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中枢神経系癌腫症に対するタルセバ®はイレッサ®より有効か

中枢神経系癌腫症に対するタルセバ®はイレッサ®より有効か_e0156318_12495260.jpg タルセバ®がファーストラインに適応拡大したこともあり、EGFR-TKIの選択がこの先どうなっていくのか興味深いところです。

Lee, Eunyoung, et al.
Erlotinib Versus Gefitinib for Control of Leptomeningeal Carcinomatosis in Non-Small-Cell Lung Cancer.
Journal of Thoracic Oncology, in press, doi: 10.1097/JTO.0b013e318294c8e8


背景:
 非小細胞肺癌(NSCLC)における軟膜癌腫症:Leptomeningeal carcinomatosis (LMC)は、EGFR-TKIが使われる昨今においても臨床的に重要な神経学的合併症である。この試験の目的は、NSCLCにおけるLMCのコントロールにおいてゲフィチニブ(イレッサ®)とエルロチニブ(タルセバ®)を比較することである。

方法:
 われわれは2004年から2012年までソウル国立大学病院においてレトロスペクティブに25人のEGFR-TKIを使用したLMCの患者の診療録を抽出した。髄液穿刺によって3回連続で細胞診陰性がみられた場合、悪性所見がないものと定義した。細胞診陰性率を両群で比較した。

結果:
 9人の患者がexon21遺伝子変異を、8人の患者がexon19欠失を有していた。25人中9人はすでにEGFR-TKIを使用されており、LMC発症の後に他のEGFR-TKIにスイッチされていた。他の16人はLMCの診断を受けてからEGFR-TKIを使用された。全ての患者は、メソトレキセートを含む髄腔内化学療法を受けていた。6人はさらに全脳照射を受けた。
 ゲフィチニブとエルロチニブはそれぞれ11人と14人に投与されていた。10人の患者は髄液細胞診陰性となったが、15人は陰性化しなかった。エルロチニブ治療を受けた患者は細胞診陰性率がゲフィチニブよりも高かった(64.3% [9 of 14] vs 9.1% [1 of 11]、p = 0.012)。
中枢神経系癌腫症に対するタルセバ®はイレッサ®より有効か_e0156318_124107.jpg
(多変量解析:文献より引用)

結論:
 NSCLC患者におけるLMCのコントロールにおいて、エルロチニブはゲフィチニブより良好であることが示唆される。さらなる前向き研究が望ましい。


by otowelt | 2013-07-09 00:08 | 肺癌・その他腫瘍

喀痰中NGALはCOPDと気管支喘息のオーバーラップ患者を推定できるツール

喀痰中NGALはCOPDと気管支喘息のオーバーラップ患者を推定できるツール_e0156318_19264495.jpg COPDと気管支喘息の合併を推定できるバイオマーカーの報告です。とても貴重な報告だと思います。

Iwamoto H, et al.
Differences in plasma and sputum biomarkers between COPD and COPD-asthma overlap
ERJ, Published online before print June 21, 2013, doi: 10.1183/09031936.00024313


背景:
 COPDと気管支喘息のオーバーラップの病態生理はほとんどわかっておらず、このオーバーラップをもった患者の血清あるいは喀痰のバイオマーカーについては臨床試験がない。

方法:
 オーバーラップおよびCOPDあるいは気管支喘息の共通点や相違点を明らかにするため、われわれは4つのCOPDの潜在的バイオマーカーを測定した。すなわち、SP-A、soluble receptor for advanced glycation end-products(sRAGE)、ミエロペルオキシダーゼ(MPO)、好中球ゼラチナーゼ関連リポカリン(NGAL)である。SP-AとsRAGEは肺胞上皮細胞由来のマーカーであり、MPOとNGALは好中球由来のものであるが、NGALは気道の上皮細胞にも発現している。
 COPDと気管支喘息のオーバーラップの診断は、それぞれの診断を同時に満たす症例と定義した。

