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気管支動脈蔓状血管腫


●気管支動脈蔓状血管腫とは
気管支動脈蔓状血管腫は、1976 年にBabo らによって初めて報告された
   ROFO Fortschr Geb Rontgenstr Nuklearmed 1976 ;124 : 103―110
気管支動脈が著明に屈曲・蛇行・拡張し時にそれらが肺動静脈との異常吻合を
示す疾患である。気管支動脈蔓状血管腫は新生物としての血管腫の概念とは異なる。
疾患概念が明確化されておらず、また血管病変の量的・質的程度についても
定義されていない。本症は先天性気管支動脈形成異常による原発性と
気管支拡張症や結核等の炎症性既存病変に起因する続発性に大別される。

●気管支動脈蔓状血管腫の症状
本邦では原発性の34 例に対し詳細な検討を行っており、
それによると主訴は喀血がほとんどを占め、18~80 歳と幅広い年齢層で
見られ出血部位としては右側が25 症例を占めていた。

●気管支動脈蔓状血管腫の造影
気管支動脈蔓状血管腫は、本症に特徴的な気管支動脈の屈曲,蛇行,拡張を
確認することで診断される。本邦の40 例のうち、33 例は血管造影によって
診断されている。

●気管支動脈蔓状血管腫の気管支鏡所見
内視鏡所見は、原発性では正常粘膜に覆われた暗赤色や赤紫色の
半球性の隆起性病変を認めるとの報告がなされている。
      日呼吸会誌2000 ; 38 : 403―407.
続発性における報告例は乏しく、内視鏡写真掲載は1 例のみで
正常粘膜におおわれた隆起性病変との程度しか記載されておらず、
さらにこれまでに経時変化を報告した論文もない。
気管支動脈蔓状血管腫_e0156318_2142432.jpg

●気管支動脈蔓状血管腫の治療
現在、本疾患に対する標準的治療は確立されていない。
過去の報告によるとBAE や肺葉切除・肺区域切除などが多く行われており
気管支動脈結紮術に関しても施行されている例がある。
BAE は侵襲は少ないが前脊髄動脈塞栓の危険と再開通の可能性が問題と
なる。さらに気管支動脈と肺動脈でのシャントが形成されていた場合
塞栓子が肺動脈まで流入し肺塞栓を合併する可能性もある。
葉切除は根治が期待できるが侵襲性と術後の呼吸機能の低下が問題となる。

文責"倉原優"

by otowelt | 2010-01-31 21:43 | レクチャー

Wegener肉芽腫症 その2

●Wegener肉芽腫症の病理
・巨細胞を伴う壊死性肉芽腫性血管炎
 壊死周囲には組織球、リンパ球などと共に、しばしば多核巨細胞も出現。
・小動脈,細動脈を中心に巨細胞のみられる類上皮細胞
・好中球主体の炎症性細胞からなる肉芽腫
Wegener肉芽腫症 その2_e0156318_1854591.jpg

●Wegener肉芽腫症の血液検査
・白血球上昇
・血小板上昇 (>400,000/mm3)
・赤沈亢進(>100 mm/時間)
・貧血
・リウマトイド因子は軽度上昇していることもしばしば
・90%でANCA陽性(PR3-ANCAは80~90%で陽性)
 C-ANCA+PR3-ANCA陽性で感度73%、特異度99%
                            Kidney Int 1998; 53:743.
・限局型の40%がC-ANCA陰性
・重症例の25%ではP-ANCA陽性

●C-ANCAとは
・C-ANCAの対応抗原の大部分は細胞質のアズール顆粒に
 含まれる29kDaのセリンブロテアーゼ-3(PR-3)
・C-ANCA(PR3-ANCA)はWegener肉芽腫症に特異性が高く、
 かつその疾患活動性と相関して変動することや再燃に先行し抗体値が再上昇
 したとの報告もある。またC-ANCAはPR-3の酵素阻害作用を有する
 α1-antitrypsinの作用を抑制することや、α1-antitrypsin欠損症例において
 多く認められる。

