるのがベストな選択です。収入が多い人の場合でも、高額療養費を使うことで上限は40万円くらいにおさまるはずです。もっとも適用例が多い18~69歳の患者における高額療養費制度を使った場合の自己負担額をに掲載します。

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喘息とマグネシウムの関連性

e0156318_10523354.png・喘息とマグネシウムの関連性
 体内では、総マグネシウムのうち、約70~80%がイオン化マグネシウムとして存在すると言われており、その生理活性はイオン化マグネシウムが持つとされています。さて、喘息とマグネシウムの関連について、よく知られているのは喘息発作の治療薬としてのマグネシウムです。

 喘息に対するマグネシウムの作用機序は、イオン化マグネシウムが細胞外でイオン化カルシウムのアンタゴニストとして作用し、イオン化カルシウムによる平滑筋収縮作用を抑制することが主です1),2)。これにより気管支平滑筋が弛緩されやすい状態になり、喘息発作を軽減させます。in vivoでは軽微な影響ではあるものの、抗炎症作用を持つことが知られています。喘息発作の治療薬として短時間作用性β2刺激薬が用いられますが、マグネシウムはこの受容体の親和性を亢進する作用も併せ持ちます。そのほか、頻脈を抑制するはたらきがあり、に示したように複数の作用によって喘息発作を緩和する方向にはたらきます。

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図. 喘息とマグネシウムの関連

・喘息に対するマグネシウムの有効性
 今から30年近く前の研究で、喘息診療医の間ではよく知られたランダム化比較試験3)があります。喘息発作の患者をプラセボ生理食塩水静注群と1.2gの硫酸マグネシウム静注群に割り付け、ピークフロー値や入院アウトカムの改善がみられるかどうか検証したものです。結果、マグネシウム投与群で有意なアウトカムの改善がみられました。一方、ネブライザー吸入のマグネシウム、静注マグネシウム、プラセボの効果を比較した近年の研究4)では、投与経路にかかわらずマグネシウムは入院アウトカムや呼吸困難のスケールに有意な効果をもたらしませんでした。

 その後、ネブライザー吸入と静注に分けてコクランが別々にレビューをしています。質の低い研究が多いものの、ネブライザーマグネシウムの投与はわずかながら肺機能や喘息発作による入院を改善させたことを報告しています。しかしエビデンスとしては弱く、その他の喘息発作治療に比べると極めて弱い効果であることが明記されています5)。静注に関しては、成人喘息に対するマグネシウム投与は入院の頻度を減らすとされています6)。100人の喘息発作にマグネシウムを静注することで、約7人の入院を減らすことができるようですが、個人的にはそこまでの発作軽減力はないように感じています。

 当然ながら、死亡率を低下させるほどの効果はありませんので7)、重症喘息治療に対する奥の手として用いたとしてもやはりパワー不足というのが実のところではないでしょうか。

関連記事:マグネシウムは気管支喘息発作に本当に効果があるのか?


(参考文献)
1) Gourgoulianis KI, Chatziparasidis G, Chatziefthimiou A, et al. Magnesium as a relaxing factor of airway smooth muscles. J Aerosol Med. 14:301-307, 2001.
2) Sinert R, Spektor M, Gorlin A, et al.Ionized magnesium levels and the ratio of ionized calcium to magnesium in asthma patients before and after treatment with magnesium. Scand J Clin Lab Invest. 65:659-670, 2005.
3) Skobeloff EM, Spivey WH, McNamara RM, et al. Intravenous magnesium sulfate for the treatment of acute asthma in the emergency department.JAMA. 262:1210-1203, 1989.
4) Goodacre S, Cohen J, Bradburn M ,et al. Intravenous or nebulised magnesium sulphate versus standard therapy for severe acute asthma (3Mg trial): a double-blind, randomised controlled trial. Lancet Respir Med. 1:293-300, 2013.
5) Knightly R, Milan SJ, Hughes R, et al :Inhaled magnesium sulfate in the treatment of acute asthma. Cochrane Database Syst Rev. 11:CD003898, 2017.
6) Kew KM, Kirtchuk L, Michell CI, et al. Intravenous magnesium sulfate for treating adults with acute asthma in the emergency department. Cochrane Database Syst Rev. 28;CD010909, 2014.
7) Hirashima J, et al. Effect of intravenous magnesium sulfate on mortality in patients with severe acute asthma. Respirology. 21(4):668-73, 2016.