結果:
 血清SP-AおよびsRAGEと、誘発喀痰中のMPOとNGALが134人において測定された。134人のうち、非喫煙者が26人、喫煙者が23人、気管支喘息が32人、COPDが39人だった。そして、COPDと気管支喘息のオーバーラップは14人いた。
 COPD患者およびオーバーラップ患者の喀痰中MPOと血清SP-Aは有意に上昇していたが、一方で血清sRAGEは気管支喘息患者と比較して減少していた(COPD:715.8 ± 51.2、オーバーラップ:790.6 ± 81.8 pg/ml、それぞれp = 0.025、p = 0.013)。COPD患者と比較して、喀痰中のNGALのみがオーバーラップ患者で上昇しており(9.1 ± 2.2 μg/ml)、p = 0.00016)、これはCOPD患者と鑑別できるバイオマーカーであった。
喀痰中NGALはCOPDと気管支喘息のオーバーラップ患者を推定できるツール_e0156318_19183087.jpg
喀痰中NGALはCOPDと気管支喘息のオーバーラップ患者を推定できるツール_e0156318_19193467.jpg
喀痰中NGALはCOPDと気管支喘息のオーバーラップ患者を推定できるツール_e0156318_19195632.jpg
(文献より引用)

結論:
 誘発喀痰中のNGALレベルはCOPDと気管支喘息のオーバーラップを示唆する特徴であり、好中球性の気道炎症と気道の上皮細胞障害をあらわしているものと考えられる。


by otowelt | 2013-07-07 00:10 | 気管支喘息・COPD

肥満パラドクス:市中肺炎において肥満は死亡率を減少させる

肥満パラドクス:市中肺炎において肥満は死亡率を減少させる_e0156318_8482052.jpg 2012年のERSで発表された演題が論文化されたようです。解析方法がERSの時とは異なるようです。

・ERS2012:肥満は肺炎の死亡率を低下させる一因かもしれない

Anika Singanayagam, et al.
Obesity is associated with improved survival in community-acquired pneumonia
Eur Respir J 2013 42:180-187


背景:
 H1N1インフルエンザにおいて肥満はアウトカム不良と関連しているが、市中肺炎における影響についてはまだよくわかっていない。

方法:
 プロスペクティブに市中肺炎の診断で来院した連続患者を2005年1月から2009年12月までの間登録した。BMIが入院時に測定され、BMIによって分類された。
 30日死亡率、人工呼吸器あるいは血管作動薬サポートが必要となるかどうかをプライマリエンドポイントに設定した。なお、悪性疾患、院内肺炎、免疫不全に伴う肺炎の症例は除外した。

結果:
 1079人の患者が登録され、19%が肥満であった。平均年齢は66歳であった(IQR 50–78歳)。正常体重の場合と比較して、肥満患者には糖尿病の罹患が多かった(14.2% vs 7.8%; p=0.008)。肺炎の起因菌はStreptococcus pneumoniaeが56.9%と最も多く、Haemophilus influenzae が10.1%とそれに次いだ。
 人工呼吸器や血管作動薬を必要としない市中肺炎において、BMI30以上とそれ未満の患者とで比較すると、30日死亡率は肥満患者の方が有意に低かった(2.4% vs 7.7%; p=0.007)。ただし、人工呼吸器や血管作動薬を必要とする重症肺炎では死亡率に差はみられなかった(p=0.7)。
肥満パラドクス:市中肺炎において肥満は死亡率を減少させる_e0156318_836226.jpg

 Cox比例ハザード解析では肥満は30日死亡率を減少させる独立因子であった(ハザード比0.53, 95%信頼区間0.29–0.98)。
肥満パラドクス:市中肺炎において肥満は死亡率を減少させる_e0156318_8332139.jpg

ディスカッション:
 肥満は常に慢性炎症の状態にあるため、宿主の防御機能を常に高めている可能性が考えられる(Obes Rev 2011; 12: 653–659.)。具体的にはアディポカインなどがそれに相当する。有名なアディポカインであるレプチンは、マウスの研究において呼吸器の炎症を抑制するはたらきが知られている(Shock 2006; 25: 414–419.)。

結論:
 肥満は市中肺炎の死亡の保護的役割があるものと思われる。このメカニズムはよくわかっていないが、"obesity paradox"としての課題を残す。


by otowelt | 2013-07-06 00:10 | 感染症全般

COPD急性増悪時に抗菌薬を用いない場合の治療失敗を予測する因子

この論文におけるCRP40mg/Lというのは、日本の場合4mg/dLです。

Marc Miravitlles, et al.
Is it possible to identify exacerbations of mild to moderate COPD that do not require antibiotic treatment?
Chest. 2013. doi:10.1378/chest.13-0518


