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「ガーグルベース」か「ガーグルベースン」か

「ガーグルベース」か「ガーグルベースン」か_e0156318_21444052.jpg ふざけたテーマに見えるかもしれませんが、いたって本気です。
 洗面所に行けない患者さんがベッドサイドでうがいや嘔吐をした後などに受け取る簡易式の容器を、「ガーグルベース」あるいは「ガーグルベースン」といいます。果たしてどちらの言葉が正しいのでしょうか?


●ガーグル
 当院の何人かのスタッフに聞いてみたところ、「アヒルの鳴き声だと思ってた」という人が多かったですが(うがいをするときの声がアヒルの鳴きまねに似ているとか)、ガーグルはgargle、すなわち英語で「うがい」という意味です。
 ただし、海外では”うがい”の文化は根付いていません。そのため、gargleという言葉よりもmouse washなどの語句のほうがしっくりくるようです。


●ベース vs ベースン
 吐物の受け皿の大手メーカーであるアイエスケー株式会社(http://www.isk-tokyo.co.jp/index.html)では、ガーグルベース®(http://www.isk-catalog.com/35.html)という商品名でこの製品が発売されています。多くの病院ではこのタイプが使用されています。ウェブサイトによれば、特長としては、
 1.カップのふちの曲線は、頬に密着する。
 2.重ねて保管できるので場所をとらず便利(10個=17cm)。
 3.深いので吐物が飛び散る心配がなく、軽いので握力のない老人小児にも最適。
と記載されています。なぜ三日月型に彎曲しているのか疑問に思っていましたが、確かに曲線があることで頬に密着しやすいですね。材質はポリプロピレンで、重さは90gです。

 しかしよく見てみると、一般名のところに「口腔衛生汚物受小型ベースン」と記載されています。これは一体どういうことでしょうか。医療製品の販売サイトを見てみると、英語表記では「gargling basin」と記載されています。どうやら、商品名がガーグルベース®であり、一般名がガーグルベースンのようです。

 ベースン(basin)は”たらい”や”盆”という意味の言葉です。日本では古来から嘔吐物などを膿盆を使っていた歴史がありました。膿盆は今でも外科回診などで使用している病院もあるかもしれませんが、明治時代や昭和時代は膿盆はいろいろな用途で使用されていました。膿盆の多くが金属製でしたから、重さや管理に不都合が多かったようです。そのため、ポリプロピレンのような軽量化した製品が登場するようになりました。これを当初、嗽盥(うがいだらい)と呼び、英語化されてガーグルベースンという言葉が登場しました。本来の英語読みであれば、正しくは「ベイスン」と発音すべきかもしれませんね。

 日本ではベースン(basin)という言葉に馴染みがなかったため、ベースという言葉が選択されたのかもしれませんが、この商品名にいたった経緯は不明です。なお、ドイツ語の場合、basinは「Becken」「Tray」「Tub」などと呼ぶのが一般的で、ベースという言葉はドイツ語ではないそうです。

 ちなみに英語では「gargling basin」よりも「emesis basin」のほうが一般的です。その理由は、上記のように海外で「うがい」という文化が根付いていないからです。


●ガーグルベースンの臨床試験
 このブログの読者の皆様は、「じゃあガーグルベースンの臨床試験はないのか」と期待されているかもしれません。いろいろ調べてみたのですが、術後の嘔吐にはガーグルベースンがあったほうがよいだろうというワシントン大学のスタッフのご意見があっただけで、具体的な臨床試験や感染リスクなどの報告は見つけられませんでした。
Watcha MF, et al. Postoperative nausea and vomiting. Its etiology, treatment, and prevention. Anesthesiology. 1992 Jul;77(1):162-84.






