カテゴリ:レクチャー( 87 )

気管支喘息におけるAMD療法

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 AMD(Adjustable Maintenance Dosing:用量調節投与)療法という名前をご存知でしょうか。シムビコート®が発売されたときに広く知られるようになった吸入法ですが、最近は論文で取り上げられることも少なくなり、下火です。

 通常ICSやICS/LABAは1日あたり決まった量を定期的に吸入していくという方法が主流ですが、このAMD療法は長期管理薬の用法用量を患者さんの状態に合わせて調節する治療法です。たとえば、春先に必ず喘息症状が悪化する患者さんでは、冬の終わりから吸入薬の量を増やして、夏場には減らすという方法もあります。また、発作が多くなりそうな時(旅行先、風邪っぽい)に少し量を増やす、などなど。

 このAMD療法とはシムビコート®で使われる手法です。具体的にはシムビコート®を1回2吸入1日2回で使用していた場合、喘息状態が良好であれば1回1吸入1日2回にしたり、喘息状態が不良であれは1回4吸入1日2回にしたり・・・ということです。

 シムビコート®に限らず、ICSを間欠的に投与する方法は何度も検討されてきましたが、FD療法とAMD療法のいずれが優れているかという答えは出ていません1)。固定用法投与(FD)療法のアドエア®と比較した試験では、シムビコート®AMD療法よりもアドエア®FD療法の方が有意に良好な結果だったという報告もあります2)

 個人的にはAMD療法と称して患者さんにコントロールを丸投げしてしまうと、アドヒアランスの不良を招くだけでなく、受診頻度も減ってしまうのではないかと懸念しています。現時点では“FD派”です。


(参考文献)
1) Chauhan BF, et al. Intermittent versus daily inhaled corticosteroids for persistent asthma in children and adults. Cochrane Database Syst Rev. 2013 Feb 28;2:CD009611.
2) Price DB, et al. Salmeterol/fluticasone stable-dose treatment compared with formoterol/budesonide adjustable maintenance dosing: impact on health-related quality of life. Respir Res. 2007 Jul 4;8:46.


by otowelt | 2016-01-25 00:44 | レクチャー

ICSが効きにくい気管支喘息

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 気管支喘息の患者さんの30%ほどがICSに反応しにくいとされています。これは遺伝子や環境などさまざまな原因が考えられますが、環境因子として重要なのは何でしょうか?・・・・・そう、たばこです。

 たばこを吸っている喘息患者さんはICSが効きにくいので注意して下さい。ICSを受けている喘息患者さんの朝のピークフロー値で喫煙者と非喫煙者で25L/分 (95%信頼区間4~45)の差があったという報告もあります(p = 0.019)1)。メタアナリシスでもたばこは1秒量を低下させる有害性が示唆されています2)。呼吸器内科の世界では、残念ながらたばこイコール絶対悪です。喫煙は、一部の過敏性肺炎を除いてほぼすべての疾患の症状増悪リスクを上昇させます。

 さらに知っておきたいのは、高齢者はICSに効きにくいといことです。これは確定的な知見ではありませんが、私も実臨床で非常に難渋することがあります。高齢者特有のアドヒアランスの問題が挙げられます。これは如何ともしがたい事実です。また、加齢による免疫学的な事情もあるのかもしれません。たとえば、若年者はTh2細胞が優勢でICSが効きやすいのに対して、高齢者の場合はTh2細胞の関与が乏しいのではないかとされています(Th2細胞が優勢でありながらICSが効きにくいサブグループもおり、現在議論は混沌としています3))。そのため、インターロイキンなどのサイトカインに対する治療が高齢者には有効なんじゃないかと考える研究グループもいます。

 ICSが効きにくい喘息として、気管支喘息とCOPDの合併であるACOSも忘れないで下さい。COPDが主体のACOSの場合、ICSが効きにくい。というか、COPDの症状は劇的に改善するものではないので、“COPD寄りのACOS”はICSではなかなか太刀打ちできないのが現状です。


(参考文献)
1) Tomlinson JE, et al. Efficacy of low and high dose inhaled corticosteroid in smokers versus non-smokers with mild asthma. Thorax. 2005 Apr;60(4):282-7.
2) Zheng X, et al. Smoking influences response to inhaled corticosteroids in patients with asthma: a meta-analysis. Curr Med Res Opin. 2012 Nov;28(11):1791-8.
3) Anderson GP. Endotyping asthma: new insightsinto key pathogenic mechanisms in a complex, heterogeneous disease. Lancet. 2008 Sep 20;372(9643):1107-19.


by otowelt | 2016-01-20 00:38 | レクチャー

妊娠喘息

e0156318_7554433.jpg※2015年12月12日改訂

・妊娠中に喘息は悪化しやすい?
喘息の既往歴の有無を問わず、妊婦さんの10人に1人くらいは妊娠喘息を発症すると言われています。これは一般人口と比較すると結構多い数字です1)

 1988年と少し古い報告ですが、妊娠によって喘息の35%が悪化し、28%が改善し、33%が不変であると言われています2)。もう少し新しい報告に目を向けると、2015年の報告では、妊娠喘息全体からみると、第1期よりも第2・3期あたりに悪化することが多いと言われています3)

 適切にコントロールされている喘息患者さんでは、おおむね同じ治療ステップのまま分娩まで到達できますが、4割くらいの患者さんがステップアップを余儀なくされるというイギリスの報告もあります(図)4)。出産直前期には喘息症状がちょっとはマシになるという意見もありますが、その真偽はまだよくわかっていません5),6)
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図.妊娠による喘息治療ステップの変化4)(文献より引用)

 現時点で言えることは、妊娠と喘息は切っても切れない関係だということです。妊婦だから特段治療を強化しなければならないというワケではありませんが、産婦人科と併設されている病院では呼吸器科と併診できればよいと思います。産婦人科の主治医が喘息コントロールしている病院もあるでしょう。妊娠後期になると複数の診療科を受診できなくなりますから、妊娠初期の時点でアドヒアランスについて口を酸っぱくして患者さんに伝えておくことが重要だと思います。そのためには、「赤ちゃんに影響が出るとよくないからお薬やめます」という事態をなくさなければなりません。これが最も妊娠喘息を悪化させるリスク因子です。