●Wegener肉芽腫症の治療
☆厚生省難治性血管炎分科会 治療プロトコル
①寛解導入療法
 全身型:シクロホスファミド50~100mg/日
        +プレドニゾロン40~60mg/日   8~12週
 限局型:シクロホスファミド25~75mg/日
        +プレドニゾロン15~30mg/日
        +ST合剤2~3錠/日        8週間

 ※副作用ゆえシクロホスファミド内服困難な場合は
  アザチオプリン同量投与あるいは,メソトレキセート2.5~7.5mg/週

②維持療法(寛解導入後,以下のいずれかを選択する)
 ・プレドニゾロンを8~12週間かけて減量・中止し,
  シクロホスファミドを25~50mg/日にまで減量
 ・シクロホスファミドをただちに中止し,プレドニゾロンを5~15mg/日投与

☆UpToDate
1.プレドニゾロン (1 mg/kg daily 1~2ヶ月)
 teparingは1~2ヶ月後より開始
2.シクロホスファミド (2mg/kg daily 12ヶ月)
 ※1+2のレジメンで80~90%が寛解するが、50%はまた再発する。
 ※あるスタディでは最初の6ヶ月で93%が寛解(最初の3ヶ月で77%)
                             N Engl J Med 2003; 349:36.
 ※寛解が得られたら、メソトレキセート0.3mg/kg/週 分1か
  アザチオプリン2mg/kg/日 へスイッチ。ステロイドは10mg/日程度へ。

   シクロホスファミドからのスイッチ
    ・腎障害 → アザチオプリン
    ・副作用 → メソトレキセートへスイッチ
    ・寛解が得られたら → アザチオプリンかメソトレキセートへスイッチ

●エンドキサンの副作用
・内服シクロホスファミドの副作用
 無月経57% (1年以上続く)
 膀胱炎50%
 膀胱癌5.6%
 骨髄異形成2.0%
 リンパ腫0.7%
                 Ann Intern Med 1992; 116:488.

●その他の治療
・シクロホスファミド静注(Monthly)
 副作用は少ないが、効果も少ない
 エンドキサンパルスでは58%にしか効果がなかった
                Nephrol Dial Transplant 1994; 9:1219.
・メソトレキセート(Weekly)
 寛解を維持
・ST合剤
 意見のわかれるところ。気道に効果があるとされている。再発を減らす?
・血漿交換
・免疫グロブリン
・抗CD20モノクローナル抗体(リツキシマブ)
 シクロホスファミド抵抗性または禁忌の,疾患活動性の高いC-ANCA陽性血管炎
 の11例に対して,リツキシマブ375mg/m2・週1回4週投与とプレドニゾロン併用療法
 では全例ANCA低下,病状は寛解。
                Arthritis Rheum. 2005, 52:1–5. 53
 10 例を対象としたstudy にて全症例で3 カ月以内に完全寛解に至った。
                Am J Respir Crit Care Med 2006 ; 173 : 180―187.
文責"倉原優"

by otowelt | 2010-01-16 18:46 | レクチャー

Wegener肉芽腫症 その1

●Wegener肉芽腫症とは
Wegener肉芽腫症は病理組織学的に
 (1)全身の壊死性・肉芽腫性血管炎
 (2)上気道と肺を主とする壊死性肉芽腫性炎
 (3)半月体形成腎
を呈し、発症機序に抗好中球細胞質抗体(ANCA)の一つである
PR-3 に対する抗体(PR-3ANCA) が関与する中小の血管炎症候群。
1936年にWegenerが呼吸器系をおかす肉芽腫症として報告。

本邦の難治性血管炎分科会によるWegener 肉芽腫の診断基準(1998 年)
によれば、上気道(E)・肺(L)・腎(K)のすべてが揃っている例は全身型
E・L のうち単数もしくは二つの臓器に止まる例を限局型と呼ぶ。

●Wegener肉芽腫症の疫学
・男女比1:1
・発症年齢は男30~60歳代、女子50~60歳代
・入院6.3%、主に通院38.9%,入院と通院が29.7%、
・経過は軽快44.2%、不変21.2%、悪化7.9%、死亡21.2%
・無治療の場合、1年生存率は18%
・治療した場合、5年死亡率は20~28%、10年死亡率は35%
                       Am J Kidney Dis 2003; 41:776.

