6分間歩行試験に思う

e0156318_14323371.jpg 6分間歩行試験(6MWT)は患者さんの、移動能力を調べて運動耐容能を評価する検査です。呼吸器内科では主に、COPDや間質性肺疾患(ILD)の運動耐容能を評価するためにおこなわれており、当院でも毎日複数の患者さんに6MWTが実施されています。

 6MWTは主に以下の目的で行われています。

・疾患によって運動能力がどの程度障害されているか知るため。
・患者さんにとってどの程度の運動が妥当であるか知るため。
・COPDやILDの重症度を評価するため、それによって日常生活がどのくらい障害されているか知るため
・労作時の呼吸困難や酸素飽和度の低下を調べるため、また酸素療法の必要性を判断するため。
・治療やリハビリテーションの効果を知るため。


※ATS(AmericanThoracic Society)のガイドライン1)では、パルスオキシメーターによる酸素飽和度測定は必要とされていませんが、日本では安全のために歩行時に酸素飽和度を測定するのが一般的です。また、特発性間質性肺炎では特定疾患の申請に際して6MWTの最低酸素飽和度の数値が必要になります。これは、6MWT における最低酸素飽和度がIPF の予後不良因子とされているためです2)

 トレッドミルのような強い運動負荷をかけるわけではありませんが、基本的に不安定狭心症や心筋梗塞のリスクが高い人は禁忌とされています。また、まったく歩行ができない介護を要する人にも6MWTは適用されません。当然です。

 6分間、ずっとどこかに向かって歩き続けるわけではなく、限られた直線コースを往復することでその距離が測定されます。しんどければ途中で休憩をとってもらっても構いません。呼吸困難感の程度の評価のために、当院では修正Borgスケールを用いています。リッカード尺度に代表される順序カテゴリー尺度とはちがい、おのおののポイント間は等間隔性を有すると考えられており、4点は2点の2倍、8点は4点の2倍という評価が可能で、同じ被験者における経時的な変化を検出するのに優れた呼吸困難感の指標だからです。

 さて、慢性呼吸器疾患だからといって運動耐容能評価のために常に6MWTを用いればよいわけではありません。もっとも注意されるべきは、変形性関節症や閉塞性動脈硬化症などを合併している進行性の歩行障害を併存している患者さんです。それらがコントロール不良の場合、6MWTの実施自体がほぼ無意味になります。

 変形性関節症の患者さんでも、その歩行距離・歩行速度が疾患の病態把握に有用で他の運動耐容能検査と相関性があるため3),4)、実施している病院もあります。しかし、整形外科疾患と呼吸器疾患の2つを有している場合、6MWTの結果がどちらの疾患の影響を反映しているのかまったく分かりません。ただでさえ、運動負荷強度の設定や再現性にバイアスがある検査なのに、評価疾患が2つあると、ワケがわからなくなってしまう。そのため、十分にコントロールされていない非呼吸器疾患がある患者さんでは、6MWTの評価は医療従事者の自己満足で終わってしまいます。

 フラフラで杖を突いている高齢者が「よーい、はじめ!」と6MWTをトライされる場合、さすがに定量的評価は厳しいだろうと思います。6分間歩行距離は、ワンポイントで評価するのではなく、経時的変化をみることが最も重要で、その日の膝の調子の良し悪しや、杖を買い替えただけでも変化することをわれわれは知っておかねばなりません。

 定量的評価という検査理念の上にあぐらをかかないようにしたいものです。これは、自らに対する戒めでもあります。


(参考文献)
1) ATS Committee on Proficiency Standards for Clinical Pulmonary Function Laboratories. ATS statement: guidelines for the six-minute walk test. Am J Respir Crit Care Med. 2002 Jul 1;166(1):111-7.
2) Nishiyama O, et al. A simple assessment of dyspnoea as a prognostic indicator in idiopathic pulmonary fibrosis. Eur Respir J. 2010 Nov;36(5):1067-72.
3) Kennedy DM, et al. Assessing stability and change of four performance measures: a longitudinal study evaluating outcome following total hip and knee arthroplasty. BMC Musculoskelet Disord. 2005 Jan 28;6:3.
4) Maly MR, et al. Determinants of self-report outcome measures in people with knee osteoarthritis. Arch Phys Med Rehabil. 2006 Jan;87(1):96-104.