・赤ちゃんに害のあるステロイドなんてイヤ!
 吸入ステロイド薬(ICS)。・・・・・・・ステロイドという名前を出した瞬間、ステロイド=よくない薬剤=胎児にはダメ、ゼッタイ!という、等式が頭に浮かぶためでしょう、患者さんの何人かは「薬はやめたいです」と言ってきます。しかし、断言できることがあります。喘息があるならICSは絶対に使用した方がよい。使用しない方が赤ちゃんに害が出ます7)。妊娠中の喘息存在は、胎児に低酸素血症をもたらし、流産や多発育不全のリスクを上昇させます8)。それがコントロール不良の喘息であれば、なおさらリスキーです9)。そして、ICSを定期的に吸入することで、喘息発作による救急受診を減らせることがわかっています。

 胎児に危険の及ばない範囲で喘息をコントロールしてあげることが、元気な赤ちゃんを産むために必要不可欠です。それがICSであれ、その他の喘息治療薬であれ。ICS以外の薬剤に関してもまず間違いなく安全ですが、100%の安全を保障してくれるものではありません。それは妊娠中であればどの薬剤でも同じでしょう。

 繰り返しますが、喘息患者さんが妊娠したときに私が言う一言は「赤ちゃんのためにICSを使い続けてほしい」ということです。


・喘息治療薬の催奇形性について
 妊娠中に薬剤を使用すると催奇形性が高くなることはよく知られています。ご存知のとおり妊娠中の薬剤によってリスクの高低があります。まず、妊娠中に使用しても問題ない気管支喘息治療薬を以下に掲載します(表)。
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 最も使用頻度が多いICSは、ほぼ安全です10)。ただ、それでもパルミコートのエビデンスが豊富であることから11)、妊娠喘息の第一選択は世界的にパルミコートと決まっています。これは多くの呼吸器内科に有名な知見ですが、個人的にはさほどICS間で大差はないと思っています。どんぐりの背比べ。

 ICS/LABAについては口蓋裂などの催奇形リスクをやや上昇するという報告もあるため、特に妊娠初期にはICSのみでコントロールできるのであれば、無用なICS/LABAを処方しなくてもよいでしょう12)。ICS/LABAは医学的にはほとんど問題なく使用できるくらい安全性は高いのですが、わずかでもリスクの上昇があると報告されると、それが法的根拠になることがありえます。LABAに対する検討はまだすすんでおらず、現時点で積極的にLABAを選択する必要性はないと私は思います13)。重症例に対してはLABAの上乗せを選択しなければならないこともあるでしょうが。LAMAについては妊婦に対する報告が多くありません。個人的にはステップ3以上であっても使用しません。とりわけLAMAにこだわる場面はなさそうです。

 クロモグリク酸(インタール®)は、使うタイミングや妊娠時に有効なのかどうかという大規模な検討はされておらず、積極的に用いることはありません。

 妊婦に対するアドレナリンについては、とくに重積発作のときに使用するべきかどうか迷います。アナフィラキシーショックに対して投与しなかったことで過去に訴訟に発展したケースもあり、それが頭をよぎる医師も少なくないでしょう。投与する=胎児に影響を与える、投与しない=母体が致命的になるという場合、母体優先で究明すべきと思います。アドレナリンの投与によって子宮血流が低下するとされていますが、明らかな有害事象はそれほど報告されていません。

 アメリカFDA(Food and Drug Administration)は、PLLR(Pregnancy and Lactation Labeling Final Rule)ステートメントにおいてこれまで使用していたカテゴリーA、B、C、D、Xの胎児危険度分類を廃止する方針です(実務上2015年6月以降撤廃)。この分類によって混乱を招き、胎児へのリスクの差を正しく伝えられなかったとしています。とはいえ、現場ではまだこの胎児危険度分類が取り上げられることも多いでしょう。今後の動向を見守りたいと思います。GINAで安全とされているICS、β2刺激薬、テオフィリン、ロイコトリエン拮抗薬で、FDA旧カテゴリーBのものが妊娠喘息でよく使用されています。ヒトでの対照試験が実施されていないものは、FDA旧カテゴリーCになっています。オーストラリア医薬品評価委員会の分類基準も記載しておきます。
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表. 妊婦に対する喘息治療薬の薬物別推奨(旧FDA基準、オーストラリア基準)


・妊娠喘息の発作時は?
 妊娠喘息が救急搬送されてきました。さて、どうしましょう。ステロイドの点滴は憚られるし、とりあえずSABAのネブライザーで様子をみて・・・・・・。

 ちょっと待ってください。妊娠喘息が搬送されてきた場合には、通常の喘息発作と同じ治療にあたってください。催奇形性が問題ではなく、母体の喘息によって胎児に有効な血流が送られないことの方が問題なのです。優先順位を間違えてはいけません。GINAのガイドラインでも発作時には迷うことなく全身性ステロイドを用いるべきと記載しています。喘息発作で救急を受診した妊婦さんも、最近はステロイドの点滴を受ける頻度が増えてきたそうです。これにより救急部の喘息ケアが改善したことが報告されています23)。ただし、ステロイドの点滴が必要でない軽症の発作に対しては、本当に投与する必要があるのかどうか考えるべきです。全身性ステロイドのリスクはゼロというワケではないのですから。

 小ネタですが、発作時に吸入マグネシウムが妊婦に安全と言われています。妊娠喘息発作で救急外来に来た際にはマグネシウムを選択することが妥当かもしれないというコクランレビューがあります24)。ただ、日本では点滴治療が主流であり、マグネシウムをネブライザー吸入する手法は普及していません。


・授乳婦喘息の治療
 授乳婦の喘息治療については、通常の成人と同等にあつかってよいです。代謝された薬剤が母乳に漏出する可能性がありますが、その量は雀の涙ほどです。新生児・乳児に影響が出る可能性はまずないでしょう。唯一、テオフィリン徐放製剤については、大量に服用することで新生児・乳児に興奮、不眠、などの精神的症状をきたす可能性があります。