●Wegener肉芽腫症の原因
欧米では特定のHLA抗原をもつ人に発症しやすいとの成績もあるが、
我が国では特定HLA抗原との相関は見出されていない。PR-3ANCAが発症要因
として注目されている。PR-3ANCAと炎症性サイトカインの存在下に好中球が
活性化されて活性酸素や蛋白分解酵素が血管壁に固着した好中球より放出されて
血管炎や肉芽腫性炎を起こすとされている  (ANCA-cytokine sequence)。
                        Arthritis Rheum 1994 ;37 : 187―192.

●Wegener肉芽腫症の症状
発熱、体重減少などの全身症状とともに、
(1)上気道の症状:膿性鼻漏、鼻出血、鞍鼻、中耳炎、視力低下、咽喉頭潰瘍など
(2)肺症状:血痰、呼吸困難(肺病変の30%は無症状)
(3)急速進行性腎炎
(4)その他:紫斑、多発関節痛、多発神経炎など。
症状は通常(1)→(2)→(3)の順序で起こる。
(1)、(2)、(3)のすべての症状が揃っているとき全身型、
いずれか二つの症状のみのとき限局型という。全身型:75%,限局型:25%

・眼病変
 強膜炎、ぶどう膜炎、眼窩内腫瘍、眼球突出
                      J Rheumatol 2001; 28:1025.

・耳病変
 中耳炎を反復する、聴力障害、鞍鼻、鼻口腔潰瘍、鼻中隔穿孔

・皮膚病変
 palpable purpura、Raynaud現象、皮膚潰瘍
                        J Am Acad Dermatol 1994; 31:605.

●Wegener肉芽腫症の画像所見
☆胸部レントゲン
・結節影
 半数に空洞がみられる
 1つor多発結節影(数mm~9cm)
 辺縁は比較的整である
・肺胞性陰影
・びまん性の淡い陰影
・胸膜陰影
                    Chest 1990; 97:906.

☆CT
 肺胞性陰影
 空洞を有する結節影
 feeding vessel sign(血管が陰影・空洞に流入)
 微小梗塞を示唆する辺縁が整な陰影
 拡張した不整な星型血管影(vasculitis sign )
 胸水・肺門リンパ節腫大(5~10%)

Wegener 肉芽腫症の画像所見は多発する結節影や空洞形成がよく知られているが
実際には非常に多彩な所見を呈する。
Lohrmann らは57 症例のWegener 肉芽腫症のCT 画像を検討し
最も多くみられる所見は結節影(89%)で、うち37 例(70%)で両側性であったが
気管支壁の肥厚を伴ったものも64 箇所32 例(56%)、また21 箇所11 例(19%)
が気管支拡張症の所見も呈していたと報告している。
                    Eur J Radiol 2005 ; 53 : 471―477.
Wegener肉芽腫症 その1_e0156318_18513869.jpg

●Wegener肉芽腫症の肺胞出血
 5%の症例に起こる。初発症状であることもしばしば。
 結節性多発動脈炎、特発性肺ヘモジデリン症、 SLE、 Goodpasture症候群などの肺胞出血と
 区別するにはC-ANCA陽性が有用
                    Semin Respir Med 1989; 10:136.
文責"倉原優"

by otowelt | 2010-01-16 18:36 | レクチャー

ウェステルマン肺吸虫症

ウェステルマン肺吸虫症_e0156318_22593024.jpg●概要
 ウェステルマン肺吸虫(Paragonimus westermani)は
 アジアに広く分布し、淡水蟹体内に寄生しこれらを不十分
 な加熱のまま経口摂取することでヒトへ感染する。