by otowelt | 2013-06-19 00:09 | コントラバーシー

PTTM30例の臨床的解析:癌死の1.4%がPTTMによる

PTTM30例の臨床的解析:癌死の1.4%がPTTMによる_e0156318_9184599.jpg PTTMはあまり日本訳されることはありませんが、”肺腫瘍源性塞栓性微小血管症”などと訳されることもあるそうです。癌の終末期で病死というケースの中には、PTTMの症例もいくぶんか含まれているのでしょう。そのため、剖検してから初めてPTTMとわかることも少なくないと思います。
 虎の門病院から30例のPTTMの報告がありました。PTTMでまとまった報告は見かけたことがありませんので、とても貴重な報告だと思います。同じ号のInternal Medicineに、私も小さな症例報告を載せていただいています。

Hironori Uruga, et al.
Pulmonary Tumor Thrombotic Microangiopathy: A Clinical Analysis of 30 Autopsy Cases
Intern Med 52: 1317-1323, 2013


目的:
 pulmonary tumor thrombotic microangiopathy (PTTM)は、肺動脈の腫瘍塞栓によるまれな致死性疾患である。このスタディの目的は、PTTMの臨床的特徴と病理学的および免疫組織化学的所見を評価することである。

方法:
 剖検例は虎の門病院において1983年1月から2008年5月までおこなわれたものを抽出し、悪性腫瘍によるPTTMによって死亡した症例をレビューした。
 組織スライドを再度評価し、診断確定のため免疫組織化学的に組織スライドを再度評価した。

結果:
 2215人の連続した剖検症例のうち、575人が肺癌で、283人が胃癌だった。30人(1.4%)がPTTMと確定診断された。
 最もよくみられた症状は進行性の呼吸困難感であった。過凝固の状態は検査された全ての症例(21人)にみられた。46.7%がDICの診断を受けた。胸部CT所見が得られた6人では、コンソリデーション、スリガラス影、小結節影、tree in budパターンが観察された。血流スキャンは7人でおこなわれ、6人は多発性の小欠損がみられた。酸素開始からの中央生存期間は9日だった。30人中18人で癌性リンパ管症が観察された。原発巣で最も多かったのは胃癌(18人、60%)で、組織型は腺癌が多かった(28人、93.3%)。
 腫瘍塞栓内の免疫組織化学的所見では、VEGF(血管内皮細胞増殖因子)が29人中28人で陽性、組織因子が29人中29人で陽性だった。
PTTM30例の臨床的解析:癌死の1.4%がPTTMによる_e0156318_8561450.jpg
(a:HE染色、b:EvG染色、c:VEGF、d:組織因子、文献より引用)

 過去の報告でPTTMで陽性になりやすいとされているPDGF(血小板由来成長因子)やオステオポンチンについては本試験では頻度はそこまで多くみられなかった(62.1%)。

結論:
 主要肺動脈に塞栓がなく過凝固の状態に付随した急性の呼吸状態の悪化が癌患者にみられた場合、臨床医はPTTMを疑うべきである。VEGFと組織因子はPTTMに重要な役割を果たしているかもしれない。


by otowelt | 2013-06-18 00:33 | 肺癌・その他腫瘍

非結核性抗酸菌症の感染は、その後の肺結核の発症リスク

非結核性抗酸菌症の感染は、その後の肺結核の発症リスク_e0156318_8455598.jpg NTM感染後の続発性肺結核だけでなく、NTM同士あるいはNTMと肺結核の混合感染も臨床では時に経験します。実臨床で感じている罹患率も低くないと思っているのですが、ハザード比10倍というほどの実感はありません。
 いずれにしても、結核・NTM診療に携わる呼吸器科医にとってはきわめて重要な報告だと思います。

Hsing S-C, et al.
Increased risk of pulmonary tuberculosis in patients with previous non-tuberculous mycobacterial disease
The International Journal of Tuberculosis and Lung Disease, Volume 17, Number 7, 1 July 2013 , pp. 928-933(6)