(参考文献)
1) Kelly W, et al. Asthma in pregnancy: Physiology, diagnosis, and management. Postgrad Med. 2015 May;127(4):349-58.
2) Schatz M, et al. The course of asthma during pregnancy, post partum, and with successive pregnancies: a prospective analysis. J Allergy Clin Immunol. 1988 Mar;81(3):509-17.
3) Kim S, et al. Effect of pregnancy in asthma on health care use and perinatal outcomes. J Allergy Clin Immunol. 2015 Jun 11. pii: S0091-6749(15)00650-8. doi: 10.1016/j.jaci.2015.04.043. [Epub ahead of print]
4) Charlton RA, et al. Asthma management in pregnancy. PLoS One. 2013 Apr 4;8(4):e60247.
5) Gluck JC, et al. The effect of pregnancy on the course of asthma. Immunol Allergy Clin North Am. 2006 Feb;26(1):63-80.
6) Gluck JC. The change of asthma course during pregnancy. Clin Rev Allergy Immunol. 2004 Jun;26(3):171-80.
7) Smy L, et al. Is it safe to use inhaled corticosteroids in pregnancy? Can Fam Physician. 2014 Sep;60(9):809-12, e433-5.
8) Demissie K, et al. Infant and maternal outcomes in the pregnancies of asthmatic women. Am J Respir Crit Care Med. 1998 Oct;158(4):1091-5.
9) Wen SW, et al. Adverse outcomes in pregnancies of asthmatic women: results from a Canadian population. Ann Epidemiol. 2001 Jan;11(1):7-12.
10) Hodyl NA, et al. Fetal glucocorticoid-regulated pathways are not affected by inhaled corticosteroid use for asthma during pregnancy. Am J Respir Crit Care Med. 2011 Mar 15;183(6):716-22.
11) Norjavaara E, et al . Normal pregnancy outcomes in a population-based study including 2,968 pregnant women exposed to budesonide. J Allergy Clin Immunol. 2003 Apr;111(4):736-42.
12) Garne E, et al. Use of asthma medication during pregnancy and risk of specific congenital anomalies: A European case-malformed control study. J Allergy Clin Immunol. 2015 Jul 25. pii: S0091-6749(15)00837-4. doi: 10.1016/j.jaci.2015.05.043. [Epub ahead of print]
13) Eltonsy S, et al. Beta2-agonists use during pregnancy and perinatal outcomes: a systematic review. Respir Med. 2014 Jan;108(1):9-33.
14) National Heart, Lung, and Blood Institute, National Asthma Education and Prevention Program Asthma and Pregnancy Working Group. NAEPP expert panel report. Managing asthma during pregnancy: recommendations for pharmacologic treatment-2004 update. J Allergy Clin Immunol. 2005 Jan;115(1):34-46.
15) Stenius-Aarniala B, et al. Slow-release theophylline in pregnant asthmatics. Chest. 1995 Mar;107(3):642-7.
16) Park-Wyllie L, et al. Birth defects after maternal exposure to corticosteroids: prospective cohort study and meta-analysis of epidemiological studies. Teratology. 2000 Dec;62(6):385-92.
17) Gur C, et al. Pregnancy outcome after first trimester exposure to corticosteroids: a prospective controlled study. Reprod Toxicol. 2004 Jan-Feb;18(1):93-101.
18) Schatz M, et al. The relationship of asthma medication use to perinatal outcomes. J Allergy Clin Immunol. 2004 Jun;113(6):1040-5.
19) Bakhireva LN, et al. Safety of leukotriene receptor antagonists in pregnancy. J Allergy Clin Immunol. 2007 Mar;119(3):618-25.
20) Chaudhuri K, et al. Anaphylactic shock in pregnancy: a case study and review of the literature. Int J Obstet Anesth. 2008 Oct;17(4):350-7.
21) Kupryś-Lipińska I, et al. Omalizumab in pregnant women treated due to severe asthma: two case reports of good outcomes of pregnancies. Postepy Dermatol Alergol. 2014 May;31(2):104-7.
22) Global Strategy for Asthma Management and Prevention. available from: http://www.ginasthma.org/local/uploads/files/GINA_Report_2015_May19.pdf
23) Hasegawa K, et al. Improved management of acute asthma among pregnant women presenting to the ED. Chest. 2015 Feb;147(2):406-14.
24) Bain E, et al. Interventions for managing asthma in pregnancy. Cochrane Database Syst Rev. 2014 Oct 21;10:CD010660.


by otowelt | 2015-12-12 09:40 | レクチャー

肥満喘息

e0156318_135030100.jpg・肥満は喘息の大敵
 肥満の人は男女を問わず喘息のリスク因子であることが知られています1)-5)。単独で肥満による喘息が取り上げられることはあまりなく、あくまでリスク因子どまりで議論されることが多いのですが、私は“肥満喘息”として個別に扱い強調すべきと考えています。
 この肥満喘息は女性に多いとされており、私もそう実感しています5)。そのため、アトピー素因のある20~30代女性の喘息患者さんでBMIが25を超えている場合には体重変化に注意した方がよいです。ステップ4ということで経口ステロイドが導入されると、一気に体重が増える患者さんもいます。
 特に非アレルギー性の喘息では肥満の存在はリスクの上昇に大きく寄与します。さらに、子どもの頃から肥満だと、将来の喘息のリスクが高いとされています6)。飽食の時代、親は要注意です。
 肥満の患者さんでは物理的に上気道が閉塞しやすいため、下気道が閉塞しやすい喘息の症状をさらに悪化させます。また、閉塞性睡眠時無呼吸も併発することがあり、その身体的ストレスから喘息発作の閾値が下がると考えられています。
 そのため喘息という疾患に対して肥満は何ひとつメリットがないのです。


・肥満喘息の治療
 肥満喘息の治療は、まず減量です。吸入薬も同時に処方しますが、BMIが30を超えているようなケースでは何とかして減量に取り組んでもらうことをオススメします。減量なくして肥満喘息の改善は絶対にありません。減量することによって、喘息重症度を軽減し、気道過敏性、喘息コントロール、呼吸機能、QOLも改善させることがわかっています7)
 その他の治療は、通常の喘息と同じでよいです。あまりにも肥満が重度の場合には、心不全がないことを確認した上でLABAを上乗せした方がよいかもしれません。
 肥満喘息の患者さんはテオフィリンの血中濃度が上がりやすいことが知られているため、通常量で徐放製剤を処方する場合、テオフィリンの血中濃度を必ず測定するようにして下さい。個人的には、高齢者や肥満の患者さんであれば必ずテオフィリンの血中濃度を測定するようにしています。


