抗癌剤における新しい制吐剤:アプレピタント

抗癌剤に嘔気・嘔吐の副作用はつきものであるが、
プリンペラン無効、ナウゼリン無効、ノバミン無効、カイトリル無効・・・
ということを、癌治療を行っている医者はよく経験することと思う。

2009年10月16日、制吐薬のアプレピタント
(商品名:イメンドカプセル125mg、同80mg、同セット)が製造承認を取得。
適応は「抗悪性腫瘍薬(シスプラチン等)投与に伴う消化器症状(悪心、嘔吐)
で遅発期を含む」であり、他の制吐薬と併用することが前提となる。

嘔吐を誘発するいくつかの機序のうち、アプレピタントの作用機序は、
NK-1 受容体を介するものである。現在明らかにされているニューロキニン
受容体NK-1 、NK-2、NK-3 のうち、NK-1 は末梢神経、中枢神経に分布している。
一方、サブスタンスP は11 個のアミノ酸からなるポリペプチドで、
タキキニンと呼ばれる神経伝達物質のひとつであり、腸管および脳に存在する。
サブスタンスP はNK-1 に親和性が高く、サブスタンスP がNK-1 へ結合することが
嘔吐を誘発する機序のひとつであると考えられている。アプレピタントは、
中枢神経系のNK-1 受容体とサブスタンスP の結合を選択的に遮断することにより、
嘔吐を抑制する。このようにアプレピタントの作用点は、これまで使用されてきた
制吐剤とは全く異なるため、他の制吐剤と併用することにより、相乗効果をもたらす。

アプレピタントは、CYP1A2およびCYP2C19 によってもわずかに代謝されるものの、
主にCYP3A4により代謝を受ける。アプレピタントはCYP3A4 の中等度の阻害剤であり
中等度の誘導剤でもある。従って、CYP3A4 により代謝される抗癌剤との
相互作用が問題となる。CYP3A4 により代謝される抗癌剤は、
ドセタキセル、パクリタキセル、エトポシド、イリノテカン、イホスファミド、
イマチニブ、ビノレルビン、ビンブラスチン、ビンクリスチンなどが知られている。
また、アプレピタントは、CYP2C9 を誘導し、ワルファリン療法を行っている
患者に投与するとINRを低下させるとされている。このINR の低下はアプレピタント
投与後7日~10 日に顕著であるため、INR のモニタリング間隔は2週間が妥当。
さらに、アプレピタントはデキサメサゾンとの連続併用時、デキサメサゾンのAUC
を2.2 倍に増加させるため、併用時はデキサメサゾンの約50%減量が推奨されている。
同様に、メチルプレドニゾロンも静脈注射の場合25%、経口投与の場合50%の
減量が必要である。一方、アプレピタントのAUC に影響を与える可能性がある
薬物との併用も問題となる。これらの薬物にはCYP3A4 阻害剤である
ケトコナゾール、イトラコナゾール、エリスリマイシンなどがあり、アプレピタント
のAUC を増加させ、作用を増強する可能性がある。また、CYP3A4 誘導剤である
カルバマゼピン、リファンピシン、フェニトインなどは作用を減弱させる可能性がある。

以下に有用な文献を銘記しておく。
・J Clin Oncol. 2005;23:2822-2830
・J Clin Oncol. 2003;21:4105-4111.
・Eur J Cancer. 2003 ;39:1395-1401
・J Clin Oncol. 2003;21:4112-4119.
・J Clin Oncol. 2001;19:1759-1767.
・Basic Clin Pharmacol Toxicol. 2007;101(3):143-50
・Br J Anaesth. 2007;99(2):202-11.

# by otowelt | 2009-11-23 16:33 | レクチャー

SSc患者の半数で早期肺高血圧症がみられる


SScの肺高血圧症といえば、あとあと問題になるケースが多かった
ように思うが、実はそうではないという論文がCHESTから出た。

つまり、早期から肺高血圧症を起こしうる上に
それら早期例は重症化しやすいという結論である。

Is Pulmonary Arterial Hypertension Really a Late Complication of Systemic Sclerosis?
CHEST November 2009 vol. 136 no. 5 1211-1219


背景:
 肺高血圧症(PAH)は、全身性強皮症(SSc)でよくみられる致死的な合併症である。
 PAHは、基本的にはSScの晩期に起こるものと考えられている。
 このスタディは、早期にPAHが起こっていないかどうかを調べたものである。

方法:
 78人のSSc+PAH患者のデータを採取。
 PAHは非レイノー症状が最初に出てから5年以内に診断されたものを
 early-onsetと定義した。それ以外の、5年より長い経過のあとの診断を
 lateと定義した。

結果:
 PAHは平均してSSc診断後6.3 ± 6.6年後に診断された。
 early-onset PAHは43人(55.1%)、late-onset PAHじゃ35人(44.9%)。
 early-onset PAH患者は、late-onset PAH患者よりも年齢が高かった
 (平均年齢, 58.0 ± 12.5 vs 46.6 ± 12.9 years, p = 0.0002)。
 SScサブタイプに差はなかった(limited vs diffuse、
 anticentromere vs anti-Scl70 antibodies)。
 診断時ではearly-onset PAHはlate-onset PAHよりも重症であり、
 低cardiac indexであった(2.4 ± 0.6 vs 2.8 ± 0.6 L/min/m2, p = 0.005)。