by otowelt | 2018-08-08 00:10 | レクチャー

Cope針を用いた胸膜生検

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・手順

①局所麻酔後、シャフト(外筒)+インナーシャフト(内筒)+トロッカーを組み合わせた状態で胸腔を穿刺する。胸腔に到達したかどうかは、トロッカーを抜いて胸水の流出を確認することで行う。ただし、シャフト(外筒)だけでシリンジにつないでも通常の胸腔穿刺と同様に胸水が返ってくるので、トロッカー自体にはあまり存在意義はない。

②胸水の流出を確認したら、シャフト(外筒)からインナーシャフト(内筒)も抜き、外気胸にならないよう手で穴を抑えながら、スネア外筒+スネア内筒を挿入する。生検は、スネア外筒を用いて行う。

スネア外筒からスネア内筒を1~2cm程度抜いた状態でないと、スネア外筒の生検鉤が露出しないので(写真1)、生検はスネア内筒をわずかに引いた状態でおこなうことを覚えておく(写真2)。
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シャフト(外筒)の先端が壁側胸膜ギリギリの胸腔にあるのが望ましいが、盲目的にこの位置を探すのは難しいため、スネア外筒の生検鉤が胸膜に引っかかるかどうか何度もスネア外筒を抜き差しする作業が必要である(写真3)。このとき、角度をつけて胸膜をスネア外筒に噛ませることを意識しなければならない(胸壁と垂直だとスネア外筒が胸膜を噛まないため)。シャフト(外筒)をゆっくり体外側へ移動させながら、角度をつけてスネア外筒を引く作業を繰り返す。このとき、あらかじめ1~2cm引いておいたスネア(内筒)が術野外に落ちてしまわないよう注意する(極めて滑らかに落ちる)。
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スネア外筒の生検鉤が胸膜に引っかかると、患者は胸膜痛を訴えることが多い。疼痛が強ければ、局所麻酔を追加してもよい。このままシャフトを胸腔に進める形でスネア外筒に胸膜を収納するのが一般的だが、スネア外筒を回転させたりそのまま手前に引っ張たりすることで組織を採取してもよい。

⑥皮下に胸水が漏出することが多いので、処置後は深めに垂直マットレス縫合をおこない創を閉鎖する。


・注意すべき合併症:外気胸

デバイスの出し入れが多い処置であるため、外気胸のリスクが多い。可能であれば、外気と交通する瞬間にはすべて息を止めてもらうのが望ましい。とはいえ、少量の外気胸であっても、経過観察のみで軽快することが多い。


(参考文献)
・籠手田恒敏, 他. 胸膜炎に対する体壁胸膜針生検. 日胸疾会誌1981;19(8):567-74.


by otowelt | 2017-09-22 00:50 | レクチャー

deflation cough

 肺活量を測定する際、肺を最大限に空っぽにする際生じる咳嗽のことをdeflation coughと呼びます。「deflation」というのは、空気を抜く、空っぽにする、という意味の単語です。これは努力性肺活量の測定時ではなく、通常の肺活量(VC)の測定時の後半に観察される咳嗽です。1720人の連続測定のうち、43人に認められるまれな現象です1)
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. deflation coughのフローボリューム曲線1)(文献より引用)

 このdeflation coughはGERとの関連性が指摘されています1)。ただ、さほど稀な病態をは言えない酸逆流の存在診断において、deflation coughの陽性適中率は37.5%しかありません2)。しかしながら、陰性適中率は96.2%とされており、慢性咳嗽患者さんでdeflation coughがなかったらGERDは否定的と言ってもよいかもしれませんね。


(参考文献)
1) Lavorini F, et al. Respiratory expulsive efforts evoked by maximal lung emptying. Chest. 2011 Sep;140(3):690-6.
2) Lavorini F, et al. The Clinical Value of Deflation Cough in Chronic Coughers With Reflux Symptoms. Chest. 2016 Jun;149(6):1467-72.



