ニューモシスティス肺炎 (カリニ肺炎) その3


●ニューモシスティス肺炎の治療
★第一選択:
・ST合剤(バクタ)5mg/kg/day(トリメトプリム換算)
              1日3回 バクタ12錠分3 21日間
 ※バクタ1錠480mg:スルファメトキサゾール400mg+トリメトプリム80mg
・ST合剤(バクトラミン)5mg/kg/day(トリメトプリム換算)
              1日3回 バクタ12A分3 21日間
 ※バクトラミンは1Aあたり75~125mlの輸液が必要(合計900~1500ml)

※PO2<70mmHg or A-a gradient >35mmHg のとき、
 プレドニン40mg1日2回 5日間
  →プレドニン40mg1日1回5日間
    →プレドニン20mg1日1回 11日間


PaO2≦70Torr、AaDO2≧35mmHg、進行が速いケースでは
中等症以上と診断し、ステロイドをPCP治療開始後24-74時間以内に使用。
肺感染症や肺Kaposi肉腫があれば使用しない。
The National Institutes of Health-University of California Expert Panel for Corticosteroids as Adjunctive Therapy for Pneumocystis Pneumonia. N Engl J Med 1990; 323:1500

ステロイド使用は・・・・・・・
・死亡率を下げる
・呼吸不全の頻度を低下させる
Adjunctive corticosteroids for Pneumocystis jiroveci pneumonia in patients with HIV-infection Cochrane Database Syst Rev. 2006 Jul 19;3:CD006150


★その他の選択肢:
・ペンタミジン(ベナンバックス)3~4 mg/kg/日
     250mlに溶解して1日1回2時間以上でDIV 21日間
・ペンタミジン(ベナンバックス)600mg/日を注射用蒸留水6~20mlに溶解し
 超音波ネブライザーを用いて30分以上かけて吸入(何度か体位変換を行う必要あり)
 ※吸入前に気管支拡張薬を吸入した方がよい

・トリメトプリム 5mg/kg/日1日3回(バクタ12錠分3)
+ ダプソン(レクチゾール)100mg/日 21日間
・クリンダマイシン600mg IV 8時間ごと or 300-400mg PO 6時間ごと
+プリマキン15-30 mg/day 21日間
・Atovaquone (メプロン)750 mg PO 1日2回 21日間


●治療副作用
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・予防投与ではST合剤は100%予防できるが、
 ペンタミジンは5-10%/年で予防不可能
・ST 合剤中止の原因となる発熱、発疹の過敏反応では、
 その発現時期が決まっている。
 過敏反応は投与後8~13日までの第2週に起こるのが普通

●ニューモシスティス肺炎予防レジメン
予防レジメン:
・バクタ1錠 連日投与  あるいは 2錠分1隔日投与
・ペンタミジン(ベナンバックス)吸入 300mg/1回 を月に1回
・atovaquone 1500mg分1 食後内服

文責 "倉原優"

# by otowelt | 2009-03-18 12:01 | レクチャー

ニューモシスティス肺炎 (カリニ肺炎) その2

●ニューモシスティス肺炎の症状
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Fujii, T. et al. Journal of Infection and Chemotherapy. 2007; 13:1-7


●ニューモシスティス肺炎の診断
・喀痰
 生食吸入で喀痰採取すると、特異度100%、感度55~92%。
Cruciani, M, et al. Meta-analysis of diagnostic procedures for Pneumocystis carinii pneumonia in HIV-1-infected patients. Eur Respir J 2002; 20:982.
 しかし、ペンタミジン吸入予防をしていると、PCPを発症しても
 64%しか陽性にならない。
Levine, SJ, et al. Effect of aerosolized pentamidine prophylaxis on the diagnosis of Pneumocystis carinii pneumonia by induced sputum examination in patients infected wit the human immunodeficiency virus. Am Rev Respir Dis 1991; 144:760.

・BAL
 97~100%の診断率。喀痰から出なければ、これが推奨される。

・画像
 PCPは、典型的には肺門部から両側に広がるGGOが特徴的である。
 しかしながら、AIDS患者に多発嚢胞+GGOを呈することは有名。
 嚢胞以外に、気胸、区域性浸潤影、結節影、胸水などもみられることがある。
Kales, CP, Murren, JR, Torres, RA, Crocco, JA. Early predictors of in-hospital mortality for Pneumocystis carinii pneumonia in acquired immunodeficiency syndrome. Arch Intern Med 1987; 147:1413.
 HRCTはPCPに非常に感度が高い。特にHIV関連の場合はさらに高くなる。
 HIV関連PCPの場合、斑状・結節性のGGOに関しては
 感度は100%、特異度は89%まで上昇。
Hartman, TE, Primack, SL, Muller, NL, Staples, CA. Diagnosis of thoracic complications in AIDS:accuracy of CT. AJR Am J Roentgenol 1994; 162:547.