背景:
 Anthonisenの分類はCOPD急性増悪における抗菌薬の必要性の指標として使われている。われわれは、軽度から中等度のCOPD急性増悪において抗菌薬の治療必要性がない状況を最大限予測する方法を評価した。

方法:
 軽度から中等度のCOPD患者に対するアモキシシリン/クラブラン酸を使用したランダム化比較試験の患者のうち、プラセボ群の152人の患者のデータを用いた。多変量ロジスティック解析によって、Anthonisenの分類の臨床的パラメータおよび血清CRP値のオッズ比を算出した。
 カットオフ値は過去の報告(Am J Respir Crit Care Med2012; 186: 716-723.)よりもっとも予後予測に優れている点を選定した。

結果:
 ほとんどの患者はI型のCOPD急性増悪あるいはII型の急性増悪であった(それぞれ29.6%、47.4%)。CRP中央値は17 mg/Lだった。
 抗菌薬を用いない場合の臨床的な治療失敗は19.9%の患者にみられ、アモキシシリン/クラブラン酸群の9.5%より多かった(p=0.022)。
 抗菌薬を用いない場合の臨床的な治療失敗のリスクを上昇させる因子は喀痰の膿性度と(オッズ比=6.1, 95%信頼区間1.5 to 25.0; p=0.005)、血清CRP濃度≥40 mg/L (オッズ比=13.4, 95%信頼区間4.6 to 38.8; p<0.001)だった。両方のファクターがあれば、抗菌薬を用いない場合の臨床的治療失敗は63.7%にものぼった。
COPD急性増悪時に抗菌薬を用いない場合の治療失敗を予測する因子_e0156318_14103075.jpg
(文献より引用)

 Anthonisenの分類は、臨床的アウトカムを予測する上でAUCが0.708 (95%信頼区間 0.616 - 0.801)だった。CRPデータを加えると、AUCは0.842(95% CI: 0.76 – 0.924)に上昇した(p<0.001)。
COPD急性増悪時に抗菌薬を用いない場合の治療失敗を予測する因子_e0156318_14114436.jpg
(文献より改変引用)

結論:
 Anthonisenの分類のうち、喀痰の膿性度が抗菌薬を用いない場合の臨床的な治療失敗を予測した。血清CRP値を用いると失敗の予測能が上昇した。これら2つのパラメータを使用することで、抗菌薬によって恩恵が受けられる患者を同定することができるだろう。


by otowelt | 2013-07-05 00:46 | 気管支喘息・COPD

HIACE試験:高用量N-アセチルシステインはCOPD患者の末梢気道機能を改善、急性増悪の頻度も減少

HIACE試験:高用量N-アセチルシステインはCOPD患者の末梢気道機能を改善、急性増悪の頻度も減少_e0156318_1019146.jpg 
Hoi Nam Tse, et al.
High-Dose N-Acetylcysteine in Stable COPD: The 1-Year, Double-Blind, Randomized, Placebo-Controlled HIACE Study
Chest. 2013; 144(1):106-118.


背景:
 N-アセチルシステイン(NAC)の去痰効果とアンチオキシダント作用はCOPDの治療に大きな価値があるかもしれない。しかしながら、NACの用量不足や不適切なアウトカム設定のためか、その効果は臨床試験で確実性は証明されていない。このスタディの目的は、高用量のNACと通常のCOPD治療が中国人患者に有効かどうかを検証することである。

方法:
 1年におよぶHIACE試験(The Effect of High Dose N-acetylcysteine on Air Trapping and Airway Resistance of Chronic Obstructive Pulmonary Disease—a Double-blinded, Randomized, Placebo-controlled Trial)は、香港の光華病院で行われた50~80歳のCOPD患者を対象にした高用量NAC(600mg1日2回)とプラセボを比較した二重盲検試験試験である。
 呼吸機能パラメータ、症状、修正MRC息切れスケール、SGRQスコア、6分間歩行距離、急性増悪率、入院率を16週ごとに1年まで追跡した。