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by otowelt | 2017-01-31 00:25 | レクチャー

心臓喘息ではピークフロー値は低下しにくい?

 心臓喘息、すなわち心不全が背景にある喘息様の症状では、ピークフロー値は喘息発作やCOPD急性増悪ほど低下しません。急性呼吸不全で受診した患者のピークフロー値を測定した小規模な前向き観察研究では、心不全の方がCOPD急性増悪より有意にピークフロー値が高いことが報告されています(224±82L/分 vs 108±49L/分, p<0.001)(1)。もちろん健常者からみれば224L/分というのは結構低いですが・・・。
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. COPD急性増悪と心不全のピークフロー値(文献1)より引用)

 ピークフロー値の絶対値ではなく予測値からの乖離をみたほうがよいとする意見もあります2)。高齢者ではピークフロー値の予測値が低いためです。


(参考文献)
1) McNamara RM, et al. Utility of the peak expiratory flow rate in the differentiation of acute dyspnea. Cardiac vs pulmonary origin. Chest. 1992 Jan;101(1):129-32.
2) Pollack CV Jr. Utilization of the peak expiratory flow rate in evaluation of acute dyspnea of cardiac or pulmonary origin. Chest. 1993 Apr;103(4):1306-7.



by otowelt | 2017-01-27 00:42 | レクチャー

ネーザルハイフローのレビュー

2016年10月20日更新

●はじめに
 ネーザルハイフローを使用しているICU・呼吸器科が増えてきましたた。ここではFisher & Paykel社のネーザルハイフローTMではなく、一般名としてネーザルハイフロー(NHF)という用語を使用させていただきます。


●NHFとは
 NHFとは、その名の通り、鼻カニューラから最大30L~50L/分くらいまでの流量を流すことができる高流量システムです。加湿を強くかけており、鼻が痛くなる心配はほとんどありません。加温加湿器、酸素ブレンダー、それらをつなぐ回路がセットになっており、ハイフローで送気して気道の死腔をウォッシュアウトできるだけでなく、わずかな陽圧をかけることもできるとされています。
 日本では、Fisher & Paykel Healthcare社の製品であるネーザルハイフローTM(写真)や、パシフィックメディコ社のハイフローセラピーシステムTMなどが用いられています。Fisher & Paykelのネーザルハイフロー™システムでは、加湿器のMR850、カニューラのOptiflow™を使用しています。
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●NHFの利点
1.QOL
 食事ができる、会話ができる、口腔ケアが可能、夜眠りやすいなど様々な利点があります。「たったそれだけか」と思うかもしれませんが、これらができることは入院患者さんにとって大きな利点です。NPPVも当初はそういった謳い文句がありましたが、NHFの方がNPPVよりもQOLを向上させるのは明白です。
 ちなみに、私自身、NHF30L/分を流した状態で水が飲めるか試してみましたが、問題なく飲水することができました。

2.精度の高いFiO2
 呼吸生理学的には、通常の鼻カニューラやオキシマイザーTMカニューラに比べて死腔ウォッシュアウトが可能となり、正確なFiO2を実現できるのが大きな利点です。ウォッシュアウトによってCO2再吸収を極限に減らすことが可能とされています。
Dysart K, et al. Research in high flow therapy: mechanisms of action. Respir Med 2009;103(10):1400-5.
 ただし、多くのランダム化比較試験ではII型呼吸不全はその適応から除外されており、II型呼吸不全に安全に用いることができるのかは不明です。