(参考文献)
1) Camargo CA Jr, et al. Prospective study of body mass index, weight change, and risk of adult-onset asthma in women. Arch Intern Med. 1999 Nov 22;159(21):2582-8.
2) Young SY, et al. Body mass index and asthma in the military population of the northwestern United States. Arch Intern Med. 2001 Jul 9;161(13):1605-11.
3) Stenius-Aarniala B, et al. Immediate and long term effects of weight reduction in obese people with asthma: randomised controlled study. BMJ. 2000 Mar 25;320(7238):827-32.
4) Beuther DA , et al. Overweight, obesity, and incident asthma: a meta-analysis of prospective epidemiologic studies. Am J Respir Crit Care Med. 2007 Apr 1;175(7):661-6.
5) Wang L, et al. Sex difference in the association between obesity and asthma in U.S. adults: Findings from a national study. Respir Med. 2015 Aug;109(8):955-62.
6) Egan KB, et al. Childhood body mass index and subsequent physician-diagnosed asthma: a systematic review and meta-analysis of prospective cohort studies. BMC Pediatr. 2013 Aug 13;13:121.
7) Pakhale S, et al. Effects of weight loss on airway responsiveness in obese adults with asthma: does weight loss lead to reversibility of asthma? Chest. 2015 Jun 1;147(6):1582-90.


by otowelt | 2015-11-30 00:47 | レクチャー

職業性喘息

e0156318_143172.jpg・職業性喘息とは
 私の外来の患者さんには、ある種の職業によって喘息を罹患した方がいます。こういう職業に関連した喘息のことを「職業性喘息」と呼ぶのですが、その職種は多岐に渡ります。
 たとえば、ガラス職人の喘息患者さんがいました。空気を入れながらガラス細工を行う作業中に喘息発作が起きやすいことが分かりました。その患者さんは以前からガラス細工をやめることが決まっており、卸売業に転身してからは喘息症状がピタリとやみました。典型的な職業性喘息だと思います。
 職業と呼吸器疾患といえば、じん肺が想起されますが、じん肺と職業性喘息の鑑別は極めて難しいです。特に、肺内に陰影のないじん肺の初期段階の患者さんでは、職業性喘息のような症状から始まることもあり、個人的には職業性呼吸器疾患の大きなスペクトラムに両方が存在すると考えています。
 ガイドラインでは、職業性喘息の定義は「特定の職業性物質に曝露されることにより発症する喘息」と定義されています1)。成人喘息患者さんの10~25%が職業的要因によって発症した喘息とされています2), 3)
 職業性喘息を疑うのは、“成人発症の喘息”をみたときです4)。アトピー素因が全くないのに、いきなり喘息発作で受診した患者さんには職業歴だけでなく、何か疑いのあるアレルゲンはないかどうかつぶさに問診する必要があります。
 もともと喘息を持っている人が、職業性曝露でたまたま一時的に悪化した場合には作業増悪喘息(work-aggravated asthma)という呼び方をすることもあります。


・職業性喘息の原因は?
 原因物質は、感作物質と刺激物質(塩素、受動喫煙など)に分類されます。
 感作物質は、高分子量物質と低分子量物質に分けられます(表)。
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 一方、刺激性物質によって誘発される喘息のことをRADS(reactive airways dysfunction syndrome)と呼びます。Irritant induced asthmaとも呼びます。要は、刺激性の強い気体を吸入した際に起こる喘息のことです。「まぜるな危険!」と書いてある洗剤などをお風呂場で使って喘息発作になった場合、このRADSが考えられます(この場合、職業性の曝露ではないですが)。非常に経過のはやい喘息発作を呈するので、早期治療が重要になります。
 頻度としては、感作物質による喘息の方が圧倒的多数を占めます6)。私もRADSは診察したことがありません。
 ちなみに、医療従事者として知っておきたいのは、夜勤が多い医療従事者では喘息が多いということです7)。これは厳密には職業性物質の曝露というワケではありませんが、勤務シフトによって喘息が悪化することも私たちは知っておかねばなりません。私の外来にも何人か看護師さんが通院しています。


・職業性喘息の治療と予後  ~仕事を辞める!?~
 基本的には職業性喘息の治療は“抗原回避”が鉄則です。つまり、職業性曝露をやめなさいということです。え?じゃあ仕事を辞めないといけないの?という話になります。実はこの問題は、呼吸器内科では過敏性肺炎でも勃発する問題です。過敏性肺炎は、多くが亜急性にアレルゲンに曝露されることで肺炎を起こします。抗原回避が最たる治療であるため、「仕事を辞めなければならないのか」と質問されることもしばしばです。私の個人的な経験では、仕事を辞めるのはまず無理です。生活がかかってますし、配置転換など融通のきく理想的な職場で働いている人はごくわずかです。何よりそのようなことを会社に言うことで、不利益を被るのではないかと恐れる患者さんは多い。そのため、抗原回避したくてもできない人がほとんどです。また、抗原を回避したとしても喘息が寛解するのは全体の3分の1と言われています1)
 現実的には、喘息治療を続けながら、マスクなどの対処によって抗原をできるだけ回避するよう指導するしかありません。薬物治療は、通常の喘息と同様の治療を行います。コントロールが良好であれば、患者さんと相談しながら治療を続けていきますが、コントロール不良例では仕事を続けるかどうか患者さんと議論せざるを得ないでしょう。
 IgEが関連することが多いので、ゾレア®が有効とされていますが8)、その薬価からなかなか手が出せない患者さんも少なくありません。現実的には、通常の喘息治療と同等のコントロールを行うことが多いです。個人的にはICSのステロイドの量をやや多めに設定しています。職業性喘息の場合、LABAはあまり効果的とは思いません。そのため、ICS/LABAと高用量ICSで迷った場合には、後者を選択しています。


(参考文献)
1) 日本アレルギー学会. 喘息予防・管理ガイドライン2015. 協和企画.
2) Balmes J, et al. American Thoracic Society Statement: Occupational contribution to the burden of airway disease. Am J Respir Crit Care Med. 2003 Mar 1;167(5):787-97.
3) Kogevinas M, et al. Exposure to substances in the workplace and new-onset asthma: an international prospective population-based study (ECRHS-II). Lancet. 2007 Jul 28;370(9584):336-41.
4) Cartier A. New causes of immunologic occupational asthma, 2012-2014. Curr Opin Allergy Clin Immunol. 2015 Apr;15(2):117-23.
5) Tarlo SM, et al. Occupational asthma. N Engl J Med. 2014 Feb 13;370(7):640-9.
6) Nicholson PJ, et al. Evidence based guidelines for the prevention, identification, and management of occupational asthma. Occup Environ Med. 2005 May;62(5):290-9.
7) Wortong D, et al. Risk of asthma in relation to occupation: A hospital-based case-control study. Asian Pac J Allergy Immunol. 2015 Jun;33(2):152-60.
8) Lavaud F, et al. Usefulness of omalizumab in ten patients with severe occupational asthma. Allergy. 2013 Jun;68(6):813-5.