目的:
 非結核性抗酸菌症(NTM)の感染後に肺結核のリスクが増加するかどうか調べること。

デザイン:
 212人のNTM患者、4240人のコントロール症例を用いた1:20のレトロスペクティブコホート試験。診断はICD-9コードによっておこなわれた。

結果:
 ベースラインの患者背景として、脳卒中、COPD、肝硬変はコントロール症例に多くみられた。またHIV感染はNTM患者に多くみられた。
 過去にNTM感染を持つ患者は有意に肺結核になる頻度がコントロールよりも多かった(罹患率比[IRR] 14.74, 95%信頼区間8.71–24.94, P <0.0001)。NTM関連肺結核は、Cox比例ハザード解析で補正ハザード比は10.15(95%信頼区間 5.67–18.17, P < 0.05)であった。ほとんどの結核症例(23人中17人:73.9%)はNTMの診断から6ヶ月以内に診断されていた。
非結核性抗酸菌症の感染は、その後の肺結核の発症リスク_e0156318_8412317.jpg
(文献より引用)

 65歳以上の高齢(補正ハザード比4.45, 95%信頼区間1.94–10.22, P < 0.05)、男性(補正ハザード比1.75, 95%信頼区間1.01–3.13, P <0.05)、HIV感染(補正ハザード比12.49, 95%信頼区間 3.20–48.79, P < 0.05)、COPD(補正ハザード比4.46, 95%信頼区間2.19–9.10, P < 0.05)はNTM感染後に肺結核を発症する独立リスク因子であった。肺結核の累積罹患率についても、NTM感染後のほうがコントロールより多かった(P < 0.0001)。しかしながら、2つのコホートにおいて生存率に有意な差はみられなかった。

結論:
 NTM感染後に肺結核の発症頻度は高くなる。HIV感染は、肺結核を続発する最も高い独立リスク因子であった。


by otowelt | 2013-06-17 00:22 | 抗酸菌感染症

ファーストライン抗結核薬による肝障害の原因はピラジナミドが最多

ファーストライン抗結核薬による肝障害の原因はピラジナミドが最多_e0156318_9392059.jpg 抗結核薬の肝障害=リファンピシンという誤解が結構ありますが、実臨床では治療初期にピラジナミドの肝障害の方が多く経験されます。
 この試験は肝障害の定義を厳しく設定した割に、実臨床に非常にマッチした内容だと思いました(意外にこういった試験は組まれていませんね)。

Shu CC, et al.
Hepatotoxicity due to first-line anti-tuberculosis drugs: a five-year experience in a Taiwan medical centre.
Int J Tuberc Lung Dis. 2013 Jul;17(7):934-9.


背景:
 ファーストラインの抗結核薬による肝障害は重要な合併症であるものの、経時的解析による試験はなされていない。

デザイン:
 2006年から2009年までに肺結核と診断された患者をレトロスペクティブに抽出した。抗結核薬治療中の肝障害、症状のある肝トランスアミナーゼの正常上限3倍以上の増加あるいは無症状での5倍以上の増加とした。肝障害のリスク因子は経時的Cox回帰分析によって検証した。

結果:
 926人の患者が同定され、4122.9人・ヶ月(person-months:pm)フォローアップされた。治療開始から中央日数で38日目に111人(12.0%)が肝障害を起こした。そのうち、3.5%が重篤な肝障害であった。もっともよくみられた症状は、全身倦怠感と食欲不振だった。
 100pmあたりの肝障害はイソニアジド、リファンピシン、ピラジナミドでそれぞれ0.59, 0.69, 3.71だった。
 高齢、女性、自己免疫性疾患、HIV感染症、直近8-14日の間でピラジナミドを服用していた日数が多いこと、直近15-21日でリファンピシンを服用していた日数がすくないことが肝障害の独立リスク因子であった。
ファーストライン抗結核薬による肝障害の原因はピラジナミドが最多_e0156318_21485110.jpg
ファーストライン抗結核薬による肝障害の原因はピラジナミドが最多_e0156318_2149276.jpg
(文献より引用)

結論:
 ピラジナミドはファーストラインの抗結核薬で最も肝障害を起こす。リスクの高い患者では抗結核薬の調整を慎重に行い、定期的な肝トランスアミナーゼのモニタリングが必要であろう。


by otowelt | 2013-06-15 00:04 | 抗酸菌感染症

日中の傾眠はサルコイドーシスの全身症状の1つである

日中の傾眠はサルコイドーシスの全身症状の1つである_e0156318_11333269.jpg サルコイドーシスの一症状としての傾眠を論じた報告です。

Karen C. Patterson, et al.
Excessive Daytime Sleepiness and Obstructive Sleep Apnea in Patients With Sarcoidosis
Chest. 2013; 143(6):1562-1568.