●疫学
 集団感染は上海ガニを介したものや、韓国などのカニの入った
 食材によるものが報告されている。ウェステルマン肺吸虫症は
 近年増加傾向にあり特に九州での報告が多い。
 ヒトに感染すると最終的に肺内に定住し成虫となる。
 成虫は細気管支領域で直径1~2cm の虫囊内で成熟し産卵する。

●診断
 診断は喀痰、便、胸水から虫卵を証明することで確定する。
 ウェステルマン肺吸虫の虫卵は長径80~90μm、短径46~52μm と大形で
 変異に富み、左右非対称で、無蓋端の卵殻は肥厚するといった特徴をもつ。
 肺内病変の存在する症例では、虫卵は気管支鏡検査による気管支擦過、
 洗浄または気管支鏡後の喀痰により比較的検出されるが
 気管支鏡前の喀痰検査での検出率は低い。
                 Chest 2001 ;120 : 514―520

 一般に胸水からの虫卵検出は稀で、そのような症例では血清や胸水の
 寄生虫抗体検査が診断に有用である。胸水は滲出性であり
 胸水中ADA やACE が高値を示すことがある。
                 小児科臨床1991 ; 44 :1179―1182.

 画像所見では、胸水、胸膜肥厚、気胸などの胸膜病変が約60%に認められる。
                 Am J Roentgenol 1992 ; 159 : 39―43.
 虫囊を形成し寄生するために、結節、腫瘤、囊胞、線状影など多彩な
 肺実質病変が80% 以上に認められる。

●治療
 Praziquantel 75mgKg日を3 日間が有効である。
 胸水貯留例では薬剤が胸水で希釈される可能性があるため、
 可能な限り投薬前に胸水を排液することが望ましい。

文責"倉原優"

by otowelt | 2010-01-11 22:37 | レクチャー

EULAR RA Recommendations 2009


”MTX肺”と呼ばれるものをたくさんみていると(実際MTXのせいかどうか
わからないが)、MTXがキライになる。
でも関節リウマチのキードラッグ……

基本的な勉強として、EULAR2009のコンセンサスを載せておく。

EULAR RA Recommendations 2009_e0156318_124921.jpg


・DMARDS
(1)MTX単剤は他のDMARDs単剤より有効(レフルノミドはMTXと同等)。
(2)DMARDs治療歴がない患者では、MTXと他のDMARDsの併用は、有効性の点でMTX単剤と有意差が認められない。したがって、有効性と有害性のバランスを考慮するとMTX単剤が好ましい。
(3)レフルノミド、スルファサラジン、注射金製剤はプラセボに比べて有効。
(4)アザチオプリン、シクロスポリンもプラセボに比して有効だが、忍容性に問題があるため注意が必要。

・ステロイド
(1)進行RA患者に対する低用量ステロイド投与は症状軽減に有効
(2)早期RA患者に対する低用量ステロイド投与は構造的損傷の進行を抑制する。
(3)早期RA患者と進行RA患者でステロイドの有効性が異なることを示すエビデンスは不十分。
(4)DMARDsとステロイドを併用すると症状軽減と構造的損傷の進行抑制がみられる。
(5)ステロイドの投与タイミングは重要とみられる。
(6)ステロイドの用量漸減についての研究は十分には行われていない。ただし、投与を完全に中止するのは、しばしば非常に困難だ。

by otowelt | 2009-12-10 12:49 | レクチャー

Propofol infusion syndrome:PRIS


プロポフォール注入症候群 Propofol infusion syndrome:PRIS

概要:
 集中治療分野における、長期間鎮静のためにプロポフォールが投与された患者
 に起こるまれな致死性合併症である。
 高用量プロポフォールの長期投与時に代謝性アシドーシス、脂質異常症、
 多臓器不全が進行し、徐脈性不整脈、心停止に至る。
 乳酸アシドーシスやBrugada型心電図変化は前駆症状と考えられ、
 認められたらただちにプロポフォール投与を中止する。
 原因としてミトコンドリアにおける脂質代謝障害や、遺伝子欠損症の関与が
 疑われている。
 プロポフォールを漫然と長期投与しないようにすることが肝要。