by otowelt | 2015-11-20 00:56 | レクチャー

あくびは身体からの危険信号?

e0156318_1659683.jpgあくびの意義
 漢字テストでよく登場する「欠伸」。「あくび」と読みますね。「呿呻」、「呿」とも書き ます。私は医学部に入るまで「欠神」だと思っていて、いつの間にか「失神」とごっちゃになってしまったことがあります。

 たとえ医療従事者でも、あくびの病態生理って意外に勉強したことがない人が多いですよね。呼吸器内科医を長くやっていますが、私もほとんど勉強したことがありません。調べてみると、予想通りあくび中枢は視床下部にあると言われています。自発呼吸をしているラットの視床下部室傍核にグルタミン酸などを微量注入したときに、あくび反応を誘発することができるそうで、室傍核こそがあくびの中枢なんだそうで1), 2)


あくびの役割は「覚醒」と「警鐘」
 週刊日本医事新報から鈴木先生の興味深い意見を引用します3)

 「あくびは不随意的に生じることが多いが、故意に起こす場合もある。将棋の升田名人は大事な一手を打つ前にあくびをすることで有名であった。高浜虚子も一句を詠む前にあくびをしたと言われている。ヒトに限らず、猛獣は獲物に飛びかかる前にあくびをする。このように、ヒトはあくびが脳を覚醒化することを経験的に知っているようである。

 つまり、覚醒して何かにとりかかろうというときにあくびで目を覚ますということですね。眠たいときにあくびが出るのは、覚醒しろ覚醒しろと身体がムチ打ってくれているのかもしれません。

 その反面、あくびがストレスと大きく関連していることも知られています4), 5)。ヒトも野生本能をどこかに持っています。眠ったら食われるぞ!というサバンナの野生動物よろしく、あくびによって身体に対して「眠ったらヤバイぞ!」という警告を送っているワケです。生物学的に眠気は危ないのです。現代社会で寝ているスキに襲われる可能性があるのは、スリが多発する駅の構内とか誰も通らないような路地裏とかでしょうが、そんな現代でもあくびという警告手段はしっかりと残っているのです。

 ちなみにわたしの大学時代の親友は、毎日授業の前に大きなあくびをした後に夢の世界で遊んでいたので、とてもじゃないですが彼にとってあくびが危険信号とは思えません。(笑)


薬剤性あくび
 医療従事者の方々は薬剤性肝障害、薬剤性腎障害、薬剤性肺障害、なんて言葉を耳にしたことがあると思いますが、薬剤性あくび、というものもあります。中枢に作用する薬剤、たとえばオピオイド、ベンゾジアゼピン、抗うつ薬などが薬剤性あくびと関連しているとされています6)。私は個人的に見たことはありませんが、ネタとして知っておいてもよいかもしれませんね。


(参考文献)
1) Sato-Suzuki I, et al. Stereotyped yawning responses induced by electrical and chemical stimulation of paraventricular nucleus of the rat. J Neurophysiol. 1998 Nov;80(5):2765-75.
2) Melis MR, et al. Yawning: role of hypothalamic paraventricular nitric oxide. Zhongguo Yao Li Xue Bao. 1999 Sep;20(9):778-88.
3) 鈴木郁子ら. あくびの生物学的意義と伝染機序. 第4724号(2014年 11月 8日)P56「質疑応答」
4) Thompson SB. Yawning, fatigue, and cortisol: expanding the Thompson Cortisol Hypothesis. Med Hypotheses. 2014 Oct;83(4):494-6.
5) Kubota N, et al. Emotional stress evoked by classical fear conditioning induces yawning behavior in rats. Neurosci Lett. 2014 Apr 30;566:182-7.
6) Patatanian E, et al. Drug-induced yawning--a review. Ann Pharmacother. 2011 Oct;45(10):1297-301.


by otowelt | 2015-08-27 00:53 | レクチャー

運動誘発性喘息、運動誘発性気管支攣縮、アスリート喘息について

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・運動すると喘息になる?
 運動誘発性喘息(exercise induced asthma:EIA)と運動誘発性気管支攣縮(exercise induced bronchoconstriction:EIB)という2つの用語があります。日本のガイドライン1)では、病名として前者が採用されています。じゃあEIBなんて言葉、イラナイじゃん。いえいえ、そんなことはないのです。

 実は運動時にEIAを起こす喘息患者さんは結構多いのですが、健常な人であってもEIBになることはしばしばあります。実は私も子どもの頃にEIBだったと思うエピソードがあるのです。雨の降る体育の日だったでしょうか、小学校の運動会があったんです。10月の肌寒い日の雨天決行というなかなかアグレッシブな小学校でした。全力疾走で50m走を完走した後、ヒューヒューと息が苦しくなったんです。過換気症候群ではなく、明らかに気管支が攣縮するような感じだったのを覚えています。それ以降、過度な運動をするとEIBを起こすことがありましたが、今はもう大丈夫です。

 EIAという用語は、病態としてはasthma(喘息)ではない、bronchostriction(気管支攣縮)であるという意見は海外でよく聞かれます。好酸球性気道炎症じゃない、ということですね。喘息の既往がある人で運動時に喘息症状が出ることをEIA、既往の有無を問わず運動時に喘息症状が出ることをEIBと呼びます。アメリカでは広い概念としてEIBという用語が用いられています。単純にEIBと定義すると、私の子どもの頃のように結構な頻度で一般人口に存在することが分かっています。その頻度は20%とも言われています1)

 アスリート喘息とは競技者に起こるEIBのことですが、アスリート喘息を疾患概念として独立させる必要性はなさそうです。


・EIBとアスリート喘息の診断
 EIBの診断は、運動後に1秒量が10%以上低下することを定義としています。ただ、日本の場合運動負荷しながら呼吸機能検査を行うというのはあまり現実的ではないため、ピークフロー値で代用されていることが多いように思います。ただ、アスリート喘息は別です。日本アンチドーピング機構によれば、アスリート喘息については診断基準に基づいた診断書の提出が必要になりますので注意して下さい。メサコリン吸入試験はまだ日本では普及していませんが、PC20値4mg/mLで1秒量20%以上の低下が必須です。運動誘発試験はATSと同じように1秒量が10%以上低下することと定義されています。