背景:
 サルコイドーシスにおいて全身症状はよくみられるものであり、QOL低下と関連している。日中の過度の傾眠:Excessive daytime sleepiness (EDS)は、しばしば閉塞性睡眠時無呼吸(OSA)と関連しているが、サルコイドーシスの独立した全身症状であるかもしれない。このスタディの目的は、サルコイドーシスとEDSの関連を調べることである。

方法:
 本試験はシカゴ大学で行われたレトロスペクティブ試験である。われわれは62人の成人サルコイドーシス患者および1005人のOSAを疑われポリソムノグラフィ目的に来院した成人患者において、エプワース睡眠スケール(ESS)を比較した。線形回帰モデルによって共変数を調整した。
 また、抑うつに関してCenter for Epidemiologic Studies Depression Scale (CES-D)を用いて比較した。
 サルコイドーシス患者のサブルグープ解析では、睡眠スコアおよびポリソムノグラフィは呼吸機能検査の正常/異常によって比較された。

結果:
 患者背景において、EDSおよびESSはサルコイドーシス患者で高かった。EDS:サルコイドーシス:34人(60%)、コントロール患者:413人(43%)、p=0.012、ESS:前者:11人(IQR 8-14)、後者:8人(IQR 5-12)、p=0.011。
CES-Dに差はみられなかった(p=0.781)。EDSはサルコイドーシス患者にはよくみられる症状であり、共変数の調整後においてもサルコイドーシスは傾眠の独立因子であった。完全に共変数で調整をしても、サルコイドーシス患者においてESSの2点上乗せの作用がみられた(モデル3)。
日中の傾眠はサルコイドーシスの全身症状の1つである_e0156318_129635.jpg
・モデル1:年齢、性別、人種、AHI(AHIの自然対数)で調整
・モデル2:上記にBMIを追加
・モデル3:上記に抑うつ症状の存在、オピオイドの使用を追加

 ポリソムノグラフィ目的で来院したコントロール患者と比較すると、サルコイドーシス患者では臨床的に明らかなOSAは少なかった(AHI平均値はサルコイドーシス患者:15.6点 vs コントロール患者:26点,p=0.002)。しかしながらサルコイドーシス患者のうち、呼吸機能検査で異常のあるものはOSAがより重度であった。

結論:
 サルコイドーシスは独立してEDSと関連している。傾眠はサルコイドーシスの病態に寄与しているかもしれない。サルコイドーシス患者における呼吸機能検査の異常はOSAに寄与しているかもしれないが、そのメカニズムは不明である。


by otowelt | 2013-06-14 00:42 | サルコイドーシス

ペメトレキセド投与前にビタミンを補充することは本当に必要か?

ペメトレキセド投与前にビタミンを補充することは本当に必要か?_e0156318_1730811.jpg 明らかに食事からビタミンや葉酸をしっかり摂取できている人に本当に補充が必要なのかと懐疑的な部分もあります。
 いずれにしても少なくとも”1週間前”に投与しなければならない意義が乏しいことは医学的には明白だろうと思います。

Young Saing Kim, et al.
The optimal duration of vitamin supplementation prior to the first dose of pemetrexed in patients with non-small-cell lung cancer.
Lung Cancer. 2013 May 14. pii: S0169-5002(13)00161-X. doi: 10.1016/j.lungcan.2013.04.011


背景:
 葉酸やビタミンB12補充は、ペメトレキセド治療において推奨されているが、治療開始前の適切な補充期間についてはよくわかっていない。

方法:
 われわれは進行非小細胞肺癌(NSCLC)でペメトレキセド単独治療を受けた350人の患者の1サイクル目における副作用を解析した。患者は2群に分けられた。すなわち、A群:ペメトレキセド開始5~14日前にビタミン補充、B群:ペメトレキセド開始4日前にビタミン補充。

