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オンラインメガジャーナルの革命児:PLoS ONE

 2006年発刊の医学雑誌PLoS ONEは更新される論文数が膨大であるため、実は今まで積極的に読むのを避けてきた。しかし、最近はメジャーな試験結果ですらPLoS ONEに掲載されるようになってきたため、自分の論文マラソンのコースに入れざるを得なくなった。Web上のどこにいってもPLoS ONEを目にするようになった。その躍進はすさまじく、医学論文の世界が変わろうとしている。
 ―――学術雑誌の概念を変えようとしている革命児、PLoS ONE。いつもと趣向はやや異なるが、PLos ONEの紹介をしたいと思う。
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 public library of scienceは、2000年10月に設立し、2003年から出版活動を開始した。オープンアクセスの雑誌7誌刊行している。その一つがPLoS ONEである。このPLoS ONEは、あまり知られていないかもしれないが、著者が掲載料(1350ドル)を支払う代わりに読者は無料で閲覧できる、"掲載料著者負担型"のオープンアクセス医学雑誌である。

 PLoS ONEは、その論文が掲載されたあとの影響力の大きさや、どの程度科学の進歩につながるか、その研究の重要性などは一切問わない。研究手法や解釈が科学的に妥当性のあるものであれば論文の質は問わず採択するという方針のため、その採択率は高く2011年では50%を超えている(25863本の投稿中、13784本が出版)。Natureは、当初紙面上「PLoS ONEは、しょせん論文のゴミ箱になるだろう」と非難していたが、その目論見は大きく外れた。PLoS ONEの自誌引用率が10%未満であるにもかかわらず、驚くべきことにインパクトファクターはあっという間に4を超えた(ちなみにPLoS はインパクトファクターシステムに否定的で、反対運動も展開している。アイゲンファクターについてはコメントはしていない)。その頃から”メガジャーナル”という言葉が生まれた。

 ―――こういった新しいモデルの学術雑誌を”メガジャーナル”と呼ぶ。これは近年メジャーになった呼び方であるが、その名の通り、規模そのものがあまりにも大きいことに由来する。あらゆる科学領域をカバーしているため、著者も分野別に雑誌を選ぶ必要性すらなく、全てPLoSコミュニティで対応が可能となる。出版社にとっても、雑誌ごとの手順を統合でき、マーケティングプラン、blog、Twitter発信を一本化できる。PLoSは、出版前に論文を編集者によって取捨選択することは、低リソースモデルに基づく前時代的な学術雑誌体系であると考えている。そもそもこういった閉鎖的な学術雑誌体系は、理想とするオープンアクセス配信モデルにはそぐわないと考え、これの実現のためにはメガジャーナル化・オープンアクセス化・著者掲載料自己負担というモデルが都合がよかった。世界一の学術雑誌であるNatureも、さすがにこの成功には目を背けることはできず、オープンアクセス配信モデルのメリットに追従しScientific Reportsを発刊した。これも、PLoS ONEと同じモデルの学術雑誌である。

 PLoSは「Article Level Metrics」という、論文1本ごとにこれまでのアクセス数や被引用数、ブログからのトラックバック数などを表示できる機能がついている。緑のマークが評価項目にあるが、Amazonと同じ仕組みでありログインユーザーであれば誰でも論文の評価ができる(現実的にはあまり機能していない様子だが)。
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 爆発的に掲載されているPLoS ONEの論文は、近々全世界の学術論文のうちの3%を超える掲載数になるとされている。下手すれば1雑誌というよりも1つの学術コミュニティのような形になる可能性がある。インパクトファクターそのものの概念だけでなく、学術雑誌の概念や定義すらゆるぎかねない存在になりつつある。そのため、どのようにして論文の質を評価すべきかという議論が世界中でおこなわれている。将来的には、膨大なクラウドの中に様々な質の論文がストックされ、それらを私たちは取捨選択していかねばならない時代が来るかもしれない。2017年までに全論文の50%、2020年までに全論文の90%がオープンアクセスメガジャーナルで出るようになるかもしれないという専門家の意見もある。

 PLoSの活動については賛否両論があるかもしれないが、長期的にも成功をおさめるという確信がある様子だ。PLoSは近年実際に黒字に転じ始めており、Natureなどのメジャー雑誌がオープンアクセスメガジャーナルに参入してきた理由は、言わずもがなであろう。一部の科学者からの批判は大きいが、この流れはおそらく止められない。