・EIBへの対策・治療
 アスリートの場合、EIBは症状の有無を問わず30~70%に起こると言われています。絶対数が多いということで、2013年にATSからEIBのガイドラインが出ています2)

 EIBは気道に冷たく乾燥した空気が流入することで発作が起きやすくなります。そのため、気温や湿度が低いところでの運動やトレーニングを避けること、またマスクを装着することも予防に有用です。食事療法としては、塩分の少ない食事、リコピンの摂取、アスコルビン酸の摂取などが推奨されています。

 薬物的な予防法としては、運動5~20分前のSABAの頓用が第一選択として挙げられています。SABAがイマイチだなぁとか効きにくいなぁというときには、インタール®やSAMAの使用が推奨されています。EIBのエビデンスとして豊富なのはインタール®ですが、個人的にはあまり使っていません。

 SABAを毎日のように使用しても症状が続く場合には、ICSやLABAを加えるべきとされています。ただ。確実にEIBであれば問題ないかもしれませんが、普通の喘息の場合LABA単剤治療というのは医学的にも法的にもNGかもしれません。そのため、現実的にICSかICS/LABAを加えることになります。個人的にはまずICSを選択しています。ICSを使いながら、運動前にSABAという処方例が最も多いです。以下を図示します。
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 上述のように、気温や湿度が低いところでトレーニングを避けたり、マスクを装着することが有用ですが、もっとも有効な予防法は「ウォーミングアップ」です。運動前にある程度の強度の運動でウォーミングアップアを行うと、EIBが起こりにくくなるとされています。そのため、5~10分程度のウォーミングアップを行うことで、ウォーミングアップの後1~4時間くらいはEIBが起こりにくくなるとされています(refractory period)
2), 3)

・TUE申請
 国際競技連盟から指定されているアスリートの場合は、同連盟に治療目的使用に係る除外措置(Therapeutic Use Exemptions:TUE)の申請が必要です。日本のガイドラインには、アスリートに使用が認められている薬剤が掲載されています。その表を引用します。
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(参考文献)
1) 日本アレルギー学会. 喘息予防・管理ガイドライン2015. 協和企画.
2) Parsons JP, et al. An official American Thoracic Society clinical practice guideline: exercise-induced bronchoconstriction. Am J Respir Crit Care Med. 2013 May 1;187(9):1016-27.
3) Tan RA, et al. Exercise-induced asthma: diagnosis and management. Ann Allergy Asthma Immunol. 2002 Sep;89(3):226-35; quiz 235-7, 297.
4) 日本アンチ・ドーピング機構. 医師のためのTUE申請ガイドブック2015


by otowelt | 2015-08-21 00:36 | レクチャー

気道可逆性試験について

 気道可逆性試験について記載します。(読者の方からの指摘があり、一部変更しました)

 ベネトリン®でもメプチン®でもサルタノール®でもよいので、短時間作用性β2刺激薬(SABA)を準備してください。まず、ベースラインで1秒量を測ってください。その後、SABAを吸入します。ベネトリン®ネブライザーなら0.2~0.4mL、メプチン®やサルタノール®なら2~4吸入です。このとき、加圧式定量噴霧吸入器(pMDI)の吸入デバイスを用いるときは、息止めがしっかりできているか確認してください。気道可逆性試験を受ける患者さんの何人かは息止めができておらず、「可逆性なし」と診断されていることがあるためです。そのため、施設内でしっかりと吸入手技の情報を共有するよう心がけて下さい。可能ならpMDI使用時には、スペーサー(メプチン®:メプチン専用スペーサーなど、サルタノール®:エアロチャンバープラス®など)を併用する方がよいでしょう。

 SABAを吸入して、20分経過したらもう一度1秒量を測定します。ベースラインから1秒量が12%以上かつ絶対値200mL以上の改善があれば、「気道可逆性あり」と診断されます。すなわち、喘息が強く疑われます。ただし、これでCOPDが否定されるワケではありません。疑いが強くなる検査だということです。ちなみに、咳喘息の場合は気道可逆性があっても5~10%になることが多いです。

 すでに気管支喘息やCOPDの治療を導入されている患者さんの場合、気道可逆性検査の前に中止しておくべき薬剤がガイドラインで規定されています(表)。なお、気道可逆性試験は「喘息が疑われ1秒量が低下している場合に行う検査」であることが本来の位置づけです。
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(参考文献)
1) 日本アレルギー学会. 喘息予防・管理ガイドライン2015. 協和企画.


by otowelt | 2015-08-11 00:00 | レクチャー

COPDに対するワクチン

e0156318_23175684.jpg・インフルエンザワクチン
 COPDの患者さんに限らず、多くの日本人がインフルエンザワクチンを毎年摂取している最近。そりゃあインフルエンザにかからない方が安全だというのは分かりますが、インフルエンザワクチンを接種することでとういった効果が得られるでしょうか。

 最も重要なのは、やはり気道症状の軽減がはかれる点です1)。COPDの患者さんがインフルエンザに罹患すると、聴診すればヒューヒュー、ごはんは食べていない、ぐったりしてタイヘン!ということはよくあるのです。ワクチンそのものの有害事象で悪化しないの?と聞かれることがありますが、享受する利益の方が圧倒的に大きいのでCOPDの患者さんは全例インフルエンザワクチンを接種してよいと考えられます2)

 ちなみにメタアナリシスではインフルエンザワクチンを接種すると、COPD急性増悪の回数が有意に減ることがわかっています(加重平均差-0.37、95%信頼区間-0.64~-0.11、p=0.006)3)。ただこのメタアナリシス、組み込まれた研究の数が少ない。

 COPDに限らず、65歳以上の高齢者における研究ではインフルエンザワクチン接種によって肺炎またはインフルエンザによる入院のリスクが27%減少し(補正オッズ比 0.73、95%信頼区間0.68~0.77)、死亡リスクは48%減少しました(補正オッズ比 0.52、95%信頼区間0.50~0.55)と報告されています4)。日本のCOPDは高齢者が多いので、ワクチン接種による利益がある群としては一致した集団でしょうか。