※なぜ嚢胞ができるのか??
 空洞や囊胞形成の機序については,血管浸潤による虚血性壊死性変化,
 肺胞マクロファージの産生するTNFや顆粒球エラスターゼ産生などが
 組織壊死を引き起こし,空洞・囊胞形成をきたすと推測。
 可逆性がある囊胞を形成する症例報告が散見されており,
 ニューモシスチス肺炎に伴う末梢気道チェックバルブが関与している可能性も指摘。
・Goodman PC. Pneumocystis carinii pneumonia. J Thorac Imaging 1991 ; 6 : 16-21.
・Marutsuka K, Suzumiya J, Sumiyoshi A. Cavitating pneumocystis pneumonia in an autopsied case of adult T-cell leukemia. Int J Hematol 1992 ; 56 : 233-237.

 混合感染に伴う組織破壊が空洞を形成するとも言われている。
Uwyyed K, et al. Case report : Pneumocystis carinii pneumonia presenting as a solitary cavitating lung lesion in non-HIV immunosuppressed patients. Br J Radiol 1996 ; 69 : 472―475.

・核医学検査
 ガリウム67、インジウム111、テクネシウム99m、インジウム111IgG、
 テクネシウム99mIgGなどが診断に使われる。ガリウム67シンチは
 感度100%、特異度50%以下。肺にびまん性の集積がガリウムで
 みられた場合、Kramerらは特異度が83%まで上昇、
 Barronらは特異度が86%まで上昇すると報告している。
 エビデンスとまではいかないが、症例報告としてKatialらはAIDS患者の
 PCP再発に際して、両側肺尖部にガリウムの集積がみられるとしている。 J   
   Nucl Med 1992;331(1):81-87.
   J Nucl Med 1994;35:1038-1040.
   Radiology 1989;170:671-676.
   J Nucl Med 1994;35:1034-1037.


・β-Dグルカン
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文責 "倉原優"

# by otowelt | 2009-03-18 11:56 | レクチャー

ニューモシスティス肺炎 (カリニ肺炎) その1


●ニューモシスティス肺炎の歴史
Millerによれば、pneumocystis jiroveciiは
1909年Chagasによって発見された。
Robert F.Miller:Pneumocystis carinii in non-AIDS patients.
Current Opinions in infectious diseases.1999 Aug;12(4)371-7


人間に対する病原体として認識されたのは、ヨーロッパで1930年代から1940年代
にかけて、未熟児や低栄養状態の子供に、間質性肺炎が多発した事がきっかけ
だった。第二次世界大戦後、栄養状態の改善によってこの現象は一旦消えたが、
1960年代以降、新たに先天性免疫不全の子供や、悪性腫瘍に罹病及び治療を
受ける成人の間で、この肺炎が多く認められる様になった。
そして臓器移植の普及に伴って、更に多く観察された。1981年、アメリカで
AIDSが報告されると、この疾患はAIDS患者に多く見られる日和見感染として、
注目される様になった。


●総論
・pneumocystis cariniiは、現在pneumocystis jiroveciiと呼ぶ。
in honor of the Czech parasitologist Otto Jirovec, 1999
・リボソームとミトコンドリアDNAの性質により、現在は真菌に分類。
・細胞壁にエルゴステロールを欠く
・4歳までに75%がpneumocystis jiroveciiに感染している。
 つまりほとんど常在菌である。
Pifer, LL,et al. Pneumocystis carinii infection: evidence of high prevalence in normal and immunosuppressed children. Pediatrics 1978; 61:35.
・PCR 法を用いた検討では,肺癌などの呼吸器疾患患者の
 18% で肺内にP. jirovecii のcolonization を認めており,
 とくに副腎皮質ステロイドを投与されている患者で高頻度で
 あったと報告されている。
Maskell NA, et al. Asymptomatic carriage of Pneumocystis jiroveci in subjects undergoing bronchoscopy : a prospective study. Thorax 2003 ; 58 : 594-597.