 ちなみに、Case Reportは投稿できない規定になっているが、negative study(予想していた結果が出ず、インパクトが薄れてしまった臨床試験)のように闇に葬り去られるはずであった臨床試験はどんどん投稿されている。これは著者にとっては自分の研究成果を形にできるため、PLoS ONEは非常にありがたい存在なのかもしれない。
 

by otowelt | 2012-08-18 18:43 | その他

テラバンシンの効果と安全性:システマティックレビューとメタアナリシス

Konstantinos A. Polyzos, et al.
Efficacy and Safety of Telavancin in Clinical Trials: A Systematic Review and Meta-Analysis
PLoS ONE 7(8): e41870. doi:10.1371/journal.pone.0041870


背景:
 Staphylococcus aureusの抗菌薬に対する耐性は進化しており、特にMRSAに対しては新規抗菌薬の必要性が待たれている。テラバンシンはGram陽性菌に対して効果がある殺細菌性のグリコペプチド系抗菌薬であり、バンコマイシンの半合成誘導体semisynthetic derivativeである。テラバンシンは細胞壁・細胞膜双方に2種類の阻害メカニズムを持つとされている(Antimicrob Agents Chemother 2005:49; 1127–1134.)。

目的:
 現在検索できるランダム化比較試験で、Gram陽性菌に対する治療のためのテラバンシンの臨床試験を抽出し、システマティックレビューおよびメタアナリシスを施行した。

方法:
 PubMed, Scopus, Cochrane Central Register of Controlled Trials (Central)、LILACSにより2012年3月までに出版されている臨床試験を抽出。用語は"telavancin’’ or ‘‘TD-6424’’で検索した。3人の研究者が独立して抽出をおこなった。

結果:
 テラバンシンとバンコマイシンを比較したも6つのRCTが組み込まれた。製薬会社がスポンサーとなっている試験ではあるが、多施設共同の二重盲検試験である(Jadad score ≧4)。4試験(2229人)は複雑性皮膚軟部組織感染症(cSSTIs)に対して(FAST1,FAST2, ATLAS1, ATLAS2)、2試験(1503人)は院内肺炎(HAP)に対して使用されていた(ATTAIN 1, ATTAIN 2)。
 cSSTIsに関して、テラバンシンとバンコマイシンは臨床的に評価可能な患者において同等の効果がみられた(OR = 1.10 [95% CI: 0.82–1.48])。
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 MRSA感染症の患者間では、テラバンシンは高い根絶率eradication ratesをもたらし(OR = 1.71 [1.08–2.70])、統計学的に有意ではないものの臨床的反応性は良好であった(OR = 1.55 [0.93–2.58])。
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 HAPに関して、テラバンシンはバンコマイシンに臨床的反応性という点では2つのRCTとも非劣性であった。
また死亡率についてもテラバンシンとバンコマイシンは同等であった(20% v 18.6%)。サブグループ解析では、院内黄色ブドウ球菌感染症においてテラバンシンは高い治癒率であった(298 patients, 84.2% vs 74.3%)。また、バンコマイシンMICが1以上の黄色ブドウ球菌性肺炎においても高い治癒率であった(190 patients, 87% vs 74%)。治療日数は2試験ともおおむね9~10日程度であった。
 cSSTIsおよびHAP試験からの抽出されたデータでは、テラバンシンは血清クレアチニン濃度の上昇が高頻度でみられた(OR = 2.22 [1.38–3.57])。
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 他にも味覚障害や戦慄症状といった副作用はテラバンシンに高度に観察された。またテラバンシンは10 mg/kgの濃度に限ると、重篤な有害事象や(OR = 1.53 [1.05–2.24])、それによる抗菌薬中止(OR = 1.49 [1.14–1.95])が高い傾向にあった。

結論:
 テラバンシンは治療に難渋するMRSA感染症症例においてバンコマイシンの代替薬となりうるかもしれない。テラバンシンの強力なブドウ球菌活性の裏には、潜在的に腎障害をきたす可能性があることを考慮する必要があろう。

by otowelt | 2012-08-17 05:32 | 感染症全般

侵襲性アスペルギルス症の診断におけるBAL中ガラクトマンナンのメタアナリシス

Mingxiang Zou, et al.
Systematic Review and Meta-Analysis of Detecting Galactomannan in Bronchoalveolar Lavage Fluid for Diagnosing Invasive Aspergillosis
PLoS ONE 7(8): e43347. doi:10.1371/journal.pone.0043347