結果:
 133人の患者がスクリーニングされ、120人が適格基準を満たした(93.2%が男性、平均年齢70.8 ± 0.74歳、%1秒量53.9 ± 2.0%)。ベースラインの患者特性は両群とも同等であった。GOLD分類は2~3がほとんどで、これらが70%以上を占めた。およそ半数の患者はCOPD以外の合併症を有していた。
 治療1年次において、高用量NAC群はプラセボと比較して有意にFEF25-75%(肺活量25~75%での平均努力呼気流量)を改善させた(P = .037)。しかしながら、1秒量や努力性肺活量は治療16週目および1年次のいずれにおいても改善しなかった(1秒量:P=0.2, 0.7、努力性肺活量:P=0.69, 0.42)。
HIACE試験:高用量N-アセチルシステインはCOPD患者の末梢気道機能を改善、急性増悪の頻度も減少_e0156318_104467.jpg
(文献より引用)

 高用量NACはCOPD急性増悪の頻度を減少させた(0.96回/年 vs 1.71回/年, P = .019)。
HIACE試験:高用量N-アセチルシステインはCOPD患者の末梢気道機能を改善、急性増悪の頻度も減少_e0156318_1054124.jpg
(文献より引用)
 
 また、高用量NACは入院率も減少させる傾向がみられた(0.5回/年 vs 0.8回/年, P = .196)。そして、合計入院日数を有意に減少させた(p=0.08)。
HIACE試験:高用量N-アセチルシステインはCOPD患者の末梢気道機能を改善、急性増悪の頻度も減少_e0156318_108317.jpg
(文献より引用)

 修正MRC息切れスケールやSGRQスコア、6分間歩行距離に差はみられなかった。NACによる副作用は報告されなかった。

結論:
 この試験では、安定期COPD患者における高用量NACの1年間の治療は、有意に末梢気道機能を改善させ急性増悪の頻度を減少させた。


by otowelt | 2013-07-04 00:03 | 気管支喘息・COPD

好酸球増加を伴う中等症から重症の持続性気管支喘息に対してデュピルマブは有効

好酸球増加を伴う中等症から重症の持続性気管支喘息に対してデュピルマブは有効_e0156318_1342896.jpgSally Wenzel, et al.
Dupilumab in Persistent Asthma with Elevated Eosinophil Levels.
N Engl J Med 2013; 368:2455-2466


背景:
 中等症から重症の気管支喘息は、治療が困難である。われわれは、好酸球増加を伴う中等症から重症の持続性気管支喘息患者において、インターロイキン-4受容体αサブユニットに対する完全ヒトモノクローナル抗体であるデュピルマブの有効性と安全性を検討した。

方法:
 中等症から重症の持続性気管支喘息があり、血中好酸球数300/μL以上または喀痰中好酸球が3%以上で、中用量から高用量の吸入ステロイド薬と長時間作用性β2刺激薬(LABA)を併用している患者を登録した。
 デュピルマブ300mgあるいはプラセボを週に1回皮下注射した。患者は、4週目にLABAを中止し6週目~9週目にかけて吸入ステロイドを漸減中止させた。試験薬剤は12週間あるいはプロトコールで規定した気管支喘息の増悪があるまで投与した。
 プライマリエンドポイントは気管支喘息の増悪とし、セカンダリエンドポイントは一連の気管支喘息管理指標とした。2型ヘルパーT細胞(Th2)に関連するバイオマーカーへの反応や安全性についても調査した。

結果:
 登録患者のうち52人がデュピルマブ群、52人がプラセボ群に割り付けられた。患者背景に差はみられなかった。気管支喘息の増悪は、デュピルマブ群3人(6%)、プラセボ群23人(44%)にみられ、デュピルマブにより気管支喘息の増悪が87%減少した(オッズ比 0.08、95%信頼区間 0.02~0.28、P<0.001)。
 呼吸機能検査、気管支喘息管理指標のほとんどに有意な改善がみられた。Th2に関連するバイオマーカーもデュピルマブによって低下した。

結論:
 好酸球増加を伴う中等症から重症の持続性気管支喘息で、吸入ステロイド薬とLABAを使用中の患者において、デュピルマブはプラセボと比較して、コントローラーを中止した場合に気管支喘息の増悪頻度がより低くなった。



by otowelt | 2013-07-03 00:24 | 気管支喘息・COPD

イソニアジドによる神経障害

イソニアジドによる神経障害_e0156318_18272741.jpg イソニアジドの有名な副作用と言えば神経障害ですが、「ピリドキシンを飲ませておけばいい」程度の知識として扱われていることも多く、まとまった記事も多くありません。イソニアジドによる神経障害について現在わかっている知見をまとめて、個人的にレビューしてみました。