●AIDSとの関連
・AIDSにおける肺感染症で最も多いのがPCPである。
N Engl J Med 2004 Jun 10;350(24):2487-98)
・AIDS全体の 40%はニューモシスチス肺炎で発症する
・急性呼吸不全がAIDS患者のICU入室の50-75%をしめる。
・ACCの症例では、80%がニューモシスチス肺炎を発症後に、
 初めてHIV 感染が判明(“いきなりエイズ“)。
・急性間質性肺炎や異型肺炎と誤診され診断や治療が遅れるケースが多い。
 一方non HIVでは90%以上でステロイド使用中で平均12週間の投与期間。
・細菌性肺炎の多くが、数日あるいは長くても1~2週程度の病歴で
 あるのに対し、ニューモシスチス肺炎では、1~2ヶ月前から咳が続いていた
 などの長い病歴を訴えることがある。
・初発症状として自然気胸を起こすことがあり。
・AIDS に合併したニューモシスチス肺炎ではBAL 中好中球分画の
 上昇がある例で人工呼吸管理を要する重症例・死亡例が多い
Azoulay E, et al. AIDS-related pneumocystis carinii pneumonia in the era of adjunctive steroids. Implication of BAL neutrophilia. Am J Respir Crit Care Med 1999 ; 160 : 493―499.
・BALF中IL-8が重症度,予後と相関することが報告されている。
Benfield TL, et al. Neutrophil chemotactic activity in bronchoalveolar lavage fluid of patients with AIDS-associated pneumocystis carinii pneumonia. Scand J Infect Dis 1997 ; 29 : 367―371.
・その機序としてPneumocystis jiroveciiの菌体がマクロファージや
 上皮細胞,血管内皮細胞等を活性化し,TNF-α,IL-8 等の好中球
 活性化,遊走因子を産生することにより好中球が肺局所に集積
 して肺傷害を引き起こす病態が推定。
Benfield TL. Clinical and experimental studies on inflammatory mediators during AIDS-associated pneumocystis carinii pneumonia. Dan Med Bull 2003 ; 50 : 161―176.

●膠原病との関連
・PCP はリウマチ性疾患患者に対する免疫抑制療法下における
 重篤な日和見感染症であり、非AIDS患者のPCPはAIDS患者に
 比べ急激に悪化しやすい。
Chechani V, Bridges A : Pneumocytis carinii pneumonia in patients with connective tissue disease. Chest 1992 ; 101 : 375.
・従来指摘されている膠原病合併PCP発症の危険因子は
 ステロイド投与,肺疾患の存在,リンパ球数(CD4)減少がある。
Kadoya A, et al : Risk Factors for Pneumocystis carinii Pneumonia in Patient with PolymyositisDermatomyositis or Systemic Lupus Erythematosu. The Journal of Rheumatology 1996 ;237 : 1186―1188.
・リウマチ性疾患患者の4.1% にPCP が合併するとの報告がありその頻度は決して少なくない.
Ward MM, Donald F : Pnumocystis carinii pneumonia in patients with connective tissue disease : the role of hospital of experience in diagnosis and mortarity. Arthritis Rheum 1999 ; 42 : 780.
・RA においてMTX 投与はPCP発症の危険因子と考えられる。
 MTX は葉酸の誘導体で,化学構造が類似しているため
 葉酸代謝を阻害する代謝拮抗薬であるが,ST 合剤の成分
 であるtrimethoprim はMTX 同様に葉酸代謝を阻害し
 一方sulfamethoxazole はMTX の排泄を障害することにより
 骨髄抑制の危険性が増大するとされ,MTX 投与中のRA患者に
 対してST合剤予防投与は通常避けられている。
・海外ではインフリキシマブ使用中RA におけるPCP合併の報告
 は少ないが,本邦のインフリキシマブ使用RA全例調査報告
 (1000例での解析)によればPCP発症は6例である。

文責 "倉原優"

# by otowelt | 2009-03-18 11:50 | レクチャー

VAPと口腔ケア

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人工呼吸管理をするだけで、1日ごとに1%の肺炎リスクが
上昇すると言われている。

ICUにおける口腔ケアのVAP減少のエビデンスはあるのか??

Oral Care Reduces Incidence of Ventilator-Associated Pneumonia in ICU
Populations. Intensive Care Med 2006,32:230-236.




人工呼吸器関連肺炎(VAP)は致死率が高く、CDCは口腔ケアの
重要性を強調している。上記論文は、歯科医師がICU に介入して、
口腔ケアがVAP 予防に有効であるかを調査した結果、口腔ケアは
口腔内におけるVAP 原因菌を減少させ、ICU -VAP発症を減少
(ケア群3.9%VS非介入群10.4%)させ、VAP発症を減らすことが判明。


そのほかの論文として、DeRisoら(1996)は、ICU患者353例を対象に
無作為化比較試験を行い、「洗口30秒(0.12%クロルヘキシジン)
+標準的口腔ケア;1 日2回」によるケアで、呼吸器感染症の発生が
69%減少したことを報告した。