結果:
 A群には294人の患者、B群には56人の患者が割り付けられた。ペメトレキセド投与サイクルの中央値は両群とも同等であった。1サイクル目のペメトレキセド投与によって、A群もB群も同等の白血球減少(6.1% vs. 5.4%, P=1.00)、好中球減少(5.1% vs. 3.6%, P=1.00)、血小板減少(3.1% vs. 7.1%, P=0.14)、発熱性好中球減少症(0.7% vs. 0%, P=1.00)、疲労感(20.1% vs. 19.6%, P=0.94)、食思不振(15.0% vs. 21.4%, P=0.23)が観察された。入院必要性(4.4% vs. 5.4%, P=0.73)やペメトレキセドによる副作用のための予期せぬ来院(8.2% vs. 12.5%, P=0.31)にも差はみられなかった。
 多変量ロジスティック回帰分析では65歳以上の患者(オッズ比3.49; 95%信頼区間 1.12–10.86)、PS不良(オッズ比3.96; 95%信頼区間1.12–14.03)はグレード3あるいは4の血液毒性の有意な予測因子であった。

結論:
 1サイクル目のペメトレキセド投与前のビタミン補充はペメトレキセドによる毒性の発症に影響しない。これはすなわち、ビタミン補充によってペメトレキセドによる化学療法開始を遅らせるべきではないということである。


by otowelt | 2013-06-13 00:25 | 肺癌・その他腫瘍

放射線食道炎の治療にエビデンスはあるのか?

●はじめに
 放射線食道炎は、肺癌治療のみならず頚胸部放射線治療を受けた患者さんの多くが経験する副作用であり、食事に関するQOLを著しく低下させるものです。典型的には放射線治療開始から2~3週間程度で発症します。抗癌剤を併用しているケースだと放射線食道炎のリスクは上昇すると言われており、また血球減少の時期と重なることがあるためカンジダ食道炎と鑑別が困難な場合があります。
 当然ながら食道に照射される線量がリスク因子となりますが、28Gyをカットオフ値にした場合グレード2以上の食道炎が有意に多くなると考えられています。
放射線食道炎の治療にエビデンスはあるのか?_e0156318_233291.jpg

Aytul Ozgen, et al. Mean esophageal radiation dose is predictive of the grade of acute esophagitis in lung cancer patients treated with concurrent radiotherapy and chemotherapy. J Radiat Res. 2012 November; 53(6): 916–922.
 また、非小細胞肺癌に対する放射線治療では、TGFβ1の一塩基多型が重篤な放射線食道炎と関連しているのではないかと示唆されています。
Guerra JL, et al. Association between single nucleotide polymorphisms of the transforming growth factor β1 gene and the risk of severe radiation esophagitis in patients with lung cancer. Radiother Oncol. 2012 Dec;105(3):299-304.


●放射線食道炎の治療
・食事の工夫
 固形物を少なくする、流動食を増やすといった工夫をおこないます。これは治療というよりも、食道炎症状を緩和する方法と考えてよいと思います。
Sasso FS, et al.Pharmacological and dietary prophylaxis and treatment of acute actinic esophagitis during mediastinal radiotherapy. Dig Dis Sci. 2001 Apr;46(4):746-9.

・アルギン酸ナトリウム
 従来より、放射線食道炎に対して粘膜保護剤であるアルギン酸ナトリウム(アルロイドG®、アルクレイン®)の効果が報告されています。
安達秀樹ら. 放射線食道炎及び直腸炎に対するアルギン酸ナトリウムの臨床効果. 日本癌治療学会誌1985; 20(3): 618-624.
 わずかながらの効果しかないだろうと考えられていますが、副作用が少ないため日本の臨床現場でも汎用されています(個人的には美味しくないと思っているのですが)。
Sur RK, et al. Oral sucralfate in acute radiation oesophagitis. Acta Oncol. 1994;33(1):61-3.
 ステロイドを混合することでより効果をもたらすという報告もあります。
鈴木道明ら. ステロイド混合薬局所投与による放射線食道炎治療の検討.日本胸部臨床1999 ;58(3): 219-222.