3.軽度のpositive airway pressure
 ニュージーランドの研究では、口を閉じた状態で、平均±SDの気道内圧を流量30, 40, 50 L/分で検証したところ、それぞれ1.93 ± 1.25 cm H2O, 2.58 ± 1.54 cm H2O, 3.31 ± 1.05 cm H2Oでした。流量に応じて圧が上昇していますね。
Parke RL, et al. The effects of flow on airway pressure during nasal high-flow oxygen therapy.Respir Care. 2011 Aug;56(8):1151-5. Epub 2011 Apr 15.
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 50L/分で平均気道内圧が7.1cmH2O程度という報告もあるので、流量以外の因子も気道内圧に影響しているのかもしれません。
Ritchie JE, et al. Evaluation of a high-flow nasal oxygen delivery system using oxygraphy, capnography and measurement of upper airway pressures. Anaesth Intensive Care. 2011 Nov;39(6):1103-10.
 小児モデルを使用した実験ではNHF20L/分の流量で最大4cmH2Oであり、安全に使用できるだろうという報告もあります。
・Urbano J, et al.High-flow oxygen therapy: pressure analysis in a pediatric airway model.Respir Care. 2012 May;57(5):721-6.
・Volsko TA, et al. High flow through a nasal cannula and CPAP effect in a simulated infant model.Respir Care. 2011 Dec;56(12):1893-900.


4.粘膜線毛クリアランスの適正化
 Fisher & Paykel社のウェブサイトでは、4つ目の利点としてこのクリアランスが掲げられています。これについては臨床試験や動物実験などで検証はされていないようです。

5.外見上の問題
 特に癌の終末期などでは、低酸素血症に陥りリザーバーマスクを装着すると“いかにも病人”といった状態に見えることがあります。NHFはもしかすると終末期の癌患者さんにおいてもQOLや外見上の問題をある程度緩和してくれるツールになるのかもしれません。


●NHFのエビデンス
 NHFが用いられる場面は、①一般的な急性呼吸不全(ICU・救急外来)、②術後呼吸不全(心臓外科手術・肺手術)、③抜管後呼吸不全、④早産時に対する呼吸補助、の4つであり、現時点で発表されているランダム化比較試験の多くはこの①~④のいずれかの病態に当てはまります。
 ④については議論の余地があり、最近CPAP療法との比較試験においてプライマイラウトカムであるランダム化後72時間以内の治療失敗がNHF群で有意に多かったことから、ここでは小児領域の記載を割愛したいと思います。
Roberts CT, et al. Nasal High-Flow Therapy for Primary Respiratory Support in Preterm Infants. N Engl J Med: 22 Sep 2016; 375:1142-51

・ICU
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表. ICUにおける主なNHFの臨床試験

1) Roca O, Riera J, Torres F, et al. High-flow oxygen therapy in acute respiratory failure. Respir Care. 2010;55(4):408-13.
2) Sztrymf B, Messika J, Bertrand F,, et al. Beneficial effects of humidified high flow nasal oxygen in critical care patients: a prospective pilot study. Intensive Care Med. 2011;37(11):1780-6.
3) Parke RL, McGuinness SP, Eccleston ML. A preliminary randomized controlled trial to assess effectiveness of nasal high-flow oxygen in intensive care patients. Respir Care. 2011;56(3):265-70.
4) Epstein AS, Hartridge-Lambert SK, Ramaker JS, et al. Humidified high-flow nasal oxygen utilization in patients with cancer at Memorial Sloan-Kettering Cancer Center. J Palliat Med. 2011;14(7):835-9.
5) Peters SG, Holets SR, Gay PC. High-flow nasal cannula therapy in do-not-intubate patients with hypoxemic respiratory distress. Respir Care. 2013;58(4):597-600.
6) Schwabbauer N, Berg B, Blumenstock G, et al. Nasal high-flow oxygen therapy in patients with hypoxic respiratory failure: effect on functional and subjective respiratory parameters compared to conventional oxygen therapy and non-invasive ventilation (NIV). BMC Anesthesiol. 2014;14:66.
7) Lemiale V, Mokart D, Mayaux J, et al. The effects of a 2-h trial of high-flow oxygen by nasal cannula versus Venturi mask in immunocompromised patients with hypoxemic acute respiratory failure: a multicenter randomized trial. Crit Care. 2015;19:380.
8) Frat JP, Thille AW, Mercat A, et al. High-flow oxygen through nasal cannula in acute hypoxemic respiratory failure. N Engl J Med. 2015;372(23):2185-96.