背景:
 気管支肺胞洗浄(BAL)におけるガラクトマンナンアッセイは、侵襲性アスペルギルス症の診断に使われてきた。われわれは、BAL中のガラクトマンナンの診断精度を推定検証した。

方法および結果:
 侵襲性アスペルギルス症におけるBAL中のガラクトマンナンアッセイのシステマティックレビューを30試験で実施した。PubMed、CBM (China Biological Medicine Database)データベースによって2012年2月までの試験を検索した。診断オッズ比とサマリーROCをそれぞれのカットオフ値で構築した。加えて、感度、特異度、陽性尤度比、陰性尤度比が算出された。QUADAS-2は以下の通り。
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 30試験はメタアナリシスに組み込まれた。provenあるいはprobable侵襲性アスペルギルス症の診断において、カットオフ値0.5でのBAL中ガラクトマンナンの診断オッズ比、感度、得意度、陽性尤度比、陰性尤度比は、それぞれ52.7 (95% CI 31.8–87.3), 0.87(95% CI 0.79–0.92), 0.89 (95% CI 0.85–0.92), 8.0 (95% CI 5.7–11.1) 0.15 (95% CI 0.10–0.23)であった。サマリーROCは0.94 (95% CI 0.92–0.96)であった。カットオフ値0.5と比較して、カットオフ値1.0では高い診断オッズ比、特異度、陽性尤度比がみられ、感度と陰性尤度比は同等であった。そのため、カットオフ値は1.0が望ましいと考えられた。BAL中ガラクトマンナンと比較して、血清ガラクトマンナンは感度が低く、特異度は高かった。PCRは感度が低く、特異度は同等であった。
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結論:
 適切なカットオフ値1.0の場合、BAL中ガラクトマンナンアッセイはPCRや血清ガラクトマンナンと比較して高い感度が得られた。BAL中ガラクトマンナンアッセイは、provenあるいはprobable侵襲性アスペルギルス症の診断に有用と考えられる。

by otowelt | 2012-08-16 11:43 | 感染症全般

喘息既往のある妊娠女性が飲酒をすると子供アトピー性皮膚炎のリスクが上昇

Charlotte Giwercman Carson, et al.
Alcohol Intake in Pregnancy Increases the Child's Risk of Atopic Dermatitis. The COPSAC Prospective Birth Cohort Study of a High Risk Population
PLoS ONE 7(8): e42710. doi:10.1371/journal.pone.0042710


背景:
 アトピー性皮膚炎は、先進国において最近の10年で4倍に増加した。これはライフスタイルに伴う環境因子の変化が重要な役割と果しているものと考えられる。アルコール消費量がアトピー性皮膚炎の増加と関連しているかもしれないと考えられてきた。

目的:
 妊娠中のアルコール摂取が子供の初期7年間におけるアトピー性皮膚炎の発生に与える影響を解析する。

方法:
 COPSACコホートは、プロスペクティブコホート試験であり、母親が喘息の病歴を持つ411人の小児を7年間追跡したものである。半年に1度、あるいはアトピー性皮膚炎が悪化したときには来院してもらうようにした。
 飲酒は次のように定義:minimum one unit of alcohol pr. week in minimum one of the 3 trimesters.

結果:
 411人の小児のうち177人が7歳までにアトピー性皮膚炎なっていた。妊娠中のアルコール摂取は有意にそのリスクであった(HR 1.44, 95% CI 1.05–1.99 p = 0.024)。喫煙や母親の教育、母親のアトピー性皮膚炎の既往によって補正したあとであっても、結果は変わらなかった。
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limitations:
 全ての母親が喘息を有しているため、ハイリスクコホートとしての選択バイアスが挙げられる。

結論:
 喘息の既往のある妊娠した女性がアルコールを接種することは、有意に子供の7歳までのアトピー性皮膚炎発症リスクを増加させる。

by otowelt | 2012-08-16 06:14 | 気管支喘息・COPD

肺肝蛭症の1例

Thoraxのpulmonary puzzleを楽しみにしている人は意外に多いのではないだろうか。
珍しい症例があったので読んでみた。

Alastair Charles McGregor, et al.
A cavitating pulmonary lesion with eosinophilia
Thorax Online First, published on July 21, 2012