・はじめに
 イソニコチン酸ヒドラジド、通称イソニアジドはリファンピシンとともに結核治療のキードラッグの1つです。ご存知の通り、世界的に広く使用されている抗結核薬です。神経障害が起こるリスクを考慮し、多くの結核治療医はその予防にビタミンB6の補充をおこなっています。しかしながら、イソニアジドの神経障害に関するエビデンスはあまり多くありません。
 最もまとまったレビューは、以下の論文だと思います。
van der Watt JJ, et al. Polyneuropathy, anti-tuberculosis treatment and the role of pyridoxine in the HIV/AIDS era: a systematic review. Int J Tuberc Lung Dis. 2011 Jun;15(6):722-8.


・イソニアジドによる神経障害の機序
 イソニアジドがピリドキシンと結合することで、尿中にピリドキシンが過剰に排泄量されます。
Preziosi P. Isoniazid: metabolic aspects and toxicological correlates. Curr Drug Metab 2007; 8: 839–851.
 またイソニアジドは、ビタミンB6群のリン酸化に必要なピリドキサールキナーゼを阻害します。ピリドキシンは大脳における神経伝達物質であるGABAの生成、またシナプスの刺激伝達に重要な、各種アミンの生成にも不可欠であるため、ビタミンB6の阻害により、末梢神経障害、運動失調、高次脳機能障害などが起こることがあります。これがイソニアジドによる神経障害です。
 病理学的にワーラー変性による軸索変性が起こっているものと考えられています。
Oestreicher R, et al. Peripheral neuritisin tuberculous patients treated with isoniazid. Am Rev Tuberc1954; 70: 504–508.


・イソニアジドによる神経障害の疫学
 イソニアジドによる神経障害はリスクファクターがない限りはまず起こり得ないとされています。イソニアジドにおける神経障害は用量依存性であり、MMWRによれば頻度は0.2%以下と極めてまれなものとされています。
・American Thoracic Society; CDC; Infectious Diseases Society of America. Treatment of tuberculosis. MMWR Recomm Rep. 2003 Jun 20;52(RR-11):1-77.
・Combs DL, et al. USPHS Tuberculosis Short-Course Chemotherapy Trial 21: effectiveness, toxicity and acceptability. Report of the final results. Ann Intern Med 1990;112:397–406.
・Hong Kong Chest Service, Tuberculosis Research Centre MBMRC.A double-blind placebo-controlled clinical trial of three antituberculosis chemoprophylaxis regimens in patients with silicosis in HongKong. Am Rev Respir Dis 1992;145:36–41.
・Ormerod LP, et al. Frequency and type of reactions to antituberculosis drugs: observations in routine treatment. Tuber Lung Dis1996;77:37–42.

 論文によっては神経障害の頻度をもっと多く報告しているものもありますが、イソニアジドによる神経障害を論じた報告のほとんどがHIV共感染のあるものです。実は、HIV共感染がある場合には神経障害は4倍にものぼるとされています。そのため、実際私たちが出合うイソニアジドによる神経障害というものの頻度はあまり詳しくわかっていません。
 MMWRの0.2%という記載は少し過少に見積もっている可能性も否定できません。たとえばThoraxの報告ではHIV共感染のない患者156人のうち2%に末梢神経障害がみられたと報告されていますし、ロンドン大学の報告でも1.9%という報告があります。ただし、これはレトロスペクティブ試験であるため信頼性に乏しいとする意見もあります。私はまだ5年あまりしか結核診療に携わっていませんが、イソニアジドによる神経障害には一度も出合ったことがなく(運がいいだけでしょうか?)、2%は多いのではないかとも感じています。
・Breen RA, et al. Adverse events and treatment interruption in tuberculosis patients with and without HIV co-infection. Thorax. 2006 Sep;61(9):791-4.
・Marks DJ, et al. Adverse events to antituberculosis therapy: influence of HIV and antiretroviral drugs. Int J STD AIDS 2009; 20: 339–345.
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イソニアジドは肝臓でアセチル化を経て代謝されます。アセチル化にかかわる酵素には2つの形質があり、民族によって大きな違いがあります。したがって、半減期は二峰性の確率分布をとります。神経障害やイソニアジドの効果もこの代謝によって差があるため、神経障害の頻度は民族差を考慮しなければならないかもしれません。そうなると神経障害の頻度を述べるには潜在的な交絡因子が多すぎるのかもしれません。
Krishnamurthy DV, et al. Effect of pyridoxine on vitamin B6 concentrations and glutamicoxaloacetic transaminase activity in whole blood of tuberculous patients receiving high-dosage isoniazid. Bull World Health Organ 1967; 36: 853–870.
 神経障害が起こる時期は、通常のイソニアジド内服量であれば16週程度かかるとされています。よほど過量のイソニアジドを内服したとしても、1か月くらいはかかるそうです。そのため、内服し始めて数日で「しびれる」と訴えるのはイソニアジドとはあまり関連性のないものだと考えられます。
Biehl JP, et al. Effect of isoniazid on vitamin B6 metabolism;its possible signifi cance in producing isoniazid neuritis. Proc Soc Exp Biol Med 1954; 85: 389–392.