・グルタミン酸
 レトロスペクティブ試験ですが、グルタミン酸が口腔粘膜炎や食道炎の発症を抑制することができたという報告があります。リスク差は口腔粘膜炎が-9.0% (95%信頼区間-18.0%~ -1.0%)、食道炎が-14.0% (95%信頼区間-26.0%~ -1.0%)。また、その後の体重減少や栄養サポートの必要性を減少させることができたとされています。
Vidal-Casariego A, et al.Efficacy of glutamine in the prevention of oral mucositis and acute radiation-induced esophagitis: a retrospective study. Nutr Cancer. 2013;65(3):424-9.

・漢方薬
 どの種類の漢方薬なのかは判然としませんが、中国の漢方薬全般が西洋の薬剤に優越性であるというメタアナリシスがあります。読んでみると、いささかこの妥当性には疑問符がつきます。
Lu JZ, et al. Meta-analysis of Chinese medicines for prevention and treatment of radiation esophagitis. J Tradit Chin Med. 2012 Jun;32(2):137-42.
 中でも、芍根湯の報告が多いように思います。乳癌患者さん60人を対象にした試験では、グレード2以上の急性食道炎の発症が、漢方薬投与群ではコントロール群と比較して有意に低かったと報告されています(33.3% vs 63.3%、P<0.05)。
Zhang J, et al. Clinical observation on effect of shaogen decoction for the prevention and treatment of acute radiation esophagitis. Zhongguo Zhong Xi Yi Jie He Za Zhi. 2010 Dec;30(12):1272-4.
 白芍が放射線食道炎に対してサブスタンスPを抑制することによって疼痛を軽減させたという報告もあります。 
Wang Z, et al. Pain‑relieving effect of a compound isolated from white peony root oral liquid on acute radiation‑induced esophagitis. Mol Med Rep. 2013 Jun;7(6):1950-4.

・スクラルファート
 当初スクラルファートについてはアルギン酸よりも効果的であると考えられていました。
Sur RK, et al. Oral sucralfate in acute radiation oesophagitis. Acta Oncol. 1994;33(1):61-3.
 しかしながらその後のプラセボとの比較試験で、効果がないのでは、と指摘されています。
McGinnis WL, et al. Placebo-controlled trial of sucralfate for inhibiting radiation-induced esophagitis. J Clin Oncol. 1997 Mar;15(3):1239-43.
 腐食性の食道炎の炎症後狭窄を予防する意味合いではスクラルファートは意味があるかもしれません。
Gümürdülü Y, et al. The efficiency of sucralfate in corrosive esophagitis: a randomized, prospective study.Turk J Gastroenterol. 2010 Mar;21(1):7-11.

・プロトンポンプ阻害薬、リドカイン
 これらについては、検索した限りでは比較試験はありませんでした。レビューに記載があるのみです。
Berkey FJ, et al. Managing the adverse effects of radiation therapy. Am Fam Physician. 2010 Aug 15;82(4):381-8, 394.


●まとめ
 多くの場合、治療後3週間以内に粘膜の再生がおこなわれるため、自然軽快します。
Phillips TL, et al. Time-dose relationships in the mouse esophagus. Radiology 1974; 113:435.
 一部のケースでは、後期障害として嚥下障害や違和感を訴えることもあります。
 現状として、治療や予防についてはほとんどエビデンスがなく、前向きの臨床試験が望まれるところだと思います。



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by otowelt | 2013-06-12 00:38 | 肺癌・その他腫瘍

ブデソニド/ホルモテロール(シムビコート)とフルチカゾン/サルメテロール(アドエア)の肺炎リスクに差!?

ブデソニド/ホルモテロール(シムビコート)とフルチカゾン/サルメテロール(アドエア)の肺炎リスクに差!?_e0156318_95554.jpg 6月上旬に読みたかった論文なのですが、思ったより長かったので読むのに時間がかかってしまいました。
 COPDに対する合剤の肺炎リスクを検証したスウェーデンの試験です。アストラゼネカ主導の試験ですので、解釈には注意が必要です。COPD患者さんで肺炎を起こすことはしばしばありますが、使用している製剤での差は実感したことがありません。コンプライアンスという点では個々の製剤ごとに”合う”、”合わない”はあると思います。
 ちなみに、SMART療法については個人的には保留の立場です。

Janson C et al.
Pneumonia and pneumonia related mortality in patients with COPD treated with fixed combinations of inhaled corticosteroid and long acting β2 agonist: observational matched cohort study (PATHOS)
BMJ 2013;346:f3306.