 ICUの急性呼吸不全に対するNHFは、NHF、通常酸素療法(フェイスマスク)、NPPVの3群を比べたランダム化比較試験(FLORALI試験)が大規模な報告です。これによれば、ICUのI型呼吸不全患者において、NHFはNPPVや通常酸素療法と挿管率に差はなかったものの(p=0.18)、90日死亡率を低下させました(ハイフロー療法と比較した90日死亡のハザード比は、通常の酸素療法群で2.01[95%信頼区間1.01-3.99、P = 0.046]、NPPV群で2.50[95%信頼区間1.31-4.78、P = 0.006])。
Frat JP, et al. High-flow oxygen through nasal cannula in acute hypoxemic respiratory failure. N Engl J Med. 2015 Jun 4;372(23):2185-96.
 Lemialeらの報告でも挿管率を低下させる効果はないと報告されており、挿管を回避するほどのインパクトはないと言えます。
Lemiale V, et al. The effects of a 2-h trial of high-flow oxygen by nasal cannula versus Venturi mask in immunocompromised patients with hypoxemic acute respiratory failure: a multicenter randomized trial. Crit Care. 2015 Nov 2;19:380.
 現時点では呼吸不全によるICU入室例において必ず選択しなければならないというコンセンサスはなさそうです。
 

・抜管後
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表. 抜管後における主なNHFの臨床試験

1) Maggiore SM, Idone FA, Vaschetto R, et al. Nasal high-flow versus Venturi mask oxygen therapy after extubation. Effects on oxygenation, comfort, and clinical outcome. Am J Respir Crit Care Med. 2014;190(3):282-8.
2) Hernández G, Vaquero C, González P, et al. Effect of Postextubation High-Flow Nasal Cannula vs Conventional Oxygen Therapy on Reintubation in Low-Risk Patients: A Randomized Clinical Trial. JAMA. 2016;315(13):1354-61.
3) Hernández G, et al.Effect of Postextubation High-Flow Nasal Cannula vs Noninvasive Ventilation on Reintubation and Postextubation Respiratory Failure in High-Risk Patients: A Randomized Clinical Trial. JAMA. 2016 Oct 18;316(15):1565-1574.



 抜管後の呼吸不全や再挿管に対するNHFの効果はどうでしょうか。過去のメタアナリシスでは、抜管後呼吸不全の危険因子がある患者において予防的NPPVが再挿管率とICU死亡率を減少させると報告されています。そのため、抜管後にNPPVを使用している施設も多いでしょう。
Agarwal R, et al. Role of noninvasive ventilation in acute lung injury/acute respiratory distress syndrome: a proportion meta-analysis. Respir Care. 2010 Dec;55(12):1653-60.
 さて、2014年にはベンチュリーマスクとNHFのランダム化比較試験の結果が発表されており、NHFの方がP/F比を高く維持することができ、再挿管率も低かったとされています。
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Maggiore SM, et al. Nasal high-flow versus Venturi mask oxygen therapy after extubation. Effects on oxygenation, comfort, and clinical outcome. Am J Respir Crit Care Med. 2014 Aug 1;190(3):282-8.
 この効果は、再挿管のリスクが低い患者でも同様であるとHernándezらが報告しており、抜管後に関しては現時点ではNHFが再挿管予防にかなり有効と考えられます。
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Hernández G, et al. Effect of Postextubation High-Flow Nasal Cannula vs Conventional Oxygen Therapy on Reintubation in Low-Risk Patients: A Randomized Clinical Trial. JAMA. 2016 Apr 5;315(13):1354-61.
 2016年10月には同じくHernándezらによりハイリスク例に対するNHFとNPPVのランダム化比較試験の結果が報告されています。抜管後24時間の使用により、72時間後の再挿管や呼吸不全を予防できるかどうかみたものです。その結果、NHFはNPPVに非劣性という結果でした。
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Hernández G, et al. Effect of Postextubation High-Flow Nasal Cannula vs Noninvasive Ventilation on Reintubation and Postextubation Respiratory Failure in High-Risk Patients: A Randomized Clinical Trial. JAMA. 2016 Oct 18;316(15):1565-1574.
 コストの点から全例にNHFを用いるのは現実的ではありません。そのため、やはりリスクの高い症例にしぼって使用することになるというプラクティスが大きく変わることはないと考えられます。