症例:
 中年のエチオピア人が血痰で入院してきた。既往歴もなく、ここ数年旅行歴すらないという。飲酒はするが中等量。しかし、チャットというエチオピアの植物を6ヶ月前から噛んでいるとのことであった。
 血液検査では2.1×109/Lの好酸球上昇がみられる以外は特記すべき異常はなかった。HIVや肝炎ウイルスは陰性であった。右下葉には空洞を有する浸潤影がみられていた。また、肝臓には被包化された低吸収域の病変が散在していた。

診断:
 肺肝蛭症(pulmonary fascioliasis)。

概要と治療:
 肝蛭Fasciola spp. はウシやヒツジの胆管に寄生する吸虫である。ヒトにも寄生しうる。水草や牧草に付着しているメタセルカリアを経口摂取することで感染する。日本でも中国地方で散在した症例報告がある。しかしながら、多くが肝・胆道系感染症であり、肺に病変がみられることはきわめてまれと考えられる。胸水や気胸を起こした症例が過去に報告されている。
・Pulpeiro JR, Armesto V, Varela J, et al. Fascioliasis: findings in 15 patients. Br J
Radiol 1991;64:798-801.
・Fabre J, Boutinet C, Lifermann F. Pneumothorax in distomatosis (In French). Presse Med 2001;30:1587-8.

 プラジカンテルは無効例が多く、WHOは第1選択薬としてトリクラベンダゾール(Egaten)の内服を推奨している。この症例においても700㎎のトリクラベンダゾールを1日2回服用し、画像上も軽快した。

by otowelt | 2012-08-15 13:37 | 感染症全般

アレルギ―性気管支肺アスペルギルス症の治療と診断におけるコントラバーシー

 アレルギー性気管支肺アスペルギルス症(ABPA)の”診断と治療”について思うところが色々あり、書いてみた。
 個人的な意見として、Rosenbergの診断基準を使用すること自体が、Greenberger教授や今は亡きPatterson医師の想いを汲み取れていないのではないかと感じた。
 またABPAの治療として、学会などではステロイドより抗真菌薬が重視されている場面がしばしば見受けられるが、EBMに基づくのであればステロイドこそが治療の根幹なのだと再認識した。

●ABPAの診断においてRosenbergの診断基準は妥当なのか?
 ものの本によっては1971年が最初の報告としているものもあるが、ABPAは元来1952年Hinsonらによって提唱された疾患概念である。
Hinson KFW, et al.Bronchopulmonary aspergillosis. Thorax 1952; 7:317–333
 気管支喘息の1%程度を占めるとされている病態だが、呼吸器内科医にとっては気管支喘息患者を多数に診察するため、ABPAをcommon diseaseと感じている医師は多いだろう。Hinsonらが初期に提唱した概念は、繰り返す喘息症状および末梢血好酸球増多、移動するレントゲン陰影、真菌と好酸球を多数含む粘液栓子の喀出、という特徴である。その後、1967年にScaddingらがABPAの特徴的な気管支造影所見として中枢性気管支拡張(CB)の概念を発表し、このCBは粘液栓子が抜けたあとであろうと考えられた。CBがABPAの進行例によくみられる所見であることが注目されていた。
 これらの報告を受けて、1977年にRosenbergらがABPAの診断基準を提唱した。Rosenbergは当時のNorthwestern大学病院のアレルギー科の臨床フェローであり、corresponding authorであるPattersonはRosenbergの指導医だったのではないかと推察される。

・ABPA:Rosenbergの診断基準
一次基準
 1.発作性呼吸困難・喘息
 2.末梢血好酸球の増多 (参考:>500/mm3
 3.Aspergillus抗原に対する即時型皮膚反応陽性
 4.A. fumigatus抗原に対する沈降抗体陽性
 5.血清総IgE高値>417 IU/mL (>1000 ng/mL)
 6.移動性または固定性の肺浸潤影の既往歴
 7.胸部CTにおける中枢性気管支拡張症

二次基準
 1.繰り返し喀痰からアスペルギルスが検出される(培養または顕微鏡観察)
 2.茶褐色の粘液栓子を喀出した既往歴
 3.Aspergillus抗原に対するArthus(遅発型)皮膚反応陽性