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# by otowelt | 2018-06-22 00:21 | びまん性肺疾患

REALサーベイ:COPDの吸入薬アドヒアランス

e0156318_1633480.jpg ノバルティスファーマ寄りの論文ですが、ビデオよりデモンストレーションの方がよいというのは納得の結果です。

Price D, et al.
Factors associated with appropriate inhaler use in patients with COPD - lessons from the REAL survey.
Int J Chron Obstruct Pulmon Dis. 2018, 26;13:695-702.


背景:
 吸入薬のアドヒアランス不良および吸入薬の不適切使用は、COPD患者のマネジメントに大きな障壁となる。医療従事者はアドヒアランスを維持するためや適切な吸入薬使用を教育するために重要な役割を担っている。しかしながら、多くの患者は適切な吸入薬トレーニングを受けておらず、技術チェックも受けたことがない。

方法:
 このREALサーベイでは、COPD維持治療に対して販売されている吸入薬の適切使用、吸入手技、アドヒアランスなど23の質問を電話でおこなった。

結果:
 2016年1月4日~2016年2月日までサーベイが実施された。合計764人の軽症~超重症COPD患者が登録された。平均年齢は56±9.8歳である。使用吸入薬の内訳は、ブリーズヘラー186人、エリプタ191人、ジェヌエア194人、レスピマット201人だった。患者申告アドヒアランスは、高齢者と比べると若年者の方が有意に不良だった(p=0.020)。患者の83%は、対人におけるデモンストレーションは「とても役立つ」と答えた。患者の好むトレーニング方法は以下の通りだった、デモンストレーション83%、ビデオ58%、使用説明51%、リーフレット34%。29%の患者は少なくとも2年の間に医療従事者から吸入手技のチェックを受けていなかった。チェックを受けた患者は、受けていない患者よりもアドヒアランスが良好だった(p=0.020)。ブリーズヘラーを用いた患者のほとんどは、吸入できているという実感が良好と回答しており、これはジェヌエア、エリプタ、レスピマットよりも頻度が高かった。最終30日のアドヒアランスはブリーズヘラーが最も高かった。
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(文献より引用:患者の好むトレーニング方法)

結論:
 COPDの維持治療において正しく吸入薬を用いることが重要だが、患者の年齢などを考慮して適切な手法を選ぶべきである。対人的なデモンストレーションがもっとも好ましい。




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# by otowelt | 2018-06-21 00:16 | 気管支喘息・COPD

結核性胸膜炎に対するプレドニゾロン併用治療はその後の後遺症を軽減

e0156318_9552565.jpg 結核の胸水には基本的に手を出さなくてよいというのがセオリーですが、興味深い報告ですね。

Sun F, et al.
Adjunctive use of prednisolone in the treatment of free-flowing tuberculous pleural effusion: A retrospective cohort study.
Respir Med. 2018 Jun;139:86-90.


背景:
 抗結核薬治療のステロイド治療の併用は、結核性胸膜炎(TPE)の患者において利益があるとされているが、ルーチンで用いることのデータは不足している。TPEはfree-flowing typeとloculated typeに分類した。われわれは、free-flowing typeのTPEに対するプレドニゾロン併用が機能的後遺症、胸膜肥厚、胸膜癒着に与える効果を評価した。

方法:
 これは、2013年1月~2016年12月に実施された後ろ向きコホート研究である(ChiCTR-ORC-16009267)。TPEと診断された全患者は、標準的4剤併用療法で治療され、胸水は完全に排液された。われわれは、レントゲン上の後遺症(胸膜肥厚>2mm、胸膜癒着、CP angle>90°)あるいは拘束性機能障害(1秒量/予測1秒量あるいは全肺気量/予測全肺気量<80%)の複合アウトカムをステロイド使用群と非使用群で比較した。

結果:
 135人が登録され、56人がプレドニゾロン併用治療を受け、79人が併用治療を受けなかった。レントゲン上の後遺症あるいは拘束性機能障害の後遺症の複合アウトカムは、プレドニゾロン併用治療群の方が有意に少なかった(51.8% vs. 75.9%; 率比2.83, 95%信頼区間1.27-6.31, P = 0.011)。重篤な合併症はみられなかった。