結論:
 当初考えられていた結論とは異なり、
 early-onset PAHはおおよそ半分のSSc患者に認められ
 diffuse SScでもlimited SScでも観察された。
 そのため、SScの診断後はすみやかにPAHを検索すべきである。

# by otowelt | 2009-11-18 13:24 | びまん性肺疾患

COPD早期発見のツール

COPDを早期発見するのは難しい。
患者も病識が少ないので、軽症例をひっかけるのは
至難の業であることはだれしも経験していることと思う。
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17点以上をCOPD診断の価値ありと判断し、
16点以下はそれ以外の疾患を考える。

# by otowelt | 2009-11-17 12:58 | 気管支喘息・COPD

オキシーパをARDS・敗血症で使う理由


・アルギニンが入っていない(NOをおさえるため)
アルギニンは、病態時においては条件付き必須脂肪酸となることもある。
アルギニンは、成長ホルモンやインスリン、プロラクチンなど様々な
ホルモン分泌を促進し、代謝を改善したり、たんぱく質の合成を促進すること
により、創傷治癒の促進や、免疫細胞の活性化により感染を予防する機能が期待できる。
さらに、アルギニンは、核酸の前駆物質として、リンパ球の機能の
正常化・活性化に有用であることが報告されている。また、血管拡張作用や、
殺菌作用を有する一酸化窒素の基質となるため、循環の維持や感染防御能の
増強に有用である。しかし、過剰な一酸化窒素の産生は血管拡張作用に伴う
ショックの誘発や、活性酸素と一酸化窒素との反応によって産生される
過酸化硝酸塩が原因となり、組織障害の原因となりうるため、敗血症時における負荷は
むしろ有害となりうる。 よって、このような患者にはアルギニンを添加した
濃厚流動食の投与は望ましくないとされている。

・ω-3 系脂肪酸が入っている
Immunonutritonでもアルギニンを入れず、炎症で大きな問題になっている
酸化ストレスを抑えるω-3 脂肪酸やその他の抗酸化物質を考慮した組成の
ものが開発されるようになった。
ω-3 系脂肪酸は免疫能を上げるよりは調整する働きがあり過剰な炎症を抑制する。
Immune-Enhancing ではなくImmuno-Modulating Diet(IMD)という
新たなカテゴリーの栄養剤とされている。
過剰な炎症が起こっている状態ではω-3 系脂肪酸はそれを抑え、
必要に応じて急性の肺障害や合併症の発症も抑えます。

・グルタミンが入っている
オキシーパ® の主な成分にはグルタミンも入っている。
グルタミンはIED にも使われていたが、
免疫能を上げる一方で細胞保護にはたらくヒートショックプロテインの産生を
上げ、抗酸化作用のあるグルタチオンの材料にもなる。

# by otowelt | 2009-11-13 13:34

非結核性抗酸菌症の治療


a)肺MAC 症
1)RECAM
 CAM 600-800mg/日分2-3 (最低12mg/kg/day以上は必要)
 RFP 450-600 mg/日 分1
 EB 500-750mg/日分1
 KMまたはSM1000 mg/日週2-3回 筋注(初期2-3ヶ月)
 排菌陰性化から1年以上

2)(CAM耐性または使用不可の場合)
 RFP 450-600mg/日 分1
 EB 500-750mg/日分1
 SPFX 100-200mg/日分1
 KM またはSM1000mg/日週2-3回筋注
排菌陰性化から1年以上

*CAM耐性:
 液体培地を用いてMICを測定する. 32μg/mlを越えた場合を耐性とする.


b)肺M. kansasii症

1)HRE
 INH 300mg/日  分1
 RFP 450-600mg/日  分1
 EB  500-750mg/日  分1
  計1-1.5年

※INHの副作用が疑われた場合は中止

2)(RFP耐性または使用不可の場合)
 CAM 600-800mg/日 分2
 EB 500-750mg/日 分1
 LVFX 300-500 mg/日 分1
 またはTH 300-500mg/日
 重症ではSM1000mg/日 週2-3回筋注(初期3-6ヶ月)を追加
  菌陰性化後1年以上


c)迅速発育菌による肺感染症
発育速度が速く、通常の抗結核薬は無効であるが一般抗生剤の一部が有効
であり、薬剤感受性検査は液体培地を用いた微量希釈法によるMICの測定
が有益である等、抗酸菌ではあるが一般細菌に近い菌と認識すべき。

M. fortuitumはAMK、ニューキノロン、sulfonamides、cefoxitin、
IPM/CS、CAM等が有効であり比較的予後良好。

M.abscessusは有効な薬剤がCAM、AMK、cefoxitin、IPM/CSに
ほぼ限られており(RFP+EBが有効との意見もあり)、最も予後不良な
肺非結核性抗酸菌症。

M. chelonae はAMK、CAM、IPM/CS、doxycyclin、CPFX等に
感受性が報告されている。

いずれも経験的に有効な3-4剤を1-2年投与しているのが現状である.

d) 肺M.szulgai症
RFP、EB、TH、SM、KM、EVMに感受性を示す菌が多い。
RFP+EBにKMまたはTHを加えた1-2年の治療で菌陰性化が期待できる。

e)肺M. nonchromogenicum症
RFP+EB+TH+CAMで治療するという結核病学会の見解はあるが、
症例の蓄積が乏しく臨床効果は確定していない。

f)その他の菌種による感染症
有効薬剤や治療法は確立していない。
肺MAC症に準じた治療をしているのが現状。

# by otowelt | 2009-11-12 07:17 | 抗酸菌感染症