 確実:一次基準の7項目すべてを満たすもの
 ほぼ確実:一次基準の6項目を満たすもの
 二次基準を満たせば確実性が増す
 

 RosenbergはABPA疑いの20人の患者を報告し、そこでABPAの基準を提唱している。少人数であり、当然ながら感度特異度などの解析はされていない。そのため、「Rosenbergの診断基準を満たさないからABPAではない」「Rosenbergの診断基準を満たすからABPAである」という言葉は、感度と特異度を考慮していないものであり、そもそも診断学を論じる上で内容がないと私は考えている。
Rosenberg M, et al. Clinical and immunologic criteria for the diagnosis of allergic bronchopulmonary aspergillosis. Ann Intern Med 1977;86:405-14. 
 中枢性気管支拡張症(CB)は、ABPAがある程度進行して起こる病態であると考えられ、これでは診断基準にのっとって早期治療ができない欠点があるという指摘があった。1982年にRosenbergの上司であったPattersonらが病期分類を提唱した。
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Patterson R, Greenberger PA, Radin R, et al. Allergic bronchopulmonary aspergillosis: Staging as an aid to management. Ann Int Med 1982;96:286-91. 
 そして1988年にPattersonと同じ教室の医師であったGreenbergerらにより、再度診断基準が提唱された。改定の際、好酸球の項目が削除された。これは、急性期においてのみ上昇することが多いため、診断学上は必要性が乏しいと判断されたためである。

・ABPA:GreenbergerとPattersonの診断基準
ABPA-CB(central bronchiectasis:中枢性気管支拡張症)
 1.喘息
 2.中枢性気管支拡張(胸部CTで肺野の中枢側2/3以内)
 3.Aspergillus種あるいはA. fumigatusに対する皮膚テスト即時型反応陽性
 4.血清総IgE値>417 IU/L (1000ng/ml)
 5.A. fumigatus特異的IgE and/or IgG上昇
 6.胸部画像上浸潤影(必須でなくともよい)
 7.A. fumigatusに対する沈降抗体陽性(必須でなくともよい)
ABPA-S(seropositive:血清陽性)
 1.喘息
 2.Aspergillus種あるいはA. fumigatusに対する皮膚テスト即時型反応陽性
 3.血清総IgE値>417 IU/L (1000ng/ml)
 4.A. fumigatus特異的IgE and/or IgG上昇
 5.胸部画像上浸潤影(必須でなくともよい)

Greenberger PA, Patterson R. Allergic bronchopulmonary aspergillosis and the evaluation of the patient with asthma.J Allergy Clin Immunol 1988; 81:646-650.
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 Rosenberg、Patterson、Greenberger、この3人の医師はすべてNortwestern大学のアレルギー科に所属していた。何を隠そう、これら一連の診断基準は同じグループで提唱されたものである。
 アレルギーの成書まで出版したPatterson医師は75歳ですでに逝去しているが、Greenberger医師は現在のNorthwestern Universityのアレルギー科の教授である。そして当時フェローであったRosenbergは、現在Northwestern大学の眼科の准教授として働いている。
 PattersonやGreenbergerがABPAで本当に提唱したかったのは、いわゆるRosenbergの診断基準ではなく、GreenbergerとPattersonの診断基準であることは明白であるその証拠に、2002年にGreenbergerがABPAに関する総説を書いているが、引用文献にすらRosenbergの1977年の論文は出てこない。すなわち、1977年に先駆けて教室が発表したあのRosenbergの論文は、のちに提唱される疾患概念の導入に過ぎないということである。
Paul A. Greenberger. Allergic bronchopulmonary aspergillosis. J Allergy Clin Immunol 2002;110:685-92.
 ただ、診断基準というのは診断妥当性を評価されて初めて”基準”と呼べるものだと私は思う。ゆえに、GreenbergerとPattersonの診断基準も、あくまで指標に過ぎないのではないかと考えている。