Stiefelら(2000)による非比較介入研究では、
「歯がある患者:小児用歯ブラシ、歯磨き粉、生理食塩液、
口腔保湿ゲルおよびリップクリーム(ワセリン);1日2回」
「歯がない患者:発泡スポンジブラシ、生理食塩液;2~6時間ごと」の
ケアによって口腔状態が改善し、ケアに要する時間が延長しないこと、
スポンジブラシ不使用によりコストが削減されることなどが示された。

Schlederら(2002)の検討は後向き観察研究であるが、4年間
人工呼吸器を装着しているICU患者10例において、
「吸引、吸引式歯ブラシによる歯と舌のブラッシング、
水とアルコールフリーの含嗽液、口腔保湿剤、リップクリーム」を用いたケア
によってVAPの頻度がプロトコール実施前5.6/1,000人工呼吸日数から
実施後は2.2/1,000人工呼吸日数に減少したことを示した。

Fourrierら(2000)の前向き無作為化介入試験では、ICU患者60例に
おいて、「重炭酸等張液で洗口後、0.2%クロルヘキシジンゲル;1日3回」
のケアによりデンタルプラークの減少、VAPの罹患密度減少、
院内感染の減少傾向が認められた。

そのため、今ではICUの口腔ケアは当たり前のものとなっている。

実際の口腔ケアは、基本的に、出血傾向がある患者以外は歯ブラシを用いて
ブラッシングを行う。口腔内細菌がバイオフィルムで保護されていることを
ふまえると、機械的な清掃を行うことが重要になる。
出血傾向や口腔粘膜に障害のある患者ではスポンジブラシを使用する。
ブラッシングの次に重要なのは洗浄で、ブラッシングにより歯面から
除去された細菌を洗い流す。洗浄液は、水道水を使用するが、蒸留水や
グルコン酸クロルヘキシジンが含まれる市販の洗口液でもよい。
洗浄液などは口腔内に残らないように、確実に吸引を行う。
そのほか、舌の清掃も行う。舌苔が多い場合は専用の舌ブラシを用いるのが
望ましいが、スポンジブラシでもよい。また、口腔ケアの前後には綿球で
口腔内を清拭しながら、ミラーを用いて口腔内のアセスメントを行う。


今月のJ Intensive Care Medより、
安価口腔ケアでも大丈夫との報告。

The Impact of a Simple, Low-cost Oral Care Protocol on Ventilator-associated Pneumonia Rates in a Surgical Intensive Care Unit
Journal of Intensive Care Medicine, Vol. 24, No. 1, 54-62 (2009)


目的:
 この研究の目的は、単純で安価な口腔ケアプロトコルが
 ICUにおけるVAPを予防できるのかどうかを調べたものである。
 24ベッド(surgical/trauma/burn ICU)にて実施。

患者:全員人工呼吸器を装着しておりICUに入室した患者。

介入:
 患者に0.7%モノフルオロリン酸ナトリウムペーストで歯磨きをおこない
 水で洗浄、引き続いて0.12%クロルヘキシジンを投与。
 これを1日2回おこなった。

結果:
 口腔ケアによって、4158ventilator daysのうち10の感染症が発生。
 これは1000 ventilator daysあたり2.4と比べると低い。
 つまりは平均よりも46%減少したことになる。(P = .04)
 コストはアメリカドルで有意に減少。

結論:
 単純で安価な口腔ケアプロトコルは、ICUにおけるVAPを予防できる。

# by otowelt | 2009-03-18 08:44 | 感染症全般

肺血症患者で、ウリナスタチンにチモシンα1を併用すると生存改善の可能性

J Intensive Care Medより。
チモシンα1についての話題。
チモシンα1は、胸腺組織で産生される胸腺因子の一つで、
免疫機能の維持に重要な役割を果たしているT細胞の
分化誘導作用を有するポリペプチドである。

A New Immunomodulatory Therapy for Severe Sepsis: Ulinastatin Plus Thymosin α1.
J Intensive Care Med 2009 24: 47-53


目的:
 肺血症患者においてウリナスタチンにチモシンα1を併用した
 免疫調節療法の効果について調べる。

方法:
 56人の敗血症患者を治療群とプラセボ群にランダム化。
 Acute Physiology and Chronic Health Evaluation II scores、
 臨床データ、リンパ球分画、免疫インデックス、凝固系データが
 ICU入院3,8,28日目に採血された。

結果:
 治療群は78%が累積生存。プラセボは60%であった。この結果の違いは、
 Acute Physiology and Chronic Health Evaluation II scores
 とリンパ球、凝固系、サイトカインレベルの早期改善がみられたためと思われる。
 
結論:
 肺血症患者においてウリナスタチンにチモシンα1を併用した
 免疫調節療法では、生存率の改善がみられる可能性があるため
 臨床試験の実施がのぞまれる。

# by otowelt | 2009-03-17 14:13 | 集中治療