目的:
 COPD患者で2つの異なるステロイド/長時間作用型β2刺激薬(LABA)の合剤を吸入している患者の肺炎と肺炎に関連するイベントの発症について調べた。

デザイン:
 観察レトロスペクティブペアワイズコホート試験。傾向スコアによる1:1マッチでコントロール症例を抽出。スウェーデンの各病院をリンクしているプライマリケア診療録データを参照(1999年から2009年)

患者:
 主治医によってCOPDと診断され、ブデソニド/ホルモテロール(シムビコート®)あるいはフルチカゾン/サルメテロール(アドエア®、セレタイド®)を処方されたもの。

アウトカム:
 年間肺炎発症率、肺炎による入院、死亡。

結果:
 9893人の患者がマッチングに適格であった(2738人がフルチカゾン/サルメテロール群、7155人がブデソニド/ホルモテロール群)。これらの患者のうち、2115人(39%)が試験期間中に少なくとも1回の肺炎を発症した。19170人年のフォローアップ中に2746エピソードが記録された。
 ブデソニド/ホルモテロールと比較すると、肺炎発症率および入院は有意にフルチカゾン/サルメテロールで高かった:リスク比1.73 (95%信頼区間1.57 to 1.90; P<0.001)、1.74 (1.56 to 1.94; P<0.001)。100人年あたりの肺炎イベント発症率は、フルチカゾン/サルメテロールとブデソニド/ホルモテロールではそれぞれ11.0 (10.4 to 11.8) vs 6.4 (6.0 to 6.9)であり、入院率は7.4 (6.9 to 8.0) vs 4.3 (3.9 to 4.6)だった。
ブデソニド/ホルモテロール(シムビコート)とフルチカゾン/サルメテロール(アドエア)の肺炎リスクに差!?_e0156318_9521520.jpg
(文献より引用)

 肺炎による平均入院期間は両群とも同等であったが、肺炎による死亡率はフルチカゾン/サルメテロール群で高かった(97死亡 vs 52死亡)(ハザード比1.76, 1.22 to 2.53; P=0.003)。総死亡率は両群で有意差はなかった(ハザード比1.08, 0.93 to 1.14; P=0.59)。
ブデソニド/ホルモテロール(シムビコート)とフルチカゾン/サルメテロール(アドエア)の肺炎リスクに差!?_e0156318_946387.jpg
(文献より引用)

ディスカッション:
・フルチカゾンの免疫抑制の効果は、ヒト肺胞マクロファージの抑制の観点からブデソニドよりも高いと言われている(Allergy 1999;54:691-9.)。そのため製剤によって差が出たのではないか。

結論:
 COPD患者における吸入ステロイド薬とLABAの合剤は肺炎や肺炎関連イベントのリスクを上昇させるが、合剤の種類によっては差がみられた。


by otowelt | 2013-06-11 09:48 | 気管支喘息・COPD

身体的合併症を有するCOPD患者における水中運動療法は地上運動療法よりも有効

身体的合併症を有するCOPD患者における水中運動療法は地上運動療法よりも有効_e0156318_104013.jpg リハビリテーションが難しいCOPD患者さんに対する水中運動療法の報告です。

Renae J. McNamara, et al.
Water-based exercise in COPD with physical comorbidities: a randomised controlled trial
ERJ June 1, 2013 vol. 41 no. 6 1284-1291


背景:
 肥満、筋骨格系の問題、神経学的問題がある慢性閉塞性肺疾患(CDOP)患者における地上で行う運動療法はしばしば困難をきわめる。このランダム化比較試験では、身体的合併症を伴うCOPD患者において、地上運動療法や非運動療法と比較して水中運動療法が運動耐容能やQOLを改善させるかどうか検証した。