●ABPAの治療はステロイドを優先すべきか、抗真菌薬を併用すべきか?
 かつてABPAの約半数がステロイド依存性の喘息となり、非常に問題となった。そのため、ABPA-Sという概念を提唱して早期から治療を導入すべきだとのPattersonの意見が注目されたのである。このABPAの治療の最大の目標はアレルギーの軽減と肺の構造変化(線維化など)をくいとめることにある。
 現在のエビデンスとしては、病期IあるいはIIIのような急性期の病態にある場合はプレドニゾロン0.5 ~1.0 mg/kgで14日間の治療が推奨されている。病期IIあるいはVのような場合にはもはやステロイドは必要とされていない。もしステロイドの投与量が多く、副作用などが容認しがたい場合には、抗真菌薬の使用が推奨されている。注意したいのは、これはステロイド依存性のABPAにおいて有用性が認識されているということである。一般的にはイトラコナゾールかボリコナゾールを16週間使用する。再発例に関しては最初から抗真菌薬を使用してもよいという意見もある。
 抗真菌薬の位置づけはあくまでセカンドラインであり、ABPAそのものの治療というよりも、ステロイドの減量効果が主な役割と考えられている。
Stevens DA, Schwartz HJ, Lee JY, et al. A randomized trial of itraconazole in allergic bronchopulmonary aspergillosis. N Engl J Med 2000; 342:756.
 抗真菌薬にはIgE・IgGを軽減させる効果があることが報告されているのは確かであるが、ステロイド以上の効果はないだろうと考えられている。
・Wark PA, Gibson PG, Wilson AJ. Azoles for allergic bronchopulmonary aspergillosis associated with asthma. Cochrane Database Syst Rev 2004; :CD001108.
・Wark PA, Hensley MJ, Saltos N, et al. Anti-inflammatory effect of itraconazole in stable allergic bronchopulmonary aspergillosis: a randomized controlled trial. J Allergy Clin Immunol 2003; 111:952.

 ステロイドを50%減量することができてなおかつ臨床的に軽減しているものを”抗真菌薬の効果あり”と定義した論文もあるため、抗真菌薬の使用によって”患者の何に対して効果があったのか”を臨床医は知っておく必要があるだろう。


by otowelt | 2012-08-14 14:42 | コントラバーシー

ここ20年における小細胞肺癌の治療関連死の傾向

Ochi N, et al.
Treatment-Related Death in Patients with Small-Cell Lung Cancer in Phase III Trials over the Last Two Decades.
PLoS One. 2012;7(8):e42798. Epub 2012 Aug 6.


背景:
 治療関連死:treatment-related death (TRD)は、緩和的な治療向上がみられているにもかかわらず小細胞肺癌の治療においていまだに深刻な問題である。しかしながら、ここ20年の間のTRDについての傾向を報告した試験はほとんどない。そのため、このスタディにおいてTRDの頻度とパターンを解析することとした。

方法:
 われわれは1990年から2010年までの間におこなわれた小細胞肺癌の治療に関する第3相試験を検索した。年代による傾向を線形回帰分析によって解析した。

結果:
 合計97の試験、25000人近い患者が解析対象となった。全体のTRD比率は2.95%であった。この傾向は、統計学的に有意ではないものの、減少傾向にあった。1年あたりの計算では0.138%減少、20年で2.76%減少。もっともよくみられる死亡原因は発熱性好中球減少症であり、これはどの年代においても差はみられなかった(p = 0.139)。しかしながら、非白金製剤による化学療法によって治療された患者の全死亡と同様に、発熱性好中球減少症による死亡は有意に増加傾向にあった(p = 0.033)。
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結論:
 ここ20年の小細胞肺癌における第3相試験において、全体のTRDは低いが、無視できるものではない。

by otowelt | 2012-08-14 06:56 | 肺癌・その他腫瘍

pure GGOの経時的変化におけるp53

p53の変異は、癌化で”ブレーキの故障”と比喩されることが多い。pure GGO → mixed GGOの流れにおいてp53やEGFRについて検討した論文。

Takatoshi Aoki, et al.
Adenocarcinomas with Predominant Ground-Glass Opacity: Correlation of Morphology and Molecular Biomarkers
Radiology, 264, 590-596. August 2012


目的:
 CT検査においてスリガラス陰影(GGO)が優位な末梢肺腺癌における連続した変化をレトロスペクティブに同定し、生体分子マーカーとの相関性を調べる。

方法:
 本レトロスペクティブ試験に参加した25人からはインフォームドコンセントを取得している。肺腺癌の患者で、直径3cm未満の病変が外科手術前にCT検査で同定された患者を登録した。2人の放射線科医が腫瘍成長についてGGOのタイプ(pure or mixed)とサイズの増大を解析することで評価した。p53タンパク免疫組織化学検査、EGFRおよびK-ras遺伝子解析がおこなわれた。フィッシャーの正確確率検定によって統計学的有意差を検証した。