結論:
 HIV陰性のfree-flowing typeのTPE患者に対して、プレドニゾロン併用治療はレントゲン上の後遺症あるいは拘束性機能障害の後遺症の複合アウトカムの発症を減らした。



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# by otowelt | 2018-06-20 00:57 | 抗酸菌感染症

IMpower150試験:転移性非扁平上皮NSCLCに対する化学療法+ベバシズマブ+アテゾリズマブ

e0156318_8124310.jpg 言わずと知れた研究ですが、一応。

Mark A. Socinski, et al.
Atezolizumab for First-Line Treatment of Metastatic Nonsquamous NSCLC
N Engl J Med 2018; 378:2288-2301


背景:
 アテゾリズマブの癌細胞を殺傷する効果については、ベバシズマブで阻害することで血管内皮増殖因子を介する免疫抑制が増強される可能性が示唆されている。本第3相試験では、これまで化学療法歴のない転移性非扁平上皮非小細胞肺癌(NSCLC)患者を対象にアテゾリズマブ+ベバシズマブ+化学療法の併用を評価した。

方法:
 登録患者をアテゾリズマブ+カルボプラチン+パクリタキセル(ACP)群、ベバシズマブ+カルボプラチン+パクリタキセル(BCP)群、アテゾリズマブ+BCP(ABCP)群のいずれかにランダムに割り付け、3週ごとの投与を4あるいは6サイクル行い、続いてアテゾリズマブ、ベバシズマブ、またはアテゾリズマブ+ベバシズマブ併用による維持療法を行った。プライマリエンドポイントは、野生型遺伝子を有するITT集団患者(WT集団:EGFR/ALK 遺伝子変異陽性例は除く)と、腫瘍にエフェクターT細胞(Teff)の遺伝子特徴が高発現しているWT集団患者(Teff高発現WT集団)の両方における医師の評価による無増悪生存と、WT集団における全生存の2つと規定した。まずABCP群とBCP群を比較し、その後にACP群とBCP群を比較した。

結果:
 WT集団では、356人がABCP群に336人がBCP群に割り付けられた。PFS中央値はABCP群のほうがBCP群よりも有意に長く(8.3 ヶ月 vs 6.8 ヶ月,病勢進行または死亡のハザード比 0.62、95%信頼区間0.52~0.74、P<0.001)、Teff高発現WT集団ではABCP群11.3 ヶ月,BCP群 6.8ヶ月だった(ハザード比 0.51 、95%信頼区間0.38~0.68,P<0.001)。PFSは、ITT集団全体(EGFR/ALK 遺伝子変異陽性例を含む)においても、PD-L1低発現または陰性例、Teff遺伝子特徴低発現例、肝転移例のいずれにおいても、ABCP群のほうがBCP群より長かった。WT集団のOS中央値は、ABCP群のほうがBCP群より有意に長かった(19.2 ヶ月 vs 14.7 ヶ月,死亡ハザード比 0.78、95%信頼区間0.64~0.96、P=0.02)。ABCPの安全性プロファイルは、過去の研究データと同等だった。

結論:
 転移性非扁平上皮NSCLC患者に対するベバシズマブ+化学療法にアテゾリズマブを追加することによって、PFSおよびOSが有意に延長した。




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# by otowelt | 2018-06-19 15:48 | 肺癌・その他腫瘍

患者さんに伝わりにくい医学用語 その4:増悪(ぞうあく)

e0156318_1819237.jpg・増悪(ぞうあく)

医師:「肺炎が少し増悪しているようです。」

患者さん:「ゾウアク・・・ですか?」

 私たち医師は「増悪」という言葉をよく使います。ただ単に病状や疾患が悪化していることを表す言葉ですが、一般の方々にとっては謎の用語の1つです。まだ病院に慣れていない医学生も、「憎悪(ぞうお)」と誤読することがあります。

 「軽快」という言葉は比較的患者さんに伝わりやすいのですが、「増悪」に関してはほとんどの患者さんが「たぶん悪くなっているという言葉なんだろうな」という推測のもと聞いているようです。



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# by otowelt | 2018-06-18 00:03 | コラム:伝わりにくい医学用語