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by otowelt | 2009-12-07 13:05 | レクチャー

ARDS/ALIにおけるリクルートメント手技

一時的に用手的に肺に一定の圧をかけて、虚脱した肺胞を
再拡張させる手技がrecruitment maneuvers(リクルートメント手技)である。

Amatoは1985年open lung approachを提唱しているが、これが今の
リクルートメント手技の根幹をなしている報告である。
Am J Respir Crit Care Med 1995; 152: 1835-46

再開通した肺胞を虚脱させないためには、最低でも25cmH2Oの圧力が必要と
される。呼気における圧力なので、それはすなわちPEEPである。

Recruitment maneuvers for acute lung injury:a systematic review.
Am J Respir Crit Care Med 2008;178:1156―1163.


AJRCCMでシステマティックレビューがあるが、医学的根拠とまでは
言えない。どの程度の圧をどのくらいの長さかけるかについても報告によって
まちまちである。

ただ、傾向として以下の場合の成功率が高い。
・使用圧が高い
・加圧時間が長い
・ARDS/ALI発症からリクルートメント施行までの日数が短い


●40-40(forty-forty)(Anesthesiology 2002; 96: 795-802
 40cmH2OのPEEPを40秒間維持する。
 GattinoniやCrottiの報告は否定的な見解も散見される。

●35-30(ARDSネットワーク Crit Care Med 2003; 31: 2592-7
 35cmH2OのPEEPを30秒間維持する。

●Amato法 
 15cmH2O換気圧の状態から、5cmH2OずつPEEPをアップさせて
 45cmH2Oまでもっていく。施行時間は2分。Schreiterらも同様の設定
 で良好な効果を得ている。
 

by otowelt | 2009-11-30 10:53 | レクチャー

肺コクシジオイデス症

・肺コクシジオイデス症
 コクシジオイデス症は米国西南部、メキシコ西部、アルゼンチンのパンパ、
 ベネズエラのファルコン州の半乾燥地域の風土病である。
 半乾燥地帯の限られた地域の土壌中にCoccidioides immitisが生息し、
 その分節型分生子は強風や土木工事などで空中に舞い上がり、これら
 分生子を吸入することにより肺に感染を起こす。
 患者の約0.5%は全身感染に波及し、その半数が致死的となる。

 
・肺コクシジオイデス症の臨床
1. 原発性肺コクシジオイデス症 primary pulmonary coccidioidomycosis
 無症状。40%で感冒症状を認める。約10%の患者(女性に多い)に
 結節性紅斑が見られる

2. 原発性皮膚コクシジオイデス症 primary cutaneous coccidioidomysosis
 まれに皮膚に初発病巣が生じる。刺傷あるいは外傷により感染し、発症する。
 潰瘍を形成し、花キャベツ状の腫瘤となる。

3. 良性残留性コクシジオイデス症 benign residual coccidioidomycosis
 原発性コクシジオイデス症の2~8%の患者の肺に、空洞が形成される。
 病巣は進行せず、感染の恐れもない。自覚症状はほとんどなく、X 線撮影で
 発見される。別名コクシジオイドーマ。

4. 播種性コクシジオイデス症 disseminated coccidioidomycosis
 coccidioidal granulomaとも言う。肺の初感染病巣が進行し、
 血行性に全身に散布する。原発性肺コクシジオイデス症の患者の約0.5%に発生、
 そのうち約半数が死の転帰をとる。免疫不全の患者に起こることが多い。
 皮膚、皮下組織、骨、関節、肝、腎、およびリンパ組織が侵される。
 なお、急性の場合、髄膜炎(coccidioidal meningitis)を併発することが多い。