結果:
 腫瘍のサイズは25人中19人(76%)で増大していた。19人のCT変化は4パターンに分類された。すなわち、pure GGOの遷延(n = 8)、pure GGOからmixed GGOへ変化(n = 3), mixed GGO にsolid componentの増加を伴うもの(n = 4), mixed GGOにGGO componentの増加を伴うもの(n = 4)。25人中6人は経時的変化がみられず(サイズの増加を伴わずに)pure GGOのままであった。
 p53染色はpure GGOの14人で全員陰性、mixed GGOの11人中6人(55%)で陽性であった(P < .01)。この6人については、solid componentの増加がみられていた。EGFRについてはpure GGOおよびmixed GGOで差はみられなかった(36% vs 45%, P = .70)。

結論:
 肺腺癌においてGGO有意な陰影はしばしばEGFR遺伝子変異を有する。solid componentの経時的変化はp53の不活化と関連しているかもしれない。

by otowelt | 2012-08-13 21:59 | 肺癌・その他腫瘍

肺結節影についての医師の説明が患者に与えるストレス

肺結節影についての医師の説明が患者に与えるストレス_e0156318_17553353.jpg論文としては非常に珍しいタイプのものである。
研修医時代、私が恩師から学んだことがある。「患者さんはそのとき分かっているような素振りだったとしても、説明が終わればほとんど頭に残っていないことが多い。だから、何度も何度も説明するか、わかりやすい手紙を書いてあげるかして差し上げなさい。
たしかに患者さんに平易な言語で書いた手紙を渡すと、ラポールの構築にもすごく良い。

Renda Soylemez Wiener, et al.
“What do you mean, a spot?”: A qualitative analysis of patients’ reactions to discussions with their doctors about pulmonary nodules
CHEST. 2012 doi: 10.1378/chest.12-1095


背景:
 実に15万人以上のアメリカ人が1年間に肺結節影を指摘されている。肺結節影についての患者-医師間のコミュニケーションというテーマは実に興味深い。ほとんどが良性で時に悪性のものもあるが、癌を確実に否定するには2-3年は要するかもしれない。われわれは、肺結節影の説明者とのコミュニケーションによる患者認知の特徴を検証した。

方法:
 われわれは不確定的な肺結節影を有する2施設(Boston Medical Center、Dartmouth-Hitchcock Medical Center)4グループ22人の成人において本試験をおこなった。交信記録はgrounded theoryの原則によって解析された。
 参加者には2時間のディスカッションの場に来ていただいており、40ドルのギフトカードを進呈している。

結果:
 患者は53人の異なる説明者と肺結節影について会話をおこなった。ほとんどすべての患者が即座に結節影が癌について言及しているものだと感じた。幾人かの患者は、説明者が実際の癌リスクや結節影をどのように評価するかについて議論していないと感じており、それが混乱や苦悩を何ヶ月にもわたって与えていた。
 ”――私の腎臓内科の主治医は私に「ああ、ところであなたの肺に腫瘍がみつかったんだ」といいました。彼らでさえまだそれが何なのかはわかっていないようでしたが、ただそう言い放っただけで私は非常にショックでした。クリスマスの間ずっと大泣きしていましたよ。(患者13)”

 多くの患者が、癌のリスクについてある程度定量的に言及してほしいと考えており(たとえば5~10%程度とか)、定量的でなくても”らしいか”、”らしくないか”を評価してほしいと感じていた。
 “――何も隠さないでほしい。・・・真実を伝えてほしいし、何を話しているのか私に分かるように説明してほしい。(患者9)”

 患者が、癌やサーベイランスの潜在的な副反応効果について心配していることについて説明者が関心を寄せない場合には非常に不満を覚えた(すなわち、長期間にわたって癌かどうかはっきりしないという時期が続くことや、何度も検査をすることによる被曝などについて)。それがひいてはアドヒアランス低下を招いていた。
 医師が一般用語を用いたり、CT写真を見せたり、癌のリスクについて推し量ってくれるような場合には、患者はそれが自分にとって助けになると感じていたが、その一方で医学専門用語や否定的な言葉を用いられることを腹立たしく思っていた。”結節影”のような専門用語や”カゲがある”、”斑状のものがある”といった遠まわしな言い方で混乱を招くこともあるし、議論を避けるような行為は好ましくない。
 ”――本当に何も説明してくれなかったです、全然。ただ、”肺のここに結節影がある、ということがわかりました。6ヶ月後にまた来てもらえればいいですよ”とだけ。そこで私が、”この結節影について私は何を想定すればようのでしょう?息ができなくなったりとか、痛みが出たりとか、身体に不具合が出たりとか、そういうことも想定しておく必要があるのでしょうか?”と聞いてみましたが、答えは返ってきませんでした。(患者12)”