・術後
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表. 術後における主なNHFの臨床試験

1) Parke R, McGuinness S, Dixon R, et al. Open-label, phase II study of routine high-flow nasal oxygen therapy in cardiac surgical patients. Br J Anaesth. 2013 ;111(6):925-31.
2) Stéphan F, Barrucand B, Petit P, et al. High-Flow Nasal Oxygen vs Noninvasive Positive Airway Pressure in Hypoxemic Patients After Cardiothoracic Surgery: A Randomized Clinical Trial. JAMA. 2015;313(23):2331-9.
3) Corley A, et al. Direct extubation onto high-flow nasal cannulae post-cardiac surgery versus standard treatment in patients with a BMI ≥30: a randomised controlled trial. Intensive Care Med. 2015 May;41(5):887-94.
4) Ansari BM, Hogan MP, Collier TJ, et al. A Randomized Controlled Trial of High-Flow Nasal Oxygen (Optiflow) as Part of an Enhanced Recovery Program After Lung Resection Surgery. Ann Thorac Surg. 2016 ;101(2):459-64.


 術後についてはどうでしょうか。Stéphanらはランダム化比較試験において、心臓外科手術後の患者の呼吸不全発生率はNPPVと比較してNHFが非劣性を示したと報告しています。
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Stéphan F, et al. High-Flow Nasal Oxygen vs Noninvasive Positive Airway Pressure in Hypoxemic Patients After Cardiothoracic Surgery: A Randomized Clinical Trial. JAMA. 2015 Jun 16;313(23):2331-9.
 ただし肥満患者に対しては、無気肺を改善させたり呼吸数を改善させる効果はなく、むしろNHF群で呼吸困難スコアが不良であったという報告もあります。
Corley A, et al. Direct extubation onto high-flow nasal cannulae post-cardiac surgery versus standard treatment in patients with a BMI ≥30: a randomised controlled trial. Intensive Care Med. 2015 May;41(5):887-94.
 肺切除後のケースでは、通常の酸素療法と比べてNHF群で入院期間が減少したことが示されています。本研究ではプライマリアウトカムである術前後の6分間歩行距離には有意差はみられませんでした。
Ansari BM, et al. A Randomized Controlled Trial of High-Flow Nasal Oxygen (Optiflow) as Part of an Enhanced Recovery Program After Lung Resection Surgery. Ann Thorac Surg. 2016 Feb;101(2):459-64.
 個人的にはNHFのみではNPPVほど陽圧がかけられないため、特に術後の呼吸不全に対して無気肺を解除したりする物理的な効果は乏しいと感じています。術後は機能的残気量が減るため、陽圧換気や体位変換によって無気肺を予防する方がメリットは大きいかもしれません。


・救急外来
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表. 救急外来における主なNHFの臨床試験

1) Lenglet H, Sztrymf B, Leroy C, et al. Humidified high flow nasal oxygen during respiratory failure in the emergency department: feasibility and efficacy. Respir Care. 2012;57(11):1873-8.
2) Rittayamai N, Tscheikuna J, Praphruetkit N, et al. Use of High-Flow Nasal Cannula for Acute Dyspnea and Hypoxemia in the Emergency Department. Respir Care. 2015 Oct;60(10):1377-82.
3) Bell N, Hutchinson CL, Green TC, et al. Randomised control trial of humidified high flow nasal cannulae versus standard oxygen in the emergency department. Emerg Med Australas. 2015 Sep 29. doi: 10.1111/1742-6723.12490. [Epub ahead of print]
4) Jones PG, Kamona S, Doran O, et al. Randomized Controlled Trial of Humidified High-Flow Nasal Oxygen for Acute Respiratory Distress in the Emergency Department: The HOT-ER Study. Respir Care. 2016;61(3):291-9.