・肺炎球菌ワクチン
 COPDの患者さんに限らず、成人に使用できる肺炎球菌ワクチンはニューモバックスNP®(23価肺炎球菌多糖体ワクチン:PPSV23)の一択だったのですが、現在はこれに加えてプレベナー13 ®(13価肺炎球菌結合型ワクチン:PCV13)が使用できます。これが非常にヤヤコシイ。

 日本は言わずと知れた先進国ですが、PPSV23の接種率はアメリカの3分の1くらいとものすごく低かったのです。在宅呼吸ケア白書というアンケート調査では、在宅酸素療法を要する慢性呼吸不全の患者さんに対してすら6割程度の接種率でした5)。「これはイカン、先進国の水準どころではないぞ」ということでワクチンの接種率向上を目指し 2014年10月より定期接種化された経緯があります。PCV13が成人の肺炎球菌ワクチンの世界に乗り込んできたのと時期を同じくしているため、何が助成で何が助成でないのかよくわからない医師も少なくありません。繰り返しますが、執筆時点では助成がおりるのはPPSV23のみです。PCV13は助成がおりません。この点は覚えておく必要があります。

 さて、ニューモバックスNP®の方から説明します。PPSV23は侵襲性肺炎球菌感染症を減らす可能性はありますが、COPD急性増悪や肺炎そのものを予防できるだけの威力があるかどうかは報告によってまちまちです6), 7)。「重篤な感染症を予防できるけど、肺炎そのものを予防できるワケではないんだよ」と指導医に教えてもらった人も多いでしょう。ただ、施設入所中の高齢者、といったベースラインの全身状態があまりよくない患者さんでは有効かもしれません8)。COPDの患者さんも高齢者が多いですから、一定の効果はあると私は思っています。

 一方、プレベナー13®はどうでしょうか。PCV13については小児ではまとまった報告はあるものの、特に高齢者ではエビデンスが少なかった。そこで、高齢者に対する臨床試験として2015年に発表されたCAPiTA試験に注目が集まりました9)。この試験によれば、高齢者に対するプレベナーはワクチン血清型の侵襲性肺炎球菌感染症、菌血症を伴わない細菌性肺炎をそれぞれ75%、45%予防可能という結果でした。しかし、市中肺炎全体の予防効果はみられませんでした。ワクチン血清型に限ったものとはいえ肺炎を予防できる可能性が示唆されました。

 以上をふまえ、アメリカ疾病管理予防センター(CDC)の予防接種諮問委員会(ACIP)は2014年に以下の内容を推奨しています10)

•肺炎球菌ワクチンの接種歴が無い、または接種歴が不明の65歳以上の成人は、PCV13をまず先に接種し、次いでPPSV23を接種。
•PCV13の接種歴が無く、かつPPSV23を1回以上接種したことがある65歳以上の成人は、PCV13を接種。
•65歳以上の成人に対するPCV13の推奨※については、2018年に再評価を行い必要に応じて内容を改定する。(※ACIPおよびCDC 所長が今回の推奨改定を承認した場合)


 では高齢者がその大部分を占めるCOPD患者さんのワクチン接種はどうすればいいのでしょう。片方接種?両方接種?

 アメリカの場合、典型的な高齢COPD患者さんは推奨に準じてPCV13+PPSV23を接種することになります。一方、イギリスやカナダなどの他の先進国では免疫不全のある患者さんに対してPCV13が推奨されていますが、一般的な高齢COPD患者さんに対してはPPSV23単独となります。日本はどうかといいますと、日本呼吸器学会と日本感染症学会が合同で「65歳以上の成人に対する肺炎球菌ワクチン接種に関する考え方(平成27~30年度の接種)」を発表しており、アメリカに準じてPCV13+PPSV23の両方接種を推奨しています。ただし、PCV13は助成がおりませんのでご注意を。

 なお、PCV13+PPSV23を接種する場合、ACIPはPCV13を先に接種した後にPPSV23を接種することを推奨しています。また、65歳未満であれば両者を8週間以上空け、65歳以上では1年以上空けます。過去にPPSV23を接種している患者さんに対しては、1年以上空けてPCV13を接種することを推奨しています。

 PPSV23に対する日本の助成は5歳ごとに定められており、しかも5の倍数の年齢のときだけという分かりにくい仕組みになっていますので、「65歳以上の成人に対する肺炎球菌ワクチン接種に関する考え方(平成27~30年度の接種)」から図を引用しますので参考にしてください。
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(引用URL[日本感染症学会内]:http://www.kansensho.or.jp/guidelines/1501_teigen.html)

 なお、当院のある大阪府堺市は、
・予防接種法に基づく定期接種
・市独自の助成による任意接種 (満65歳以上で定期接種の対象者に該当しない方)
の2種類の助成があります。

(参考文献)
1) Wongsurakiat P, et al. Acute respiratory illness in patients with COPD and the effectiveness of influenza vaccination: a randomized controlled study. Chest. 2004 Jun;125(6):2011-20.
2) Tata LJ, et al. Does influenza vaccination increase consultations, corticosteroid prescriptions, or exacerbations in subjects with asthma or chronic obstructive pulmonary disease? Thorax. 2003 Oct;58(10):835-9.
3) Poole PJ, et al. Influenza vaccine for patients with chronic obstructive pulmonary disease. Cochrane Database Syst Rev. 2006 Jan 25;(1):CD002733.
4) Nichol KL, et al. Effectiveness of influenza vaccine in the community-dwelling elderly. N Engl J Med. 2007 Oct 4;357(14):1373-81.
5)在宅呼吸ケア白書2010. 日本呼吸器学会肺生理専門委員会 在宅呼吸ケア白書 COPD疾患別解析ワーキンググループ.
6) Walters JA, et al. Injectable vaccines for preventing pneumococcal infection in patients with chronic obstructive pulmonary disease. Cochrane Database Syst Rev. 2010 Nov 10;(11):CD001390.
7) Huss A, et al. Efficacy of pneumococcal vaccination in adults: a meta-analysis. CMAJ. 2009 Jan 6;180(1):48-58.
8) Maruyama T, et al. Efficacy of 23-valent pneumococcal vaccine in preventing pneumonia and improving survival in nursing home residents: double blind, randomised and placebo controlled trial. BMJ. 2010 Mar 8;340:c1004.
9) Bonten MJ, et al. Polysaccharide conjugate vaccine against pneumococcal pneumonia in adults. N Engl J Med. 2015 Mar 19;372(12):1114-25.
10) Tomczyk S, et al. Use of 13-valent pneumococcal conjugate vaccine and 23-valent pneumococcal polysaccharide vaccine among adults aged ≥65 years: recommendations of the Advisory Committee on Immunization Practices (ACIP). MMWR Morb Mortal Wkly Rep. 2014 Sep 19;63(37):822-5.