・イソニアジドによる神経障害の予防
 イソニアジドによる神経障害を予防する上で、リスクのある患者においてはピリドキシンの予防投与が推奨されています。特に、高齢者、栄養失調、慢性肝疾患 妊娠中や授乳中の女性、アルコール嗜飲者、小児、糖尿病、HIV患者、腎不全の患者では予防投与が強く推奨されています。
Snider DE Jr. Pyridoxine supplementation during isoniazid therapy. Tubercle. 1980 Dec;61(4):191-6.

 ピリドキシンの予防投与量は国やそのガイドラインによって異なります。
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▲ガイドライン別のピリドキシンの1日あたりの予防投与量(mg)
・World Health Organization. Treatment of tuberculosis: guidelines for national programmes. 3rd ed. Geneva, Switzerland:WHO, 2003.
・Centers for Disease Control and Prevention. Guidelines forprevention and treatment of opportunistic infections in HIV infected adults and adolescents. Atlanta, GA, USA: CDC, 2009.
・Chan ED, et al. Current medical treatment for tuberculosis. BMJ 2002; 325: 1282–1286.
・Chemotherapy and management of tuberculosis in the United Kingdom: recommendations 1998. Joint Tuberculosis Committeeof the British Thoracic Society. Thorax 1998; 53: 536–548.
・Nisar M, et al. Exacerbation of isoniazid induced peripheral neuropathy by pyridoxine.Thorax 1990; 45: 419–420.
・Fennerty T. Pulmonary embolism. Hospitals should developtheir own strategies for diagnosis and management. BMJ 1998;317: 91–92.
・South African Department of Health. South African national guidelines on nutrition for people living with TB, HIV/AIDSand other chronic debilitating conditions. Pretoria, South Africa:Department of Health, 2001.
・Gibbon CJ, et al. South African medicines formulary.8th ed. Cape Town, South Africa: Health and Medical Publishing Group of the South African Medical Association, 2008.
・South African Department of Health. Standardised managementof multidrug-resistant tuberculosis in South Africa. Pretoria, South Africa: Department of Health, 2004.

 特に合併症のない正常な人であれば、食事の中に十分ビタミンが入っていますので、薬剤としての補充の必要性は乏しいかもしれません。
Steichen O, et al. Isoniazid inducedneuropathy: consider prevention. Rev Mal Respir 2006;23: 157–160.
 ピリドキシンの存在によってイソニアジドの腸管の吸収がやや低下するとされていますが、臨床的に問題になるほどの吸収阻害はないのではないかという意見もあります。予防投与量程度であればそれほど気にする必要はないと思います。
Zhou Y, et al. Effects of pyridoxine on the intestinal absorption and pharmacokinetics of isoniazid in rats. Eur J Drug Metab Pharmacokinet. 2013 Mar;38(1):5-13.


・おわりに
 個人的にはリスクのある患者さん(高齢者、糖尿病、HIV共感染など)に対してはビタミンB6の補充をおこなっていますが、元気な20歳くらいの結核患者さんでモリモリご飯を食べているような場合には補充をしていません。しかしサイクロセリンを投与している多剤耐性結核の患者さんに限っては、全例ピリドキシンを補充しています。


by otowelt | 2013-07-01 00:56 | レクチャー