 癌について全く言及しなかったという患者も複数いたが、それを望ましいと思っていたのは1人のみであった。

 どういう風に検査を進めていくのかを具体的に説明してくれる場合には、患者には好ましい態度としてうつったようだ。
 “――わたしは、こう言われました。肺にあるこの結節影がもし癌だとしても、検査するには小さすぎるし・・・・、だから6ヵ月後に再度来院してほしい。もしそこで大きくなっていれば、検査をすすめたり切除したりという方法がとれる。もし大きくなっていなかったら、セカンドオピニオンをすすめることができるし、あるいは6ヶ月後に同じようにまた来院してもらうという形でもいい、と。(患者7)”

結論:
 患者は肺結節について説明を受けたとき、癌だと想定することが多い。癌のリスクや、結節影をどう評価していくかという計画について言及することが、患者の認知にやストレスに強く影響するものと考えられる。

by otowelt | 2012-08-12 18:03 | 肺癌・その他腫瘍

進行非扁平上皮NSCLCおよび腺癌においてmotesanibは追加効果認められず

Giorgio V. Scagliotti, et al.
International, Randomized, Placebo-Controlled, Double-Blind Phase III Study of Motesanib Plus Carboplatin/Paclitaxel in Patients With Advanced Nonsquamous Non–Small-Cell Lung Cancer: MONET1
JCO August 10, 2012 vol. 30 no. 23 2829-2836


背景:
 カルボプラチン/パクリタキセルにベバシズマブあるいはmotesanibを加えた場合、それぞれの成績は拮抗するくらいであることが第2相試験で示されており(Ann Oncol22:2057-2067, 2011)、PLGFとOSに相関性があるのではないかと考えられている(Clin Oncol 28:15s, 2010 (suppl; abstr 3037))。

目的:
 進行肺非扁平上皮癌において、motesanib(選択的経口VEGF受容体1,2,3・PLGF受容体・Kit阻害薬)をカルボプラチン/パクリタキセルに加えることでOSを改善することができるかどうか検証した。サブセットとして腺癌にしぼった解析もおこなった。

患者および方法:
 病期IIIB/IVあるいは再発性非扁平上皮NSCLC(進行性の病変に対して全身性化学療法を施行していない場合に限る)の患者に対してランダムに1:1 にカルボプラチン(AUC6)+パクリタキセル(200 mg/m2)を3週間ごとに点滴投与し、motesanib 125 mg 1日1回を併用する群(arm A)あるいはプラセボ1日1回を併用する群(arm B)にランダムに割り付けられた。 プライマリエンドポイントはOSとした。セカンダリエンドポイントは、PFS、ORR、有害事象、PLGF変化とOSとの関連性とした。

結果:
 合計1090人の非扁平上皮NSCLC患者がランダムに上記2群に割り付けられた(arm A: 541人、arm B:549人)。これらのうち、890人が腺癌であった(arm A: 448人、arm B: 442人)。OS中央値は、arm AおよびBでそれぞれ13.0ヶ月、11.0ヶ月であった(HR 0.90; 95% CI, 0.78 to 1.04; P =.14)。腺癌のサブセットではそれぞれ13.5ヶ月、11.0ヶ月であった(HR, 0.88; 95% CI, 0.75 to 1.03; P= .11)。
 両群の記述解析では、PFS中央値はそれぞれ5.6ヶ月と5.4ヶ月(P<.001); ORRはそれぞれ40%と26% (P < .001)であった。PLGF変化とOSについて関連性はみられなかった。Grade 3以上の有害事象はそれぞれ73%、59%で、Grade5の有害事象はそれぞれ14%、9%であった。これはmotesanib群のほうが高かった。

結論:
 進行非扁平上皮NSCLCあるいは腺癌において、motesanibとカルボプラチン/パクリタキセルの併用はOSを改善させない。

by otowelt | 2012-08-11 21:14 | 肺癌・その他腫瘍