方法:
 身体的合併症のある患者は以下の通りとした:腰椎や下肢に問題を及ぼす筋骨格系の異常、1つ以上の四肢の関節置換術があり可動域制限があるもの、末梢血管障害、脳卒中などの神経学的異常、BMI32以上の肥満。
 呼吸器リハビリテーション目的で紹介された参加者を、ランダムに水中運動療法群、地上運動療法群、非運動療法群(通常の薬物療法はおこなう)に割り付けた。2つの運動療法群は8週間にわたっておこない、1週間に3セッションを完遂した。

結果:
 53人の参加者のうち45人(平均年齢72±9歳、平均一秒量[予測値]59±15%)が試験を終えた。非運動療法群と比較して、水中運動療法群は有意に6分間歩行距離、漸増・耐久性シャトルウォーキング距離、慢性呼吸器疾患質問票(CRDQ)の呼吸困難感と疲労感を改善させた。地上運動療法群と比較して、水中運動療法群は有意に漸増シャトルウォーキング距離(平均差39 m, 95%信頼区間5–72 m)、耐久性シャトルウォーキング距離(平均差228 m, 95%信頼区間 19–438 m)、CRDQの疲労感を改善させた。
身体的合併症を有するCOPD患者における水中運動療法は地上運動療法よりも有効_e0156318_100271.jpg

結論:
 身体的合併症のあるCOPD患者において、水中運動療法は、地上運動療法や非運動療法と比較して有意に運動耐容能やQOLを改善させた。


by otowelt | 2013-06-11 00:43 | 気管支喘息・COPD

日本人の悪性胸水に対するタルクの胸膜癒着術は有効

日本人の悪性胸水に対するタルクの胸膜癒着術は有効_e0156318_13585789.jpg 聖マリアンナ医科大学からの報告です。基本的に外国で承認されていても日本での医薬品の認可はなかなかおりないことが多く、日本におけるタルクによる胸膜癒着術の臨床試験が望まれていました。
 ここまで民族差を考慮しなければならない慎重な薬剤事情は、一体いつから始まったのでしょうか。
 少なくともOK-432よりは使用しやすいと思うので、早くタルクが処方できるようになればいいですね。

Inoue T, et al.
Talc Pleurodesis for the Management of Malignant Pleural Effusions in Japan
Intern Med 52: 1173-1176, 2013


目的:
 悪性胸水は、胸腔ドレナージのあとQOLを維持するための胸膜癒着術によって治療される。タルクは現在世界的に悪性胸水治療のための標準的な胸膜癒着剤であるが、日本ではまだ承認されていない。その代わりに、多くの患者は胸膜癒着剤としてOK-432(ピシバニール®)が投与されており、これは高熱、胸痛、アナフィラキシーショック、間質性肺炎、急性腎不全といった合併リスクがある。日本人の患者において悪性胸水に対するタルクの効果と安全性を評価した。

方法:
2007年5月から2012年4月までの間、20歳以上のコントロール不良悪性胸水の患者を登録した。
 胸腔鏡下タルク噴霧による胸膜癒着術(Poudrage法)あるいは胸腔ドレーンからのタルクによる胸膜癒着術をおこなった。滅菌タルク(Steritalc®; Novatech;La Ciotat, France)は4g用いた。
日本人の悪性胸水に対するタルクの胸膜癒着術は有効_e0156318_13512616.jpg
(文献より引用)

結果:
 57人の患者が登録された。39人が女性で、年齢は68.1±10.5歳(range, 43 to 92)だった。
 胸部画像所見によって判定した成功率は、癒着術後30日で90.6%、90日で80.9%、180日で76.1%だった。タルクによる胸膜癒着術後の合併症は発熱10.5%、胸痛14.0%だった。重篤な有害事象は報告されなかった。

結論:
 日本人における悪性胸水のマネジメントにおけるタルクの胸膜癒着術は効果的で安全である。


by otowelt | 2013-06-10 00:36 | 肺癌・その他腫瘍