・肺コクシジオイデス症の画像
 原発性での画像所見の特徴は1 つないし複数の区域性・肺葉性の浸潤影や
 多発結節が約75%、ついでリンパ節腫大、胸水が約20% とされている。
         Radiographics 1995 ; 15 : 255―270

・肺コクシジオイデス症の診断
 病理組織内でC. immitis は、内生胞子を内蔵した球状体、および球状体から
 放出された内生胞子、各種発達段階にある球状体として観察される。
 染色はPAS およびGMS を推奨する。
 病理学的特徴は肉芽腫性炎症と化膿性炎症の混じり合った像であるが、
 どちらが主になるかは病型および菌の寄生形態に左右される。
 肺の初感染巣は主に肉芽腫炎症像を示すが、急性全身感染の場合は
 化膿性炎症像が強くなる。また、球状体の発育段階によっても組織反応は異なってくる。

 免疫反応用抗原としてコクシジオイジン(coccidioidin)および
 スフェルリン(Spherulin)が開発されている。
 ベータ‐1,3 ‐グルカン(β‐1,3‐glucan)を検出するキットも
 コクシジオイデス症に反応するといわれている。
 
 一方、コクシジオイデス症における血清抗体も種々の方法で検出されている。
 沈降抗体は通常感染1週間から3週間の間に出現する。

 本症に伴う好酸球増多は約25%の症例に、また血清IgE 値の増加は
 約35%に認められる。
          West J Med 1988 ; 149 : 419―421. 

・肺コクシジオイデス症の治療
 急性の経過や播種性コ症でAMPH-B を使用するが、
 慢性進行性肺コ症の第一選択薬はFLCZ,ITCZである。
        Clin Inf Dis 2005 ; 41 : 1217―1223.

 播種性コクシジオイデス症の治療は困難である。
 現在イミダゾール系の抗真菌剤(ケトコナゾール、ミコナゾール、イトラコナゾール)
 およびフロル化ピリミジン化合物の一種である5‐フルオロシトシン(5‐FC)が
 実用に供されているが、古くから使用されているアムフォテリシンB が
 依然として唯一の確実な治療薬である。
 

by otowelt | 2009-11-24 11:38 | レクチャー

肺ヒストプラズマ症

・ヒストプラズマとは
 ヒストプラズマは菌糸系と酵母系の二つの形態をとる二相性真菌である。
 自然環境下で菌糸系のヒストプラズマの胞子を経気道的に吸入した場合
 肺に病変が生じることがあるが、生体内ではヒストプラズマは酵母系の形態を
 とり、感染性はないとされている。
Principles and Practice of Infectious Diseases. 6th ed. The United States
of America : Churchill Livingstone, 2005 ; 262 : 3012―3026.


 肺ヒストプラズマ症は,Histoplasma capsulatum の胞子を吸入することに
 よって主として肺に病変を引き起こされる深在性真菌症である。
 の流行地として米国ミシシッピー川流域、中南米アマゾン川流域、東南アジアの
 メコン川流域がある。
 
 3種類の原因菌があり、それぞれの感染により病名は
 ・カプスラーツム型ヒストプラズマ症(histoplasmosis capsulati)
 ・ズボアジ型ヒストプラズマ症(histoplasmosis duboisii)
 ・ファルシミノースム型ヒストプラズマ症(histoplasmosis farciminosi)
 と呼ばれている。ただし、カプスラーツム型とズボアジ型との違いは、
 後者がアフリカ大陸でみられ、感染組織内の酵母細胞が前者のそれに
 比べて大きく(直径8~15μm)、組織内に多数の巨細胞が出現してくる
 という以外は、分離菌の間に菌学的(形態的)な違いはない。
 また、ファルシミノースム型はウマ、ロバ等四足獣の病気である。