by otowelt | 2015-06-25 00:16 | レクチャー

医学論文嫌いを治そう その2

・多くの医師は凡人
 私は凡人です。ブログを毎日のように更新して、本も執筆して、凡人ということはないだろうとお思いの方もいらっしゃるかもしれませんが、おそらく呼吸器内科的な知識は中の中あたり、とかく文才があるわけでも教えることが上手というわけでもありません。本当にごくごく普通の呼吸器内科医なのです。

 英語論文は毎日1つ読んでいますが、「面白い話はないかなあ」とくだらない動機で論文を探しているだけで、別に1つの論文を奥深く読み込んでいるわけではないのです。そのため、私のような凡人でも毎日医学論文を読むことが可能であることをまず声を大にして言いたいと思います。


・「鼻毛が長いと気管支喘息になりにくい」
 今回出版した書籍「呼吸器科の薬の考え方、使い方」という本では、「鼻毛が長いと気管支喘息になりにくい」というとんでもない内容の医学論文をコラムとしてご紹介しました。


Ozturk AB, et al.
Does nasal hair (vibrissae) density affect the risk of developing asthma in patients with seasonal rhinitis?
Int Arch Allergy Immunol. 2011;156(1):75-80.

 これは私が喘息のリスクについて調べている過程で見つけた医学論文です。たとえばPubMedで結論だけ読んでみましょう。


CONCLUSION:
 Our findings suggest that the amount of nasal hair providing a nose filtration function has a protective effect on the risk of developing asthma in seasonal rhinitis patients.

(鼻腔のフィルターとしての機能を果たす鼻毛の密度は、季節性アレルギー性鼻炎の患者において気管支喘息のリスクに対して保護的にはたらく。)

 こんな結論の医学論文を見たら、この研究グループは一体どんな臨床試験を行ったんだ!?とあなたは気にならないでしょうか。私ならワクワクしてAbstractのMethodsとResultsを読んでしまうでしょう。

 ―――私が医学論文を読む動機というのは、こういうことなんです。

 興味がある内容のものをつまみ食いして読んでいけばいい。逆を言えば、興味のないものは読まなくてよいと思います。時間の無駄です。世の中には私のように医学論文を和訳してオンラインにアップロードしている奇特な人間もいるわけで、そういった情報を参考にすればいいのです。個人が医学論文を読む場合、興味のある論文だけ読んでいけばいいと思っています。


・継続するためには最新号だけを読む
 私は基本的に月初めに掲載される医学雑誌の最新の論文を読んでいます。これは少年ジャンプの最新号を読むのと同じです。ただ、『ONE PIECE』を毎週読んでいないと、おそらく最新号を読んでもストーリーがわからないでしょう。そのため、最新号の論文を読んでも「最近のトレンド」が分かっていないとその論文が何を言わんとしているか、つかめないことがしばしばあります。たとえば一昨年~去年はスタチンやビタミンDが呼吸器系にどういった影響をもたらすかといった研究がブームでした。そういったベースを知らなければ、なぜその論文が書かれたのかという背景がいまいちつかめないでしょう。

 毎回最新号を読んでいると、いずれわかります。何がトレンドで何がブームなのか。そのうち、「ああこれは1年前のあの試験を別の観点から検証したものだな」とわかってくるようになります。

 たとえが少年ジャンプばかりで申し訳ないのですが(別に好きというわけではありません)、『ONE PIECE』だけでなくその他のジャンプマンガも読んでいる人もいるでしょう。ものすごく読みたいワケじゃないけど、惰性で読んでいるマンガもあるはずです。それは、医学論文も同じです。私は肺高血圧症の論文はどちらかというと避けています。循環器の知識が必要ですし、6分間歩行距離が完全にプライマリアウトカムを支配している世界だからなんとなく気に入らないのです。でも、最新号を読むときは結論だけはチェックしています。それは少年ジャンプをパラパラと流し読みするのと似ています。

 指導医に「学会発表のためにしっかり調べておきなさい」と言われ、しぶしぶ昔の医学論文を検索して読むことがあると思いますが、これでは医学論文を読むことを継続できません。継続したいのであれば、最新号を読むべし。


・医学論文嫌いを治したい人は
 医学論文嫌いを克服したいと思っているものの、長年なおざりになっている人は、月初めに医学論文の最新号のAbstractの結論だけを読んでください。呼吸器内科医であれば、そうですね・・・European Respiratory Journal(ERJ)が読みやすいでしょう。American Journal of Respiratory and Critical Care Medicine(AJRCCM)やCHESTは難しい内容もあり、どちらかというととっつきにくいので、シンプルなERJの方が読みやすいでしょう。
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 「Current Issue」というところをクリックしてください。すると、ズラリと雑誌のラインナップが表示されます。「Editorials」というのが最初にあると思いますが、これは編集部の意見や補足であって厳密には医学論文ではないので無視して下さい。「Original articles」と書かれたところから下がこの号のメインの論文です。
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 画像は4月号のものを表示していますが、最初に私の琴線に触れたのは「meat consumption(牛肉消費)」という単語です。牛肉の消費と呼吸機能の関係って一体どういうこと!?と、たったこれだけで論文を読みたい衝動に駆られてしまうのが今の私なのです。


・おわりに
 「医学論文嫌いを治そう」とコラムに銘打っておいてナンですが、「マンガ嫌いを治そう」としても、面白くないと思ってる人にマンガを強制したところで好きになるはずがありません。医学論文の世界を知ってもなお嫌いであれば、それはもう治しようのない領域でしょうから。

 よしんば医学論文を好きになったとしても、娯楽雑誌として読むことに異論を持つ上級医の方々もいらっしゃると思います。ただ、医学論文離れは若手医師やベテラン医師を問わず深刻です。まずは指導医が楽しんで医学論文を読むスタンスを持つことで、若手医師もそれに追従してくるかもしれません。

 ―――それでもなお医学論文が嫌いな医師は、別に読む必要はないと思います。医学の勉強は、医学論文が全てではありませんから。


by otowelt | 2014-05-06 09:59 | レクチャー