 17人と少数ですが、救急外来を受診したI型呼吸不全の患者に対して通常マスクからNHFへのスイッチがどのような効果をもたらすか検証した観察研究があります。これによれば、NHF群で呼吸困難スケールの改善、呼吸数減少、SpO2上昇の効果がみられました。
Lenglet H, et al. Humidified high flow nasal oxygen during respiratory failure in the emergency department: feasibility and efficacy. Respir Care. 2012 Nov;57(11):1873-8.
 また、救急外来を受診した急性の呼吸困難あるいは低酸素血症を呈した患者における、通常酸素療法とNHFのランダム化比較試験でも、呼吸困難や快適性の面でNHF群が優れていました。
Rittayamai N, et al. Use of High-Flow Nasal Cannula for Acute Dyspnea and Hypoxemia in the Emergency Department. Respir Care. 2015 Oct;60(10):1377-82.
 最も大規模なランダム化比較試験(HOT-ER試験)では、通常酸素療法とNHFを比較してもNHF群に有意な人工呼吸器装着回避効果はみられなかったとされています。しかし、CO2貯留による意識レベル低下はNHF群で少ないという結果でした(0% vs 2.2%)。
Jones PG, et al. Randomized Controlled Trial of Humidified High-Flow Nasal Oxygen for Acute Respiratory Distress in the Emergency Department: The HOT-ER Study. Respir Care. 2016 Mar;61(3):291-9.
 救急部におけるNHFも「悪くない」と総評できる結果ですが、積極的に用いなければならない事由はなさそうです。


 まとめると、おそらく無気肺を予防しなければならない状況下(術後)では、NHFを使う必要はなさそうです。呼吸生理学的にもNHFのみで無気肺を予防するのは難しいでしょう。一般的な呼吸不全に対しては、救急外来・ICUを問わず、現時点ではI型呼吸不全に対してはNHFを選択してもよいでしょう。ただ、強く推奨される酸素療法という位置付けになるほどのインパクトはないかもしれません。挿管にいたったケースでは、抜管後にNHFを用いることで再挿管を回避できる可能性があるため、通常の酸素療法ではなくNHFを選択してもよいかもしれません。
 なお、ランダム化比較試験のメタアナリシスが2016年9月に報告されています。通常の酸素療法(酸素マスクあるいはNPPV)とNHFを比較したランダム化比較試験のメタアナリシスが2016年9月に報告されています。これに組み込まれた試験は9試験(2507人)です。結果、NHFによる死亡率の改善効果はみられず、挿管率にも有意差はなかったと書かれています。忍容性や快適性について報告されている13研究を解析すると、NHF群の患者は酸素療法を快適に感じており呼吸困難スコアも低かったとされています。
Monro-Somerville T, et al. The Effect of High-Flow Nasal Cannula Oxygen Therapy on Mortality and Intubation Rate in Acute Respiratory Failure: A Systematic Review and Meta-Analysis. Crit Care Med. 2016 Sep 8. [Epub ahead of print]






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by otowelt | 2016-09-30 00:22 | レクチャー

吸入薬の薬価

 COPDで使用する吸入薬、喘息で使用する吸入薬の30日あたりの薬価をまとめてみました。3割負担だと、0.3をかければ1ヶ月あたりの患者さんのだいたいの自己負担額になります。

●喘息の吸入薬
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●COPDの吸入薬
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by otowelt | 2016-03-07 00:27 | レクチャー

前立腺肥大症のあるCOPD患者さんに吸入抗コリン薬は処方してよい?

e0156318_1225165.jpg・エビデンスはどう答える?
 抗コリン薬と前立腺肥大症の関係を知らない医療従事者はいないでしょう。抗コリン薬は前立腺肥大症状を悪化させ、ひどい場合には医原性の尿閉をきたします。エライコッチャです。吸入抗コリン薬とて例外ではなく、添付文書の禁忌の欄には閉塞隅角緑内障、前立腺肥大症という見慣れた病名が・・・。