・ヒストプラズマの臨床
 大量の胞子を吸入した場合,10~18 日の潜伏期の後
 急性肺ヒストプラズマ症として約80% の症例で発熱、頭痛、筋肉痛、咳嗽、胸痛
 などのインフルエンザ様症状を呈する。
 免疫不全や基礎に肺疾患が存在しなければ、ほとんどの場合2~3 週間で自然治癒。
 免疫不全の患者では、播種性の病変を来たし易く致命的である場合が多い。
 AIDSおける合併症として重要であるが、近年は日本においてもAIDS 症例での
 播種性ヒストプラズマ症の死亡例が散見されている。

 非AIDS 症例ではわずか0.001~0.05% のみが播種性ヒストプラズマ症に進展する
 と推測されているが、AIDS 症例においてはその割合は85~96% とも言われる。
               Am J Med 1985 ; 78 : 203―210.

 検査所見は特異所見に乏しく、白血球数異常、軽度の貧血、肝酵素の上昇、
 アルブミンの低下等が認められる程度である。

 1 .急性肺ヒストプラスマ症 acute pulmonary histoplasmosis
   一過性にインフルエンザ様症状を呈し、自然治癒する。
 2 .慢性肺ヒストプラスマ症 chronic pulmonary histoplasmosis
   結核に似た症状を示す。特に、形成された空洞は結核との鑑別が難しい。
 3 .全身性ヒストプラスマ症 systemic histoplasmosis
   急性型は小児に発症しやすく、死の転帰を取ることが多い。
   H. capsulatum が繁殖している洞窟や納屋に入り、多量の分生子を
   吸入した結果起こる。慢性型は細胞性免疫不全の患者に発生しやすい。
 4 .眼ヒストプラスマ症 ocular histoplasmosis
   血行散布により二次的に発症する。特に乳頭部周辺および網膜が侵されやすい。


・ヒストプラズマの画像所見
 肺ヒストプラズマ症の画像所見として、5 mm~30 mm 程度の結節影
 (孤立性が多発性より頻度は多い)や、単発あるいは多発性の境界の
 はっきりしないair space consolidationが多いとされている。
Histoplasmosis : Diagnosis of diseases of the chest 4 th ed.W.B. Saunders, Pennsylvania 1999 ; 876―890.

 重篤なものでは、均一な非区域性の実質陰影を呈することもある。
 縦隔・肺門リンパ節の腫大をしばしば伴うが、胸水は稀。
 急性期に空洞形成がみられることも報告されている。
 肺実質影は2~8 カ月たってから完全に消退するか、線維化して瘢痕を残す。
 また、数年後に多数の石灰化した小結節影としてみられることもある。

肺ヒストプラズマ症_e0156318_17563516.jpg


・ヒストプラズマの診断
 血液・骨髄・髄液・気管支洗浄液・喀痰などの検体からH. capsulatum が
 分離培養されれば価値は高いが、一般に急性ヒストプラズマ症における
 培養陽性率は10% 以下と低く、また発育に2~4 週間以上を要する。
               Ann Intern Med 1982 ; 97 : 680―685.

 血液の特異抗体または特異抗原の検出は、ヒストプラズマ症の診断および
 治療のモニタリングとして有用。急性肺ヒストプラズマ症の約80~90%の
 症例では、感染後4~6 週間で抗体価の上昇を認め、それが数か月間持続する。

 補体結合反応による抗体価では、シングル血清の場合、抗体価32 倍以上で
 あればヒストプラズマ症が強く示唆され、8~16 倍でも本症の可能性が疑われる。
 ペア血清における抗体価の4 倍以上の上昇、あるいは感染後期であれば
 4 倍以上の下降は臨床的に有意であると判定される。


・ヒストプラズマの治療
 急性ヒストプラズマ症の軽症~中等症では症状がなければ経過観察。
 症状があればイトラコナゾールで治療を行う。
 重症ではamphotericin B でまず治療を行い、その後イトラコナゾールによる
 治療へ移行する。慢性ヒストプラズマ症の軽症~中等症では症状に関係なく
 イトラコナゾールの治療を行う。重症では急性と同様にamphotericin B で
 まず治療を行い、その後イトラコナゾールによる治療へ移行する。
 histoplasmoma の治療は経過観察で良いと記載されている。

文責"倉原優"

by otowelt | 2009-11-23 17:55 | レクチャー

抗癌剤における新しい制吐剤:アプレピタント

抗癌剤に嘔気・嘔吐の副作用はつきものであるが、
プリンペラン無効、ナウゼリン無効、ノバミン無効、カイトリル無効・・・
ということを、癌治療を行っている医者はよく経験することと思う。

2009年10月16日、制吐薬のアプレピタント
(商品名:イメンドカプセル125mg、同80mg、同セット)が製造承認を取得。
適応は「抗悪性腫瘍薬(シスプラチン等)投与に伴う消化器症状(悪心、嘔吐)
で遅発期を含む」であり、他の制吐薬と併用することが前提となる。

嘔吐を誘発するいくつかの機序のうち、アプレピタントの作用機序は、
NK-1 受容体を介するものである。現在明らかにされているニューロキニン
受容体NK-1 、NK-2、NK-3 のうち、NK-1 は末梢神経、中枢神経に分布している。
一方、サブスタンスP は11 個のアミノ酸からなるポリペプチドで、
タキキニンと呼ばれる神経伝達物質のひとつであり、腸管および脳に存在する。
サブスタンスP はNK-1 に親和性が高く、サブスタンスP がNK-1 へ結合することが
嘔吐を誘発する機序のひとつであると考えられている。アプレピタントは、
中枢神経系のNK-1 受容体とサブスタンスP の結合を選択的に遮断することにより、
嘔吐を抑制する。このようにアプレピタントの作用点は、これまで使用されてきた
制吐剤とは全く異なるため、他の制吐剤と併用することにより、相乗効果をもたらす。

アプレピタントは、CYP1A2およびCYP2C19 によってもわずかに代謝されるものの、
主にCYP3A4により代謝を受ける。アプレピタントはCYP3A4 の中等度の阻害剤であり
中等度の誘導剤でもある。従って、CYP3A4 により代謝される抗癌剤との
相互作用が問題となる。CYP3A4 により代謝される抗癌剤は、
ドセタキセル、パクリタキセル、エトポシド、イリノテカン、イホスファミド、
イマチニブ、ビノレルビン、ビンブラスチン、ビンクリスチンなどが知られている。
また、アプレピタントは、CYP2C9 を誘導し、ワルファリン療法を行っている
患者に投与するとINRを低下させるとされている。このINR の低下はアプレピタント
投与後7日~10 日に顕著であるため、INR のモニタリング間隔は2週間が妥当。
さらに、アプレピタントはデキサメサゾンとの連続併用時、デキサメサゾンのAUC
を2.2 倍に増加させるため、併用時はデキサメサゾンの約50%減量が推奨されている。
同様に、メチルプレドニゾロンも静脈注射の場合25%、経口投与の場合50%の
減量が必要である。一方、アプレピタントのAUC に影響を与える可能性がある
薬物との併用も問題となる。これらの薬物にはCYP3A4 阻害剤である
ケトコナゾール、イトラコナゾール、エリスリマイシンなどがあり、アプレピタント
のAUC を増加させ、作用を増強する可能性がある。また、CYP3A4 誘導剤である
カルバマゼピン、リファンピシン、フェニトインなどは作用を減弱させる可能性がある。

以下に有用な文献を銘記しておく。
・J Clin Oncol. 2005;23:2822-2830
・J Clin Oncol. 2003;21:4105-4111.
・Eur J Cancer. 2003 ;39:1395-1401
・J Clin Oncol. 2003;21:4112-4119.
・J Clin Oncol. 2001;19:1759-1767.
・Basic Clin Pharmacol Toxicol. 2007;101(3):143-50
・Br J Anaesth. 2007;99(2):202-11.

by otowelt | 2009-11-23 16:33 | レクチャー