 とはいえ、潜在的な前立腺肥大症の患者さんは多く、「ちょっと残尿感や頻尿があるからLAMAはやめておきましょう」とバッサリ切り捨てるのも考え物、ということで、多少の前立腺肥大症があっても使っていいんじゃないかという意見もあります。

 19のランダム化比較試験を組みこんだ解析では、程度については記載されていませんが吸入抗コリン薬の使用によって尿閉のリスクは上昇すると報告されています(相対リスク10.93、95%信頼区間1.26-94.88)1)。 また、ある症例対照研究では、男性のCOPD患者さんが吸入抗コリン薬を使用することで、非使用者より尿閉のリスクが上昇するという報告も(補正オッズ比1.42、95%信頼区間1.20-1.68)2)。前立腺肥大症がある男性ではさらにリスクが増すようです(補正オッズ比1.81、95%信頼区間 1.46-2.24)。 有名なUPLIFT試験ではどうだったかというと、プラセボ群よりもチオトロピウム群で尿閉が多かったものの統計学的な有意差は認められていません(率比1.65、95%信頼区間0.92-2.93)3)

 なんだやっぱ前立腺肥大症には絶対ダメじゃん、というと、ところがドッコイ。安全性には問題ないという報告もあります。前立腺肥大症のあるCOPD患者さん25人にチオトロピウムを使用したところ、急性の排尿障害を呈した例は1例もなく、国際前立腺症状スコアやQOLにも影響しなかったという日本の研究が報告されています4)。この臨床試験では、チオトロピウムは最大尿流量率と平均尿流量率にも悪影響を及ぼしませんでした。

 じゃあどっちなのよ、というとまだ結論がついていないというのが実のところです。2013年に、過去の報告をまとめたシステマティックレビューが報告されていますが、結局は“医学的利益と副作用のバランス次第”ということです5)。高齢者のCOPD患者さんの場合にはやはり注意が必要で、薬剤開始から30日以内は注意した方がよいそうです。


・実臨床では処方する?しない?
 添付文書では、LAMAは前立腺肥大症などによる排尿障害のある患者さんには禁忌で、前立腺肥大症があるだけなら慎重投与という位置づけです。そのため、もともと排尿障害が前面に出ている患者さんの場合は禁忌です。法的な観点からも、こういった患者さんのCOPD長期管理薬としてLAMAを選ぶには勇気が要るでしょう。そのため、私は明らかに前立腺肥大症の症状がコントロールできていない患者さんにはLAMAを処方しません。

 ただ、LAMAを新規に始めた患者さんをこれまでたくさん診てきましたが、排尿症状が悪化したという患者さんは現時点では1人も経験していません。他の排尿障害に注意すべき薬剤と比較しても、LAMAは吸入したところで体内で代謝される絶対量が少ないため、前立腺に与える影響はそこまで大きくないのでは・・・と考えています。

 前立腺肥大症のあるCOPD患者さんへLAMAを処方するのはためらわれますが、症状が軽度ですでに治療により排尿症状のコントロールができている患者さんであれば、注意しながら使用しても差し支えはないと思います。


(参考文献)
1) Kesten S, et al. Pooled clinical trial analysis of tiotropium safety. Chest. 2006 Dec;130(6):1695-703.
2) Stephenson A, et al. Inhaled anticholinergic drug therapy and the risk of acute urinary retention in chronic obstructive pulmonary disease: a population-based study. Arch Intern Med. 2011 May 23;171(10):914-20.
3) Tashkin DP, et al. A 4-year trial of tiotropium in chronic obstructive pulmonary disease. N Engl J Med. 2008 Oct 9;359(15):1543-54.
4) Miyazaki H, et al. Tiotropium does not affect lower urinary tract functions in COPD patients with benign prostatic hyperplasia. Pulm Pharmacol Ther. 2008 Dec;21(6):879-83.
5) Loke YK, et al. Risk of acute urinary retention associated with inhaled anticholinergics in patients with chronic obstructive lung disease: systematic review. Ther Adv Drug Saf. 2013 Feb;4(1):19-26.


by otowelt | 2016-02-26 00:17 | レクチャー